第20話 働け魔王ども!
「だから、あれは絶対に能力者の仕業なんだ!」
昨日の夜帰ってきてから、ヴェルトはずっとこの調子だ。彼の上司が昨日、亡くなったらしい。
「あれは酔っ払いの運転する車がたまたま部長さんの所に突っ込んできた事故なんだろ? 警察もそう言ってる。ミュータント能力絡みじゃない以上、俺達の出る幕は無いんじゃないか?」
「いやだから、私は見たんだよ! 車が突っ込んでくる直前、部長の左手の甲に紋章が浮かび上がってたのを! あの紋章は私以外に見えている様子は無かった。だから能力によるものだと見て間違いない!」
「でも、その紋章を見たのは一瞬だけなんでしょ? それに死んだ後には紋章は消えていた。これじゃ誰も、紋章があった事を証明できないじゃない。能力による事件をでっちあげてまでお金が欲しいの?」
「君じゃないんだから私がそんな事をするはずが無いだろう! とにかく、あの事故は能力者によって引き起こされた物だ。そう考えて間違いない!」
普段は大人しいヴェルトが、今回ばかりはかなり強く意見を主張している。ヴェルトが嘘を吐くとは思えないし、やはり能力者が絡んでいるのか……?
「おー、朝から騒がしいねぇ。どうかしたの?」
「ヤマか。聞いてくれ! 実は昨日……」
俺達の騒ぎを感じ取ったのか、押し入れからぬるりとヤマが現れた。ヴェルトから事情を聴いたヤマは、コクコクと頷いて話し始める。
「うーん、やっぱり何か匂うね。これは閻魔大王の勘だけど、ヴェルトの言う通り能力者が絡んでると思うよ」
「ほらやっぱり! ヤマだってこう言ってるじゃないか!」
「そうは言っても今回の事件、見かけ上は完全な事故だ。警察の力は借りられそうにない。それに、仮に能力者が絡んでいたとしても、どうやって犯人を見つけ出すんだ?」
エビリスの指摘は最もだった。だがヴェルトの方にも、何か考えがあるようだ。
「それなんだが、部長はかなりのクソ野郎でね。私含め、多くの部員たちから恨まれていたと思う。それに、事故が起きたのは部長が会社を出てからすぐの事だ。だから私は、犯人は保馬支店……特に営業部の中にいるんじゃないかと睨んでいる」
「成程な。その線は結構ありそうだ。でもよォ、それならヴェルトが探りを入れれば良いだけじゃねーか?」
レクスがそう言った途端、ヴェルトの表情が変わったのが分かった。
……何か来るッ! 身構えずにはいられなかった。
「……会社の中に犯人がいるかもしれないと言うのなら、君達がやるべき事は一つ。『潜入捜査』するしか無いだろう!?」
「潜入捜査ってまさか……俺達に保馬支店に就職しろって言うのか⁉」
「当たり前だ! 常々思っていたんだが、私一人にだけ働かせておきながら、君達は金遣いが荒すぎるんだよ! いつまでニートでいるつもりなんだ! あァ!? トラブルにプリンに美容グッズ……そういうのはな、自分で働いて得た金でやってろ!」
ブチ切れたヴェルトのお説教は、魔王荘のニート四人に深々と突き刺さった。
「確かに、ヴェルトの言う通りだね。という訳で君達の次の任務は、株式会社HUTO保馬支店に潜入して、情報を集めながら労働する事! 働けニート共!」
「嘘だろオイ……」
俺達に課された新たな任務は、まさかの就活だった。
~~~
「よし君達、スーツの準備はできたね。それじゃあ早速、今回の作戦を説明する」
急ぎで就活のためのスーツを用意した俺達は、皆で正座してヴェルトの話を聞く。
「私の勤める保馬支店は、一階が豆腐直売店、二階と三階が事務フロアになっている。ちょうど一階の直売店が人を二人ほど必要としているから、君達にはそこに就職して情報を集めてもらう」
「ちょっと待ってくれ。営業部は事務フロアの方にあるんだろ? 一階の直売店に潜入しても意味ないんじゃないか?」
「その点は心配ないよ、アズト。やってる事が別々とはいえ、同じ会社なんだ。それなりに交流があるから、そこで探りを入れてほしい。それに、営業部以外……それこそ直売店の方に犯人がいる可能性も捨てきれないしね」
直売店と事務方で交流があったなら、直売店側にも部長を恨んでいる人がいる可能性はある。流石はヴェルト、中々の推察力だ。
「今どれくらい人が集まっているかは分からないけど、まずは新規募集の二人に選ばれなくちゃならない。多分面接があるだろうから、そこで何としても新規募集枠に滑り込む事。これが君達の最重要事項だ。いいか、絶ッ対に奇行に走るんじゃないぞ」
ヴェルトは「絶対」の部分をやや強調して言った。
……まぁ破天荒や散財癖がいるんだし、そう言うのも当然か。
「いいかい君達、これは捜査であると同時にチャンスなんだ。ニートという堕落から脱し、ちゃんとした社会人としての一歩を歩みだすチャンスだ! さぁ今こそ立ち上がれニート共! 己の手で世界を変えるんだッ!」
「なんか今日ヴェルトのテンション高くね?」
「ようやく自分以外に魔王荘の稼ぎ手が生まれるかもしれないから興奮してるんじゃない?」
魔王荘は今まさに、大就活時代を迎えようとしていた……。
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