第15話 邂逅、指名手配犯

「……エデンの実について知っている事? 一体どういう事だ?」


「風の噂で聞いたんだ。この保馬市でエデンの実が大量に発見されたってね。エデンの実は貴重だからね。売るもよし、能力者の仲間を増やすもよし。手に入れない理由が無いだろ?」


 エデンの実が大量に発見された? あれは貴重品じゃなかったのか?

 そう思うと同時に、俺の脳裏には例の白コートの男が浮かんだ。ヒョウにエデンの実を分け与えた彼が何か絡んでいるのか……?


「そこのオッサンは警察なんだよね? だったら何か知ってるんじゃないの? 教えてくれよ」


「俺の口から指名手配犯であるお前に言う事は何もない。大人しく捕まってもらおうか」


 リンドウは拳銃を取り出し、カイキに狙いを定める。


「……はぁ。交渉決裂か。じゃあお前ら全員死ね」


 カイキの豹変は一瞬だった。

 彼が右手を前に出すと、掌を中心として風が発生し始めた。それは一瞬のうちに竜巻になり、俺達の方に飛んできた。

 竜巻の進行方向の真正面にいたのはヒスイだった。


「ヒスイ危ない!」


 俺は咄嗟に彼女を庇い、共に影の中に避難した。


「あ……アズトさん、ありがとうございます」


「大丈夫だ。だがアイツ、店の中だってのに容赦なく攻撃してきやがった。相当やべぇな……」


 初撃を避けられたカイキだったが、その表情は少しも変わっていなかった。


「チッ。一番弱そうなの狙ったのに避けられた。まぁいいか、どうせ全員殺すんだし」


 そんなカイキの発言を聞いたクリエの表情が一変した。彼女は見たことも無い程の怒りの形相を浮かべ、カイキに接近する。


「おいお前、何してくれてんだ! ハムちゃんが一番弱そうだったから最初に狙った? ふざけんな! あの子は私の友達だ。私の友達に手を出すな!」


「へぇ、友達だったんだ。でもそれさ、俺に関係無くね?」


「お前に無くても私にはあるんだよ! 私は友達と仲間に手を出したヤツには絶対に容赦しないからね!」


 クリエは隠し持っていたナイフを取り出し、カイキに攻撃する。一方のカイキも、再び竜巻を発生させて応戦する。


「俺達も応戦しないと!」


「おいヴェルト! 羽牟は戦闘向きのミュータントじゃないから、お前が安全な所まで連れてってくれ! コイツは俺とクリエ、アズトで抑える! 店内の一般人の避難も任せたぞ!」


「相変わらず人使いが荒い……。けど任された!」


 ヴェルトはヒスイを連れて、店内の客の安全確保に動き出した。そして俺とリンドウは、クリエに加勢する。


「この男はかなりヤバい……! 手は抜けねぇな。『ガンズ・マニピュレーター』!」


 リンドウはカイキ目掛けて、銃を三発放つ。弾丸は軌道を大きく曲げ、正面、右、左からカイキに襲い掛かった。

 ガンズ・マニピュレーター。リンドウのミュータント能力は銃の弾丸操作か。シンプルに強いタイプの能力だな。


「無駄だよ。『スピン・ブレイカー』出力最大だ!」


 だが、カイキは一枚上手だった。リンドウが銃を構えた段階で、能力の出力を上げていた。

 右手の竜巻はより巨大になり、あらゆるものを吸い込んでいった。弾丸も本来の軌道から逸れ、竜巻の中に吸い込まれてしまった。

 俺達でさえ、必死に踏ん張らなければ吸い込まれてしまいそうだ。


「チッ。中々やってくれるじゃない……」


「これで終わりだと思ってる? そうだったら大間違いだ!」


 俺達が攻撃を仕掛けるより早く、カイキは再び竜巻を発生させた。売り物の服やハンガーラックさえも吸い込んでいく。

 さらに恐ろしい事に、竜巻に吸い込まれた服やハンガーラックは、無残に切り裂かれてしまった。ハンガーラックをも切り刻むあの風、巻き込まれたら相当ヤバいな。


「アイツの能力は風を操る物なのか……? 近づかなくちゃ殴れないのに、竜巻が危険すぎて近づけねぇ!」


「二人とも聞いて! 私に案がある」


 カイキの攻撃に手間取っていると、クリエが声を上げた。


「案だと?」


「そう。攻撃の事は気にせず、とにかくアイツに接近して攻撃を仕掛けて!」


「何言ってるんだ! そんなのは作戦じゃねぇ、ただの特攻だ!」


「大丈夫だから! とにかく攻めまくって!」


 クリエはそう一喝すると、ナイフを構えて容赦なくカイキに斬りかかっていった。


「まぁ、本人が恐れず突っ込んでるなら大丈夫だろ。『アンウェイ・ワールド』!」


「俺も銃を撃ちながら接近の機会を伺う。ここは協力するぞ!」


 クリエは右から、俺は左から、リンドウは背後からカイキを狙う。


「チッ、うざったいな。そんなに吸われたいなら吸い込んでやるよ!」


「悪いが俺達は吸い込まれるために近づいた訳じゃない。お前をぶん殴るためだ!」


 俺は影の腕でカイキの右手を抑え込み、顔に一発拳を入れる。それと同時にクリエもナイフを持って接近し、リンドウも銃を撃った。


「中々の連携だ。だが! 俺の竜巻からは逃げられねぇ!」


 カイキは影の腕に抑えられながらも、右手で能力を発動していた。下から竜巻が発生し、接近していた俺は足を斬られてしまった。


「……ッ!」


 リンドウの銃弾も吸収され、さらに俺も吸い寄せられて顔面をズタズタに斬られる。


「はい、一人処理完了」


 あまりの痛みに力が抜けた俺は、一気に竜巻に吸い寄せられてしまう。風が俺の腹を切り裂き、臓物が飛び出した。

 ……俺は二度目の「死」の訪れを悟った。


 ~~~

 ヤマのメモ

 能力名:ガンズ・マニピュレーター 能力者:猿飼リンドウ

 能力:自身が放った銃弾を自在に操作する。軌道から弾速まで自由に変化可能。ただし銃が無いと能力を発動できない。

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