第14話 奇跡の再会とショッピング
翌日。俺とヴェルト、クリエはショッピングに出発した。
「ここ数日で分かったとは思うけど、魔王荘は死ぬほど金が無いから。できるだけ節約していくぞ」
「そんなケチ臭い事言わなくても良いじゃない。アズトにとっては初の買い物なのよ? もっと豪勢に買っちゃっても良いんじゃない?」
「いや、俺はそこまで服にこだわりがある訳じゃないから何でも良いんだが……」
俺達はタクシーに乗り、目的地へと向かう。
「本当はウオンで買い物できたら良かったんだけど……この前の騒動のせいで今は開いてないみたいだ。仕方ないからユニシロに行こうか」
「ユニシロねぇ。もっと高級なブランドが良かったけど……まぁ本人が何でも良いって言ってるならそれで良いかしら」
「なんで君はいつも無駄に散財しようとするんだ……たまには稼いでる側の気持ちにもなってくれないか。アズトもそう思うだろ?」
「あぁ……まぁそうだな。正直五人分の生活費を一人で賄うのは大変どころじゃないと思うぞ……」
タクシーの中で話して分かったが、この二人、想像以上にぶっ飛んでる。
クリエは実は、レクスと同等かそれ以上に魔王荘の出費の要因になっているらしい。確かに、物置部屋に散らかった大量の美容グッズがそれを物語っているな……。かなりの散財癖を持つ、魔王荘の出費頭だ。
一方のヴェルトは、会社の上司がかなりブラックらしい。株式会社HUTOの保馬支店で働いているようだが、彼の部長の課すノルマが相当きついようで。その割に給料は貰えないので、ヴェルトの胃は限界を迎えようとしているようだ。
「……魔王荘ってまともな奴いないのか?」
「まぁ腐っても全員魔王だからな。エビリス辺りはここに来てからだいぶ丸くなったけど、それでもやっぱり皆、本質は魔王なんだよ。良くも悪くもクセが強い。それが魔王という生き物だって、ヤマもよく言ってた」
「それにしたって、レクスとかはヤバすぎる気もするが———」
そこまで言った所で、俺はタクシーの外にあるものを発見する。
「おい運転手! 今すぐ停めろ!」
「どうしたアズト、何かあったのか⁉」
「緊急事態だ。まさかこんな所にヤツがいるなんて……!」
完全に想定外だ。こんな所で出会うとは思っていなかった。
俺はタクシーを降り、全速力でヤツの元へ走る。
「ちょっとアズト!? いきなりどうしたのよ? もしかして敵?」
「俺は何度もコイツと戦ってきたが、内なる欲望を抑えきれなかった。魔王たるもの、己を制御しなければならない。その点では、コイツは敵と言えるかもしれないな」
俺は街を駆け抜け、ある店に入る。
「……まさかこっちの世界でも会えるとは思わなかった。また出会えるとはな……我が愛しの『プリン』よ!」
「…………は?」
「…………はぁ?」
プリン専門店ブディーノ。この店の側をタクシーで通った時から分かっていた。窓の隙間から僅かに入って来たこの匂い……間違いなくここのプリンは至高だ。
「……アズト、敵がいたんじゃないのか?」
「俺は昔からプリンが大の好物でな。何度も部下達に頼んで『至高のプリン』を作らせていたものだ。こっちの世界には無いのかと思っていたが、ちゃんとあるみたいで安心したよ! さぁ久しぶりだね我が愛しのプリンよ。こっちの世界のプリンはどんな物なのか、食べてみようじゃないか」
俺は美味そうなプリンを十個ほど選び、購入する。
「合計で一万円になります」
「迷いなんて無い……勿論買うぞ!」
「待て待て待て迷えよアズト」
幸いにも先日の一件で金を貰っていたので、俺は迷うことなく至高のプリンを買った。
「ふぅ、待たせてすまんな。さぁ、改めてユニシロに向かおう」
「……アズト、君も十分イカれてるよ。私は君がそのうちクリエ以上の散財家になりそうで怖い」
「失礼ねヴェルト。それだと私が散財家みたいな言い方じゃない。こう見えて私は倹約家なのよ」
「君は散財家だろ。今着てる服の値段でも数えてみたらどうだ」
「十万」
「二度と倹約家を名乗るな」
俺は買ったプリンを食べながら、タクシーでユニシロへと向かった。
……めっちゃうめぇ。
~~~
「久々に来たわねー、ユニシロ! レクスのクソダサTシャツ買った時以来かしら?」
「あの服買ったのここだったのかよ。こだわらないと言ってもあれはゴメンだぞ?」
ユニシロは比較的安い値段で服を売っている衣料店らしい。レクスの着ていたようなネタ色の強い服から、実用的な服まで、レパートリーに富んでいる事で有名なんだとか。
「何でも良いって言われると逆に悩むのよねー。アズト、何か良いものがあったら言ってちょうだい。私がそれをベースにコーデを考えるから」
「オーケー。……お、あの服何だ? 面白そうだな」
「あれはパーカーって奴ね。もしかして気に入った?」
「あぁ。特にこのデカいポケット、プリンを溜めておくのに役立ちそうだ」
「君はカンガルーか」
試着ができるというので、試しにパーカーを身に着けてみる。
大きいポケットに加え、フードも付いている。さらに結構温かく、この世界の寒さにも耐えられそうだ。ヴェルト曰く、これから寒くなってくるらしいので、パーカーは割とアリかもしれないな。
「それじゃ、この黒パーカーをベースに考えてみるわね。これに合いそうな服、探しに行くわよ」
クリエを先頭にして、ユニシロの中を歩き回る。俺も合いそうな服を探して店内を見回してみる。
……その最中、何だか見覚えのある二人組の影を見つけた。
「なぁ、あれって……」
「なッ⁉ お前らは魔王荘!? どうしてこんな所にいるんだ?」
どうやら相手側も気づいたようで、やや警戒した様子で近づいてくる。
保馬市警ミュータント犯罪対策課の刑事、リンドウとヒスイだ。
「それは私達の台詞だ。君達は職務中じゃないのかい? どうしてこんな所に?」
「……まぁ何だ、お前らも知ってるとは思うけど、俺達は基本的に暇なんだよ。ミュータント犯罪なんて早々起きないしな。だからこの辺りの見回りも兼ねつつ、羽牟の潜入用の衣装を買いに来たって訳だ」
ヒスイもコクコクと頷いている。サボってたという訳じゃなさそうだ。
「潜入用の衣装ねぇ。それなら私が選んであげようか? ミュータント犯罪に関わる奴らは大体むさ苦しい男ばっかりだから、同性のお友達ができて嬉しいんだ。お友達として、私が服を選んであげても良いでしょ?」
「く、クリエさんが、私の友達……?」
「そうよ。ミュータント犯罪の世界なんて男しかいないんだから。仲良くやりましょ?」
この時のクリエは、打算抜きに心の底から笑っているように見えた。
「……はい! クリエさん、ありがとうございます」
「それじゃ早速、服探しに行きましょ!」
刑事二人も合流し、ますます楽しいショッピングになるかと思っていた。だが。
「……そこの五人。今、『ミュータント』って言ったよね?」
突然、男に声をかけられた。帽子を目深にかぶった怪しい男だ。
「……お前、能力者か?」
「単刀直入に言う。『エデンの実』について知ってる事を全部話せ。話さないなら全員沈める」
エデンの実……ヒョウも食べたという、後天的に能力を得られる実の事か。
男は帽子を脱ぎ捨て、俺達を睨みつける。その鋭い赤黒の瞳は、まるで獲物を狙う獣のようだ。
「……コイツは!」
「リンドウ、コイツが誰だか知ってるのか?」
「あぁ。コイツは右堂カイキ、四年前に殺人事件を起こし、今日までずっと逃げおおせてきた指名手配犯だ」
右堂カイキは右手に持ったナイフをペロリと舐める。その行動からは、彼の得体の知れない狂暴性が漏れ出ていた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます