第11話 報酬金と謎の男
「……ヒョウが手に入れた金がどこかに消えただと?」
エビリスとレクスから話を聞いた俺は、その信じがたい内容に思わず聞き返してしまう。
「アズト、もう一度確認するが、奴を倒した時に奴は金を持っていなかったんだよな?」
「あぁ、それは間違いない。だとしたら、能力解除と同時にこの中のどこかに落とされたってのが自然だと思うが……クレイジーバードで探して無いなら、本当に無いのかもな」
だとすると、本当に金はどこに消えてしまったんだろうか。
「まぁ、今はこれ以上考えても埒が明かないだろう。リンドウの奴が取り調べで情報を持ってきてくれるはずだ。今はとりあえず、魔王荘に戻るぞ」
……モヤは残るが、エビリスの言う通りだ。今はあまりにも情報が少なすぎる。まずは魔王荘に戻って、ヤマとクリエに任務終了を知らせなくては。
「……というか、ここから魔王荘までってかなり遠いよな。エビリス、もう一回馬かホッピングになって……」
「断る。あれ疲れるんだよ」
俺達は一時間近くかけて、歩きで魔王荘まで帰る事になった……。
~~~
「お、三人とも無事だったか。今回は流石にヤバいかもと思って少し焦ったけど、杞憂だったみたいだね。流石は魔王!」
魔王荘に戻ると、ヤマが出迎えてくれた。そして中にはクリエと……何故かヴェルトもいた。
「……ヤマから『今回はちょっとヤバいかもしれない』って連絡が来たから仕事を早退してきたんだ。二日連続の早退だから明日からが怖いよ……」
「ヴェルト、お疲れ様……」
「とりあえず三人ともご苦労様。水でも飲みながら、今回の任務について教えてくれるかい?」
ヤマが出してくれた水を飲みながら、俺達は今回の任務の顛末を説明した。
「……成程ね。それにしても、とんでもない能力もあるものだね。その『ヒョーイ・ボーイ』ってミュータント、放置してたら絶対ヤバかったでしょ。三人ともナイス!」
「…………なぁ、ちょっと待ってくれないか?」
説明を聞いたヴェルトは、青ざめた顔で俺達を呆然と眺める。
「ヒョウが人から奪い取った車を破壊。ウオンの正面入り口扉を粉砕。ウオンの外壁を破壊。……犯人を捕まえたのは良いが、どんだけぶっ壊してくれてんだ⁉ あぁまた魔王荘の金が吹き飛んでいく……!」
「まぁまぁヴェルト、落ち着きなさいよ。こういう時はミュータント犯罪対策課が保証してくれる仕組みでしょ? そこまで焦る事ないじゃない」
「それもそうだが……それとは別にリンドウが金をタカってくるんだよ! 『俺が上に上手く話して保証金出してもらってるんだからさ~』みたいな感じで毎回金をねだってくるんだ! このクソ貧乏な魔王荘にとっては、それすらも大打撃な事が何故分からない⁉」
やけにリアルなやり取りに、リンドウもそれなりに苦労してるんだな……と察してしまう。中間管理職とは辛いものよ。魔王はそれをこき使う側だが。
「はいそこまで! 最悪君達は雑草食べてれば生きられるんだから、お金の心配はしすぎない! とりあえず、アズトとエビリス、レクスにはオレから報酬金をプレゼントだ」
「報酬が出るのか⁉ そいつは嬉しいな!」
俺とエビリス、レクスはヤマから茶封筒を渡される。封を開けて中を確認すると、一万円札が十枚入っていた。
「……少なくないか?」
「アズトにはまだ説明してなかったっけ。この魔王荘はね、家賃がタダなの。その代わりにミュータント犯罪を解決してもらってる訳だから、その時点でもう報酬は支払ってるみたいな物なんだよね。だからそれだけでも貰えるだけありがたいと思ってもらいたいなぁ~」
ヤマはそう言うが、もしかしたら魔王だった俺の感覚がおかしいだけで、十万円というのはこの世界ではそれなりなのかもしれない。あんな命がけの戦いを繰り広げたんだ、それなりの額は貰えているはず……。
「ヴェルト、この世界で十万円ってどうなんだ?」
「私の月収の三分の一くらいだね。ちなみにミュータント犯罪は中々起きないから、実質それが君達の月収みたいなものだよ」
「…………嘘だろオイ。って事はただの会社員の給料にも負けてるのかよ」
「まぁ、本来地獄行きの所を転生させてあげてる時点で破格の待遇だし? 家賃タダだし? これぐらいでも許されるでしょ! それじゃオレはそろそろ冥界に戻るから! アディオス!」
俺が報酬の安さに気が付くと同時に、ヤマは押し入れの中に戻って冥界へと逃げて行った。逃げ足の速い閻魔大王め……。
「あぁそれと、その給料の半分は魔王荘全体の資金として徴収することになってるんだ。だから申し訳ないけど、君達の手元に残るのは五万円だよ」
「何!? そんなの聞いてないぞ!」
「極限の貧乏生活を強いられる。それが生前罪を犯した私達魔王に課せられた罰って事よ、アズト」
「最悪だ……」
~~~
刑事リンドウとヒスイが魔王荘を訪れたのは、ヤマが帰ってから二時間ほど経った後の事だった。
「待たせたなお前ら。ヒョウの野郎の取り調べが終わったから、色々と共有しに来たぜ」
「アイツは色々と気になる事が多かったからな。早く教えてくれよ!」
リンドウとヒスイは椅子に腰かけ、分かった事を教えてくれる。
「まず、奴の脱獄の経緯だ。ムショの監視カメラの映像を取って来た。これを見てくれ」
リンドウはある映像の映ったパソコンを俺達に見せてくる。
そこに映っていたのは、理解しがたい物だった。
牢獄に一人呆然と佇む物憑ヒョウ。突如として、牢獄の壁が溶け始めた。壁はドロドロのコンクリートになってしまい、空いた穴から白いコートを着た青年が姿を現す。
音声が無いため何を言っているかは分からないが、青年は不思議な模様の果物を取り出した。
「これ……『エデンの実』か!」
「エデンの実……?」
「非能力者が後天的に能力を得る方法の一つだよ。素質のある者がエデンの実を食べれば、ミュータント能力に覚醒する。ただ、いつどこに現れるか分からないから希少価値が高いはずなんだが……」
エデンの実を食べたヒョウは、近くにあった雑誌に触れる。すると彼の体は雑誌に吸い込まれていった。ヒョウが能力を覚醒させた事を確認した青年は、開いた穴からどこかへと消えていった。
「獄中で突然能力に目覚めるなんて変だと思ったら……やっぱり外部からの手引きがあったのね」
「だが、エデンの実は超貴重品だ。そんな物をわざわざ死刑囚に食べさせるか……?」
「この青年が何を考えているかは分からないが、タダで実をプレゼントしたって訳じゃなさそうだ。今度はこっちの映像を見てくれ。ウオンの監視カメラだ」
続いて映し出されたのは、ウオン店内の様子。商品が浮遊しているので、ヒョウが憑依した後だろう。
客たちは次々と出口へ向かって行く。そして誰もいなくなった二階フロアに、さっきと同じ白いコートの青年が現れた。
「コイツ、さっきの……!」
青年が指を鳴らすと、床からバッグが現れた。ヒョウが大金を入れていたバッグだ。
青年は中身を確認すると、逃げ惑う客の中に紛れてどこかに消えていった。
「ヒョウからも証言が取れた。脱獄の手助けをしたのはコイツで、その対価として求められた700万円を彼に届けるために行動してたってな。だが、その男が誰なのかは少しも知らないとよ」
「この男、一体何者なんだ……?」
俺は映像の中の青年をじっと見つめるが、結局何も分からないままだった。
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