第12話 ズル必至の闇鍋パーティー!

「まぁとりあえず、ヒョウの奴について分かった事はこれくらいだな。白いコートの男に関しては、こっちで情報を集める。お前らも一応、ヒョウの脱獄を手助けした危険人物として頭に入れといてくれ」


 一通りの説明を終えたリンドウはパソコンを閉じ、時計を確認した。


「もう四時か。そうだな、折角だし今夜にでも新人歓迎パーティーするか!」


「さっき言ってたやつか。面白そうだな!」


 リンドウは何か美味い物を食べさせてくれると言っていたな。これから美味い物なんてどれだけ食べられるか分からないから、しっかりと堪能しなくては。


「という事でお前ら、何か食べたい物とかあるか?」


「おっ、それなら俺から最高の提案があるぜ?」


「レクス……なんか嫌な予感がするから何も言わないでくれ」


 レクスが不穏な笑みを浮かべて意気揚々と提案してきたので、思わず俺は悪寒が走る。雑草メニューを食べさせようとしてたくらいだし、俺を貶めるためにとんでもない提案をしてくるに違いない……。


「やっぱりよ……魔王なら黙って『闇鍋』だろ?」


「闇鍋……? なぁ、闇鍋って何だ?」


「それはワシが説明しよう。闇鍋とは! 暗闇の中でそれぞれが持ち寄った具材を鍋に入れ、それを食べるというサバイバル! ワシも生前息子とやった事があるが、その時はチョコやショートケーキを入れられた!」


 悪い予感が当たった。完全にヤバい奴じゃねーか。この中では比較的まともそうなエビリスの息子でさえ、鍋じゃあり得ない物を突っ込んでるんだぞ? それをこの狂人集団(主にレクス)がやったら、大惨劇が広がる事は目に見えている。


「へぇ、レクスにしては珍しく面白そうな事言うじゃない。私は賛成ね」


「ワシも息子とやったのが懐かしいな……。久々にやってみようじゃないか!」


「クリエもエビリスも乗り気かよ……。なぁヴェルト、お前は流石に反対だろ?」


「……冷静に考えたら、何が入っているか分からないのは魔王荘の普段の食事と同じだな。しかも、『鍋には合わないけど普通に美味い物』がゲテモノ扱いされるなら、それは普段よりマシだ。今夜の食費も浮くし、賛成しない理由が無いな」


「コイツ、完全に頭が魔王荘にやられてやがる……」


 魔王荘側は俺以外全員賛成。止められるのはもう、刑事組しかいない。


「お前ら本気か? こっちには羽牟もいるんだぞ? 可哀そうだと思わないのか……?」


「……リンドウさん、私頑張りますよ! これはきっと、能力者の世界はこれくらい過酷だって魔王荘の方々が教えてくれてるんですよね? だったら私、頑張ります!」


「お、おう……。羽牟が良いなら、まぁ良いけど……。まぁほとんど賛成してるし、新人歓迎会はここで闇鍋で良いか。それじゃお前ら、五千円ずつやるから好きな物買ってこい!」


 ……なんか流れで普通に決まってしまった。レクスがしめしめといった感じで俺の方を見ている。

 きっととんでもないゲテモノをブチ込んでくるに違いない……最悪だ!


 ~~~


 一時間後。各々鍋の材料を調達して、魔王荘に戻って来た。


「それじゃ、電気消すぜ」


 レクスが電気を消し、ヴェルトがカーテンを閉めた事で、部屋は完全な暗闇となる。


「それではワシが改めて、闇鍋のルールを説明しよう。まず最初に、皆が買って来た材料を全部、鍋に入れてもらう。全員入れ終わったら、運命の時間だ。それぞれ好きな物を器に取って、食べる! ちなみに、一回取った物は戻しちゃダメだぞ」


 説明が終わり、順番に鍋に具材が投入されていく。

 この時点で既にヤバそうだった。レクスの奴は音からしてもうヤバすぎる。どうして具材の中からコオロギの鳴き声が聞こえてくるんだよ。


「あ、スマンスマン! 一匹だけ生きてるのが混じってたみたいだ」


 こんな事言ってる時点で確信犯だろ……。レクス許さん。

 ちなみに俺が買ってきたのはピザだ。……俺もまぁまぁヤバい物入れてるじゃんとは言ってはいけない。


 全員が入れ終わった所で、運命の時間がやって来た。順番に具材を取っていき、いざ実食。


「……んがっ!?」


 一口目からいきなり、口の中に異様な味を覚える。この辛みはまさか……唐辛子!?

 流石に嫌な予感がしてきたので、俺は目を凝らして自分の皿をよく見てみる。影を操るミュータントに目覚めたせいか、夜目が効くようになっていた。


「……嘘だろオイ」


 俺の皿の中に入っていたのは、唐辛子、肉、ゴーヤ、ドリアン、ナマコ、そしてコオロギだった。なんだこの世紀末みたいな内容は。


 これはむしろ、知らなかった方が良かったかもしれない。これを知ったうえで食べるのは、流石に無理がある。


 …………ズルするか?

 今この部屋は真っ暗。俺の『アンウェイ・ワールド』にとっては最高の環境だし、やったとしても誰にもバレないだろう。ここまで来たらデッドオアアライブだ。やるしかない。


 俺は能力を発動し、影の腕でドリアンを掴む。さて、誰に押し付けようか……。

 そう思いながら隣のエビリスを見てみると、思いっきり目を暗視スコープに変形させていた。


(エビリスも思いっきりズルしてるじゃねーかァァァァァ!)


 オマケにエビリスは能力で髪の毛を触手に変化させて、俺の方にゴーヤを押し付けやがった。

 しかもエビリス=ディア、きさま! 見ているなッ! 俺がお前にゲテモノを押し付けないか見ているなッ!


 ……とりあえず、普通に目が見えてるエビリスには押し付けられない。やるならやっぱレクスだな。

 俺は影の腕で、レクスの皿の中にドリアンをブチ込む。


 無事にドリアンを押し付ける事に成功し、次はどうしようかと悩んでいたその時だった。

 俺の皿の中にドリアンが戻っていた。


「……⁉」


 この感じはまさか、⁉ 最初に魔王荘に来たあの時みたいに!

 冷静に辺りを見回してみると、レクスは驚愕し、クリエはにやりと笑っていた。やっぱりこれはクリエの能力による現象なのか……?


 それはそうとして、早くこのゲテモノを誰かに押し付けなければ。俺は順番にメンバーを見回す。

 

 クリエは絶対に駄目だ。勘付かれたら時を戻されて対処されてしまう。

 エビリスも駄目だな。気付かれて報復されるのがオチだ。

 ヒスイは……なんか可哀想だからやめておこう。

 ヴェルトも……可哀想だし、既にエビリスに結構押し付けられてるな。


 やっぱりやるならリンドウかレクスか。そしてこの二人なら、やっぱりレクスに押し付けるに決まっている。


 俺はゲテモノ達を次々と、レクスの皿に押し付けていった。途中何度か時が戻ったり、触手が伸びてきたり、動物の鳴き声が聞こえたりしたが、何とかゲテモノ全部をレクスに押し付ける事に成功した。


「さて……残るはこの美味そうな肉だけだな」


 最後に残った肉を、俺はゆっくりと口の中に入れる。


「……うめぇ!」


壮絶な戦いの末に勝ち取った勝利を、俺はゆっくりと味わった。


 ~~~

 ヤマのメモ

 ・アズト(入れた物:ピザ)

 能力で普通にズルした。


 ・レクス(入れた物:コオロギ)

 クレイジーキャットでズルしようとしたがクリエにバレた。それ以降、アズトのゲテモノの受け皿に。


 ・エビリス(入れた物:ナマコ)

 普通にズルした。多分今回一番の勝者。


 ・クリエ(入れた物:ドリアン)

 ズルはしてないが、能力で対処はした。


 ・ヴェルト(入れた物:ゴーヤ)

 ズル向きの能力じゃないので、無事エビリスの受け皿に。


 ・リンドウ(入れた物:唐辛子)

 同じくズルできない能力なので、ズルもせず対処もせず。レクスにコオロギ、エビリスにドリアンを入れられた。


 ・ヒスイ(入れた物:肉)

 能力は使ったがズルはしてない。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る