第10話 保馬市警ミュータント犯罪対策課

「アズト! 無事にヒョウをぶちのめしてくれたんだな⁉」


 ヒョウを拘束しウオンの中に戻ると、エビリスとレクスが歩いて来た。二人とも傷を負ってはいるが、無事だったみたいだ。


「あぁ。俺がこれまで見てきた中でも断トツでクズだったから、容赦なくタコ殴りにしてやったぜ」


「良いとこだけ持ってきやがってよォ、新入りの癖に。…………まぁでも、今回はマジでお前がいなかったら全滅してたかもな。その活躍ぶりは賞賛してやるよ」


 レクスは少しも目を合わせてくれなかったが、とりあえずは先輩として俺の力を認めてくれたみたいだ。この調子で行けば奴隷呼ばわりも無くなるか……?


「ところで、客はどうなったんだ?」


「ワシらが入り口を突き破って入店したお陰で、そこから逃げられた。操れる範囲が広い分、操作の精度も荒かったんだろう。ほとんどの攻撃が急所を外れてた。重傷を負った人も病院に搬送された。ヒョウも倒したし、これでミッションコンプリートって訳だ!」


 店内は中々の荒れ様だったが、それにしては最小限の被害で済んだようだ。この中の誰か一人でも欠けていたら、こんな結果では終われなかったに違いない。


「ヒョウは拘束して外に置いてきたんだが、奴はどうするんだ?」


「それなら心配いらん。……お、丁度来たみたいだな。『ミュータント犯罪対策課』のアイツが」


 外を見ると、一台のパトカーが現着した所だった。ドアが開き、中から二人の刑事が現れる。

 一人はトレンチコートを羽織り茶色い帽子を被った中年の男。そしてもう一人は、瓶底メガネをかけた少女だった。


「やーっと来たか、このノロマ警察め。ただでさえ人手不足なのに、こういう時に働かないでどうする?」


「仕方ないだろう。今日は色々と忙しかったんだ」


 男の方はエビリスとタメで話している辺り、かなり仲が良いのだろう。一方の少女の方は、男の背中に不安げに隠れている。


「そういえばそっちの女は初めて見る顔だが……新入りか?」


「そっちの方こそ、見慣れない男がいるじゃねーか。お前さん方も新入りか?」


「俺はアズト・ホーサ。お察しの通り、魔王荘の新入りだ」


 俺は前に出て、刑事二人に自己紹介する。


「アズトか。また随分と強そうな新入りだな。俺は猿飼さるかいリンドウ。保馬市警ミュータント犯罪対策課の課長だ。よろしく頼む」


「課長と言っても、メンバーはリンドウ一人だけだがな」


「エビリス、いつもそれを言うなと言ってるだろ……⁉ でもまぁ、もう過去の事だ。ミュータント犯罪対策課は俺一人『だった』。昨日新入りが配属されたんだよ。ほら、名乗ってやれ」


 リンドウはそう言って、背中に隠れていた少女を前に出した。少女はやや緊張気味に喋り始める。


「あ、新しく保馬市警のミュータント犯罪対策課に配属になった羽牟はむヒスイです……。よ、よろしく、よろしくお願いします!」


 ヒスイは物凄くぎこちない様子で自己紹介した。


「羽牟は最短ルートで警察になった超若手。まだ19だ。中々優秀みたいだが、人と話すのが苦手でな。これで勘弁してやってくれ」


「あ、あぁ……。とりあえず二人とも、よろしくな」


「というか、昨日配属になったって事は、アズトとヒスイは同じ日にそれぞれに所属したって事か。ほう、面白いな!」


「あぁ、確かに運命を感じるぜ。……『魔王荘』なんて物騒な名前の奴らと運命で結ばれてもあんまり嬉しくはないがな」


 十中八九偶然だろうが、リンドウの言う通り運命を感じなくもない。職業柄、彼らとは長い付き合いになるだろうから、そういう運命があるのは少し良いかもしれないな。


「余談はここまでにしといて、今回の事件の犯人は外で拘束している。名前は物憑ヒョウだ。誰かさんの到着が遅かったせいでかなりの被害になってしまったが、何とか捕まえたから後は頼んだぞ」


「はいはい悪かったな……。羽牟の研修でちょっと遠くに行ってたんだよ。とりあえず後の事はしっかりやるから、これ以上責めるのはやめてくれ。……ほら、羽牟がしょげちまってる」


 リンドウが指さす方には、壁の角に向かってうずくまるヒスイがいた。


「やっぱり私がこんな変な時期に新しく配属されたのが悪いんですよね……。本当にごめんなさい……ここで石になって反省してます」


「やれやれ……やっぱまだ扱いには慣れねぇな。羽牟、犯人連れて署に戻るぞ。そこからは事情聴取だ。ほら、そんな所で石ころになってんじゃねぇ! 遅れたのはお前のせいじゃないから! さぁほら行くぞ!」


 リンドウはヒスイを引っ張って、パトカーへと戻っていった。


「それじゃあな、エビリスにアズト! また今度新人歓迎も兼ねてどっか食べに行こうぜ!」


 ヒョウを詰め込んだリンドウは、そう言い残して去っていった。


「アイツは少し強引な所があるけど、何だかんだで気が利くんだよな」


「中々面白そうな二人組だったな。……そういえば、レクスは?」


 リンドウとヒスイに集中していて気付かなかったが、レクスの姿が見当たらない。


「まぁアイツの事だし、誰もいなくなった今のうちに店の物でもパクろうとしてるんじゃないか?」


「レクスへの信頼が無さすぎる……まぁ俺も同じ事思ったけど」


「仕方ない、探しに行くか」


 俺達はレクスを探しに、再びウオンの中に入っていった。


 ~~~


 ウオン三階にて。

 ウオンの最上階。レクスはクレイジーバードを使って、最後の調査を終えた。


「畜生……ここにも無い。完全に消えやがった」


 レクスはアズト達と別れ、単独であるものを探していた。クレイジーバードを使って各階を徹底的に探したが、それは跡形も無く消えてしまっていた。


「あ、こんな所にいたのか。おいレクス、店の物盗んだりしてないだろうな⁉」


「げっ。エビリスかよ……」


 ちょうど調査を終えた所で、エビリスに発見されてしまう。


「オイオイエビリス失礼だな。俺がそんな事するわけ無いだろ? 目の前にもっとデカいお宝があるってのによォ~……あ」


「ふーん、つまりそのデカい宝を狙ってるわけか。正直に言え、何を盗もうとしたんだ?」


 エビリスに詰められたレクスは、諦めて正直に白状した。


「……俺が探してたのは、ヒョウが持ってた金だよ。宝石を売って大金持ってただろ? だからそこから二、三枚くらい盗んでもバレないと思って……」


「ネコババか。相変わらずセコイ事を考え———」


 そこまで言いかけた所で、エビリスはある事実に気が付く。


「……ちょっと待て。ヒョウが金を持っていなかったのは確認済みだ。それがウオンの中でも見つからなかったって事は……?」

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