第8話 ヒョーイ・ボーイ
警官の熾烈な銃撃をいなしながら、俺はある違和感を覚えていた。
エビリスが腕を変形させて盾を作ってくれたので、それに隠れながら彼にある質問をする。
「なぁエビリス、さっきの警官達は能力者なのか?」
「ワシの知る限り、保馬市警に所属している能力者の警官は一人だけだ。だから恐らく、彼らは全員能力者ではないだろう」
「……成程、だとするとおかしいな。あの警官、クレイジーキャットが見えてた」
ミュータント能力は能力者にしか認識できない。能力が形として現れる『ダブルクレイジー』なんかは最たる例だ。この警官はさっき、明らかにクレイジーキャットを狙って撃っていた。
能力者じゃない警官がクレイジーキャットを視認できるという事は、洗脳で操られている線は完全に無いだろう。あくまで相手を『操る』だけの能力なら、警官にはクレイジーキャットが見えないままのハズだ。
「となると、ヒョウが近くから直接操ってるか、ヒョウが化けてるかの二択になりそうだな。レクス、クレイジーバードで近くにヒョウが潜んでいないか確認してくれ!」
「チッ、指図しやがって……。まぁやるけどよ!」
「オイオイオイ、ずっと隠れてるなら直接殴りに行っちゃうぜ!」
盾に隠れ続ける俺達にしびれを切らしたのか、ついに警官が直接殴りに来た。
「……この周辺にヒョウはいない!」
「という事は……ヒョウがアイツに化けてるのか!」
「つまり……?」
「殺ってよし!」
そうと分かれば、最早手加減する必要は無い。全力で迎え撃つまでだ。
「クレイジーバード! 羽根弾を撃てッ!」
レクスはクレイジーバードを急接近させ、その鋭い羽根を警官目掛けて射出した。
羽根は警官の体に突き刺さり、鮮血が舞い散る。……だが、警官は表情一つ変えていなかった。
「このままトドメ刺してやるぜ!」
「レクス待て! 何かおかしい!」
羽根はかなり深々と突き刺さっている。それなのに少しの表情の変化もないのは不自然だ。ただ化けているだけじゃないのか……?
「……ふーん、気付いたか。お前らがコイツを間違って殺して、動揺してる隙を突こうと思ったけど、バレちゃったらもう用無しだ。お前は死んでいいぜ」
不穏な事を言った警官は、驚くべき行動に出た。
自身の頭を拳銃で撃ち抜いたのだ。
「……は?」
「よしっ、これで八人目。自己ベスト更新!」
そしてさらに衝撃の事態が。
絶命した警官の体から、まるで魂が抜けるかのように物憑ヒョウが姿を現した。
「……チッ、そういう事か! コイツの能力は『憑依』だ!」
ヒョウは警官に化けていたんじゃない。警官に『憑依』して直接操っていたんだ。能力者が中に入っていたのだから、クレイジーキャットが見えたのも納得だ。
「正解! よく分かったな。俺の『ヒョーイ・ボーイ』は物に憑依するミュータント。コイツは最強の能力だ。……でも、俺は『あの人』との約束を果たさなくちゃならねぇ。お前らもぶっ殺したいのは山々だが、ここは一旦退散させてもらうぜ!」
そう言い放ったヒョウは、再び煙幕を投げて目をくらませた。
「あの野郎逃げやがった! クレイジーバード、追尾しろ! 奴を絶対に逃すな!」
俺達はレクスとクレイジーバードの先導で、煙の中を駆け抜けた。
煙を出た先にあったのは道路だった。そしてヒョウは、堂々と車道に立っている。
「あばよ能力者共! またいつか殺しに来てやっからよォ!」
ヒョウを轢きそうになった車が急ブレーキを踏む。その車にヒョウが触れると同時に、彼は吸い込まれるように車と一体化した。
「アイツ、車に憑依を!」
ヒョウが憑依した車はひとりでにドアを開け、乗っていたドライバーを突き落とした。そしてそのまま、無人で街中を爆走していく。
「おい、早く追い付かないと!」
「ダメだ、いくら何でも速すぎる! クレイジーバードでも追い付けねぇよクソッ!」
万事休すなのか……? 俺達が絶望しかけたその時、エビリスが言い放った。
「そういえばアイツ、『あの人との約束を果たさなくちゃならない』って言ってたよな。アイツはその約束を果たしに向かったんじゃないのか?」
「確かに、その可能性はあるな。その約束ってのは一体……?」
「能力を得た見返りじゃないか? 獄中で能力に目覚めるには何者かの手引きがあったはずだ。宝石強盗も、その見返りの金を用意するためだと考えれば説明がつく」
「……アズト、それだ!」
「という事はアイツが向かったのは、宝石買取店しかない!」
スマホで調べてみると、この近くに宝石買取をやっている店は一つだけ。
「奴の行先は『宝石買取店クリスタ』だ! 間違いない!」
「査定にはある程度時間がかかるハズ。急げば間に合うかもしれん!」
「そうと決まればエビリス、もう一度さっきのアレを頼む!」
「よし任せろ! 絶対にあのクズ野郎を捕まえるぞ!」
エビリスに抱えられ、再び俺達は宙を駆ける。
目指すはクリスタ。あの人の命を軽んじた外道を絶対に捕えてやる。
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