第7話 奇妙な裏切り
タクシーで移動しながらレクスにヒョウの動向を確認してもらったが、普通にジュエリー・ヤスマから逃亡しているようだ。今の所、何らかの能力を発動した様子は無い。
全速力でタクシーを飛ばしてもらい、五分ほどでジュエリー・ヤスマに到着した。
「レクス、ヒョウの動向は⁉」
「まだ遠くには行ってねぇ。今は住宅街を逃走中。あっちだ!」
レクスの指さした方向に、俺は駆け出そうとする。
「アズト、ちょっと待て。今ワシらとヒョウの間には五分の差が開いている。普通に走っても追い付けない」
「だったら尚更立ち止まる訳にはいかないだろ!? それとも、何か一気に距離を詰める方法があるのか?」
「そのまさかだ。さっきはお前の策に助けられたんだ。今度はワシの番だろう! 『スライミー・メタモル』!」
エビリスの足が溶けるようにして変形を始める。彼の能力が発動したようだ。
スライムのように溶けた足は形を再構築していき、ホッピングのような形に姿を変えた。
「ワシの『スライミー・メタモル』はワシ自身の肉体を自在に変形させる能力。二人とも掴まれ! これでブッ飛んでいくぞ!」
俺とレクスはエビリスに抱えられる。エビリスは脚に力を込め、一気に跳ね上がる。
「飛び上がれ『スライミー・メタモル』ッ!」
エビリスは追加で自分の体を軽くなるように変形したようだ。俺とエビリス二人を抱えているにも関わらず大跳躍した。
飛び上がったエビリスは建物の壁を蹴って、空中を物凄いスピードで移動していく。
「レクス、ヒョウはどっちだ⁉」
「そのまま真っ直ぐ進め。あのデカいビルで右に曲がって!」
レクスの的確な指示により、着実に距離を詰められているようだ。そしてついに、凶悪脱獄犯の姿を捉える。
「いたぞ! あれが物憑ヒョウだ!」
俺達がヒョウを発見したと同時に、あちらも俺達を認識したようだ。空中から現れた俺達が只者ではないと判断したのか、警戒の色を強く浮かべている。
「チッ……やっぱり俺以外にもミュータント能力者はいたって事か」
「見つけたぞ物憑ヒョウ! 警察だ! 大人しく投降しろ!」
そしてほぼ同時に、警察もヒョウを発見したようだ。前方からは俺達、後方からは警察の挟み撃ちの形になった。
最早ヒョウは万事休す。かと思ったが……。
「こんなに沢山集まってきやがって……。面白くなってきた」
ヒョウは不気味なまでの笑顔を浮かべていた。
次の瞬間、彼は球を地面に投げつけていた。着弾と同時に球は破裂し、辺り一面を煙が覆う。
「煙幕か! だがこの程度の煙、ワシの能力なら……!」
エビリスが自身の目を高性能レンズに変形させてヒョウを追う。だが。
「……エビリス? どうしたんだ?」
「……いない! ヒョウの奴、消えやがった!」
エビリスがそう言うと同時に、煙が晴れていく。彼の言う通り、確かにヒョウの姿はどこにも無かった。
「転移系の能力なのか……? レクス、クレイジーバードで周囲を捜索してくれ。能力で転移したとしても、そう遠くへは行けないハズだ!」
「りょ、了解……ッ!」
いきなり消失したヒョウに、警察も困惑を隠せないようだ。現状を受け入れられないといった様子で、辺りを見回している。
……だがその中に一人、薄ら笑いを浮かべている警官がいた。
「あいつ……まさか⁉」
本能的に危険を感じ、警察達の元へ駆け寄ろうとしたその時だった。
バン!
例の怪しい警官が、隣にいた警官に発砲した。
「おいお前、何やって———」
警官達が銃を構えた時には、もう遅かった。
その警官は次々と仲間を撃ち殺していった。寸分の狙いの狂いも、迷いも無く。そして一呼吸した後には、その一人を除いた警官全員が死体になっていた。
「ふぅ~、スッキリしたぜ。七年ぶりの殺人は気分が良いなァ」
「お前……物憑ヒョウか!」
警官は俺の質問を肯定するかのように、気味の悪い笑みを浮かべる。
(どういう事だ……? 自分は転移して身を隠しつつ、遠隔でこの警官を操っているのか? いや、それだと『ミュータントは一人一能力』のルールに反する。ヒョウが消えたのと、この警官がおかしくなったのはほぼ同時。この二つには関係があると見て間違いなさそうだが……)
現段階では、奴の能力は見当が付かない。それよりも今はコイツをどうにかしなければ。相手は銃を持っている。気を抜けば死は確実だ。
「七年前は一回で七人殺したんだよな。今の警察が七人いたから、お前を殺せば自己ベスト達成って訳か! よし死ねッ!」
「この腐れた邪悪が!」
警官は接近する俺に対し銃を放つ。何とか避けて接近を続けるが、中々俺の能力の射程圏内に入れられない。
「レクス! アズトを援護するぞ!」
「しゃーねーな! 『ダブルクレイジー』、クレイジーキャット!」
警官を追う俺の隣を、レクスのクレイジーキャットが駆けていった。そして走った勢いのまま警官に飛び蹴りを喰らわせる。
「チッ! その警官がヒョウの化けた姿なのか、それともヒョウに操られてるだけなのか分からねぇ! 化けてるだけなら遠慮なくやれるのに……!」
「迷ってる奴が俺を止められるかよ!」
蹴り飛ばされた警官だったが、彼は飛ばされた先にいた警官の死体から銃を回収していた。二丁の銃による銃撃が、クレイジーキャットの脚と腹を撃ち抜いた。
「クレイジーキャット!」
「俺が殺したいのは人間だ。クソ猫は引っ込んでろ」
警官はクレイジーキャットの頭に銃を二発撃ち込み、さらに腹をぶん殴った。その衝撃で、クレイジーキャットは姿を消してしまった。
そしてクレイジーキャットがあまりに大きいダメージを負ったからか、レクスの方も疲弊した様子を見せていた。
「おいレクス、大丈夫か⁉」
「あぁ……。クレイジーキャットは時間が経てばまた使えるようになる。しばらくは使えねェけどな……」
「さぁ、次は
警官は俺達に容赦なく発砲した。
~~~
ヤマのメモ
能力名:スライミー・メタモル 能力者:エビリス=ディア
能力:自身の体を自在に変形させる。全身、体の一部に加え、髪の毛など体から切り離した部分でも変形させる事が可能。ただし、構造が複雑な物には変形できない。
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