第6話 初任務とミュータント

「捜索はすると言ったが……本当に見つけられるのか? 保馬市内にいる可能性が高いと言っても、それなりに広いだろ?」


 今朝ヤマから渡されたスマホという物で保馬市を軽く調べてみたが、普通に広い。警察ですら見つけられていないというのに、本当に俺達三人だけで見つけられるのか……?


「そこは問題ないはずだ。レクス、いつもの奴を頼む」


「任せろエビリス。『ダブルクレイジー』、クレイジーバード」


 レクスが叫ぶと、彼の頭の上にカラス程度の大きさの鳥が出現した。七色に光る羽根は中々の鋭さがあり、これだけで武器になりそうだ。


「俺のクレイジーバードは遠隔操作ができて、視界も共有できる。コイツで空から探せば効率は跳ね上がるぜ」


「これがレクスのミュータントか……。ん? 確かヤマは『ミュータントは一人一能力』って言ってたよな? 何でお前はこの前の猫と鳥、二つ能力持ってるんだ?」


「俺のミュータント『ダブルクレイジー』は少し特殊な能力でな。『クレイジーキャット』と『クレイジーバード』という二体の式神を操るのが能力なんだ。俺の能力はな、一味違うんだよ!」


「へー。ミュータント能力って色んな種類があるんだな」


「軽く流してんじゃねぇ!」


 冗談はさておき、クレイジーバードで上空から広範囲を探してもらえば、捜索はかなり楽になるはずだ。レクスの奴、中々侮れないミュータントを持ってるな……。


「それじゃあワシらも、地上からヒョウの奴を探すとしよう。レクスはクレイジーバードの方の視界に集中してくれ。こっちはワシとアズトで捜索しよう」


「あぁ。助かるぜエビリス」


 エビリスはヴェルトの次に魔王荘歴が長いこともあって、指示の出し方も的確だった。……だが冷静に考えたら彼も元魔王なのか。そりゃ指示が上手いわけだ。


「ところでエビリス。危険な犯罪者に脱獄された上に、半日近く経ってもそれを見つけられないこの世界の警察組織ってもしかして無能なのか? 俺の国の警察はもう少し優秀だったぞ?」


「まぁそう言ってやるな。能力による現象は能力者しか認識できない上に、能力の存在は世間に知られていない。だから警察にも対能力者専用の『ミュータント犯罪対策課』があって、能力関連の仕事は全部そいつらがやってるんだ。でも今回ヒョウは、非能力者の監獄の中で能力に目覚めた。対応が遅れるのも無理はないって訳だ」


「成程……能力が能力者にしか認識できないのは想像以上に厄介みたいだな。なら尚更俺達がヒョウを見つけなくては」


 それからしばらく、俺達はヒョウを探して歩き回った。ヒョウは見つからなかったが、魔王荘周辺の地理を頭に入れる事はできた。住処の周囲の地理を知っておくことは大切だからな。良しとしよう。


「ん……? 何だコイツ、怪しいな」


 捜索開始から一時間ほど経った頃、レクスが何かを見つけたようだった。


「レクス、ヒョウを見つけたのか?」


「いや、黒いフードで顔が隠れててよく見えねぇ。でも何かコイツ、怪しい気がするな。魔王の勘だ」


「その勘、本当に当てになるのか……?」


「お、例の男、宝石店に入っていったぞ。物凄く嫌な予感がするぜ……!」


 こちらからはクレイジーバードの視界が見えない為、レクスが言語化してくれるのを待つしかない。

 レクスはしばらく緊張した面持ちだったが、少ししてその顔は驚愕に変わる。


「コイツ……宝石強盗だ! 宝石を盗んでいきやがった!」


「宝石強盗だと? こんな昼間に堂々と?」


「……あーッ! 顔が見えた! やっぱりコイツ物憑ヒョウだ!」


「嘘だろオイ!? お前の勘当たってたのかよ⁉」


 ひっそりと潜伏していると思われた脱獄犯が、いきなり派手に動いた。一体何を企んでるんだ……?


「レクス、その宝石店の場所はどこだ⁉」


「ジュエリー・ヤスマ。……ここから歩いて二十分!」


 遠すぎる。これじゃ向かっている間に逃げられてしまう。


「お、あんな所にタクシーいるじゃねぇか! おいタクシー! 俺ら乗せてけ!」


「待てレクス! ワシらにタクシー乗れるだけの金があると思ってるのか⁉」


「んな事言ってる場合じゃねーだろ! 警察も向かってるだろうけど、非能力者じゃ相手にならねぇ! 俺達が行かなくちゃならねーんだよ!」


 エビリスとレクス、どちらの言う事にも一理ある。だが、今俺達がタクシー代を持っていないのも事実だし、タクシーの速度じゃないと間に合いそうにないのも事実。一体どうすれば……?


「……いや、これなら行けるかもな」


「何だアズト、何か策があるのか?」


「あぁ。一つ妙案がある。エビリス、三人は無理でも、一人タクシーに乗れるだけの金はあるよな?」


「確認しよう。……あぁ、一人くらいは乗れそうだな。まさか、一人だけ先に現場に送り込むのか?」


「いや違う、俺達全員でヒョウの所に行ける策だ」


 時間が無い。俺達は早速動き出した。


「失礼、急ぎでタクシーを出してもらいたい。ジュエリー・ヤスマ周辺までだ」


 まず、エビリスが普通の客としてタクシーを捕まえる。


「すまないが急いでくれ。緊急事態なんだ!」


「分かった! 急ぎますから落ち着いて、席についてください!」


「よし、今だ」


 ここでエビリスにわざと声を張り上げてもらい、運転手の注意を引く。その隙に俺とレクスはタクシーの後ろに回り込んだ。


「今なら行けるな。『アンウェイ・ワールド』!」


 俺は能力を発動し、タクシーの影に潜行する。


「レクス、来い!」


「本当に入れるんだろうな⁉」


 そしてレクスも、タクシーの影の中に飛び込む。

 ……タクシーが動き出すのとほぼ同時、俺とレクスはタクシーの影に潜行することに成功していた。


「俺の『アンウェイ・ワールド』は俺以外にも、俺が入れたいと思った人や物も影の世界に入れられるみたいだ。このままタクシーの影に潜行し続ければ、エビリスと一緒に現場まで運んでもらえる。金の問題も解決という事だ」


「お前……まぁまぁやるじゃねーか。俺の奴隷として不足無しだな」


「俺の能力も、一味違うって訳だ」


 目指すはジュエリー・ヤスマ。俺達は全速力で物憑ヒョウへと迫る。


 ~~~

 ヤマのメモ

 能力名:ダブルクレイジー 能力者:レクス・マーラ

 能力:「クレイジーキャット」と「クレイジーバード」という二体の式神を操る。ただし、二体を同時に出現させる事はできない。

 

 ・クレイジーキャット:成人男性程の大きさで、二足歩行が可能な猫の式神。能力は圧倒的なスピード。

 ・クレイジーバード:カラス程の大きさで、七色の羽を持つ鳥の式神。レクスから離れて行動でき、視覚共有も可能。鋭い羽根を弾丸のように発射する能力を持つ。

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