第2話 覚醒! ミュータント能力

 レクスが出現させた謎の猫の鋭い爪が俺に迫る。

 だがそれは、すんでの所で何かによって止められた。


「……ふーん、中々できるみてぇだな」


 猫の攻撃を止めたのは、黒い腕だった。それは俺の影から伸びてきているようだ。

 そしてそれは、俺が生前使っていた魔法ととてもよく似ていた。


「お前、結構良さそうなモン持ってるじゃねーか。その調子だと、黙って奴隷として従う気も無さそうだし……やっぱこうだよな!?」


 影の腕を見たレクスはテンションが上がってきたようで、愉悦に満ちた笑みを浮かべていた。

 そして次の瞬間、猫は俺を抱えながら窓をブチ破っていた。


「何ッ⁉ というか速すぎだろ! 全然反応できなかった!」


 猫に空中で手放された俺は、何とか着地する。外から見て初めて分かったが、ここはどうやら相当なボロ家らしい。


「お前のミュータント能力がどんなのか気になるし、お前を服従させたい。だったら、決闘しか無いよな⁉ 能力も知れて服従もさせられる、一石二鳥って奴だ」


「随分騒がしい奴だ。こんなバカそうな奴の奴隷なんて御免だな。……まぁ、ヤマが言ってた超能力ってのはコレの事だろうし、慣らし運転には丁度良いか」


「俺を慣らし運転扱いとは良い度胸だなァ? やれ、クレイジーキャット!」


 俺の挑発に乗ったレクスは、猫——クレイジーキャットをけしかけてきた。奴のスピードは桁違いだ。油断はできない。


「生前の魔法が使えるなら、こんな事も出来るか?」


 俺が生前使っていたのは影の魔法。魔法が超能力として受け継がれたのかどうかは分からないが、初見の力よりかは遥かに扱いやすいだろう。


 自身の影をすくい上げ、網目状にして前方に展開する。突進してきたクレイジーキャットはまんまと影の網に引っかかってくれた。


「隙ありだぜ!」


 瞬時に影の網を無数の腕に変化させ、動きの止まったクレイジーキャットをタコ殴りにする。


「……操れる影の範囲は半径3メートルと言った所か、成程」


「冷静に分析してんじゃねぇ! クレイジーキャット!」


 だが、クレイジーキャットも中々だった。自慢の爪で影の腕を切り裂き、強引に俺の元へ迫ってくる。

 速い。しかも奴との距離は3メートルしかない。


「……チッ」


 避けられないと覚悟を決め、受け身を取ろうとした、その時だった。

 俺の体が影の中に沈み込んだ。


「……⁉」


 完全に予想外の事態だが、何とかクレイジーキャットの攻撃を回避できた。

 だが、これは一体何だ? 今の状態はまるで、『影の世界』に沈み込んでいるようなものだ。だが影の中に潜伏するなんて力は、生前の魔法には無かった。


 ……いや、ここでグダグダと考えるのは愚策だ。折角新しく使える物が増えたのなら、徹底的に利用するまで。


「……消えた? おいどこに行った!?」


「俺はここだよ!」


 突然消えた俺を不審に思い、クレイジーキャットの傍まで近づいたレクス。だがそれは、俺の能力の射程圏内に入った事を意味する。


 『影の世界』の中を移動し、レクスの影から姿を現す。背後からの不意打ち、という形になった。


「はァ!? どっから現れやがった⁉」


「動揺してる場合か? オラッ!」


 突然の奇襲に驚いたレクスの隙を突いて、拳の一撃を喰らわせる。不意打ち故に受け身も取れず、レクスは大きく吹っ飛んだ。


「テメェ……思ってた数倍はやるじゃねーか。だったらこっちも手加減ナシでやってやるよ!」


 レクスが声を張り上げ、何か行動を起こそうとする。だが、その時だった。


「おいレクス!? お前何やっちゃってんの!?」


 声を張り上げながら、こちらに近づいてくる一人の男が現れた。彼は慌てた様子でレクスの元に走ると、レクスをぶん殴った。


「なに昼間から能力使って暴れてるんだ⁉ またヴェルトに怒られるだろ!?」


「うっせーなァーエビリス。俺は決闘してただけだ。突然家に威勢の良い奴隷が現れたからよ」


「威勢の良い奴隷……?」


 こちらを振り向いたエビリスと呼ばれた男と目が合った。


「奴隷ってお前か?」


「いや、俺は魔王だ。魔王アズト・ホーサだ」


「魔王……って事は新入りか! おいレクス、この男は我ら魔王荘の新入りだ。奴隷じゃない!」


「何だ奴隷じゃないのかよ。つまんねーな」


「大体何で奴隷だと思ったんだよ……」


「あぁ、申し遅れたなアズト。ワシはエビリス=ディア。まぁここで話すのも何だし、上がってくれ」


 俺はエビリスに導かれ、魔王荘の中に戻った。ちなみに道中でレクスが窓を割っていた事が分かったので、もう一発ぶん殴っていた。


「いきなりこんな目に合わせてしまって申し訳ない。ヤマは説明が雑な所があるから、いきなりこっちに送られて何が何だか分からなかっただろう。とりあえず水だ。飲むといい」


 あれ、もしかしてエビリスは意外とまともなのか……? そんな事を思いながら出された水を飲む。……まずい。


「なぁ、この水すごくまずいんだが……」


「ウチは公園の水道水か泥水をろ過した水を使ってるのよ。ハズレ引いちゃったわね」


 しれっと近くに来ていたクリエにより衝撃の事実が明かされる。やっぱコイツらイカれてんのか……?


「まぁ、そろそろ彼が来るはずだ。この世界に送ったからには説明する義務もあるだろうし、説明は彼に任せる事にしよう。……お、来たみたいだな」


 エビリスがそう言うと、押し入れの中から音が響いた。扉が開かれ現れたのは、十歳くらいの男の子だった。


「……何だコイツは」


「さっきぶりだね、アズト。忘れちゃった? オレだよ、ヤマだよ」


「嘘だろオイ」


 こちらの世界に現れたヤマは、何故かガキの姿になっていた……。

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