魔王荘は止まらない ~転生先は全員魔王のシェアハウス!? 今度は平和のために異能力で戦います~
炭酸おん
第1話 ようこそ魔王荘へ
全身に深い傷を受けたような痛みを感じて、俺は目を覚ました。
「ハッ!? 何だ⁉」
全身にびっしょりと汗をかいていた。内容は覚えていないが相当な悪夢を見ていたみたいだ。
だが、そんな事がどうでもよくなるほど、異質な光景が目の前に広がっていた。
「……ここは一体?」
眼前は見渡す限りの炎。身を焦がすような灼熱が俺を取り囲んでいた。
どういう事だ? ここは俺の国じゃないのか? 一体何が起きた?
「や。お目覚めみたいだね。魔王アズト・ホーサ君」
辺りを見渡していると突然、背後からそんな声が聞こえた。声の主は灼熱の炎の中から涼しい顔で現れた。
若い男だ。だがその一方で、底知れない力を感じる。
「何者だ。何故俺の名を知っている?」
「そりゃあ勿論、君は有望株だからね。君の事は徹底的に調べつくしたさ。アズト・ホーサ、年齢29歳。ネクロ王国の王で、周辺国からは『影の魔王』と呼ばれて恐れられてたんだってね」
「……間違いないな。お前、マジに何者だ?」
「申し遅れたね。オレはヤマ。第二十七代閻魔大王にして、この冥界の管理人だよ」
閻魔大王。冥界。聞きたくない単語が出てきた。この見慣れない場所、俺はまさか……。
「おい、俺はまさか……」
「そう。君は連合軍のリーダー・勇者ジェイクとの一騎打ちに負けて死んだんだ。どう、思い出した?」
ヤマの一言で、無意識に蓋をしていた記憶が蘇ってきた。
そうだ、さっきのは悪夢なんかじゃない。死ぬ前の俺の経験だ。周辺国に対し食料の略奪を繰り返す俺を倒すべく、勇者ジェイクを中心とした軍が攻め込んできたのだ。
「……あぁ。ハッキリと思い出した。我が国民を少しでも助けるべく、勇者ジェイクと一騎打ちを繰り広げたのだが……どうやら俺は負けてしまったようだな」
「意外と落ち着いてるんだね。自分が死んだことに気付いた人間はもっと動揺したりするのに」
「俺は国の為に全てを捧げてきた。国を存続させるために数々の悪事を働き、気付いたら魔王とまで呼ばれるようになっていた。そうなった時から、死ぬ覚悟くらいはできていたからな」
我がネクロ王国は中々作物が取れない場所にあった。国民を生かすためには、こうするしかなかったのだ。
「良い覚悟だ。やっぱり君はふさわしい。アズト、オレと取引をしないか?」
「取引、だと?」
ヤマの声質が変わったのが分かった。恐らくここからが、彼の本当の狙いなのだろう。
「単刀直入に言おう。ある世界に転生して、オレの手駒になって働いてくれないか?」
「……お前の、手駒だと? そんな物になるくらいならば、大人しく地獄に行ってやる」
「まぁ待ちなよ。オレは取引って言ったんだ。これを見てみろ」
ヤマは俺に一枚の紙を渡してきた。
タイトルは「地獄行名簿」。そしてそこに書かれていた名前は……。
「おいテメェどういう事だ⁉」
俺は反射的に、ヤマの胸ぐらを掴んでいた。
「ここに書いてある名前は全部、俺の幹部と我が国民だ。どうしてコイツらが地獄送りになっている!?」
「彼らは『邪悪な魔王が治めていた国の住民』として地獄送りになったんだ。まぁ、仕方ない事だよね」
「国の汚れ仕事は俺が全部やってきた。幹部や国民たちに罪は無い!」
「ここで取引だ。君がオレの手駒として転生し、使命を全うする事を選んでくれれば、ここに書かれている全員の行き先を地獄から『平和な世界への転生』に変えてやる。さぁ選べ、お前は王としてどっちを取るんだ⁉」
国民たちを犠牲にして俺のプライドを守るか。それとも、この閻魔大王に下り、国民たちに少しでも良い来世を生きてもらうか。
……この二択ならば、最早悩むまでも無い。
「分かった。お前の提案に乗ってやる。だから彼らは全員、平和な世界に転生させてやってくれ」
「……君ならそう答えると思ったよ。合格だ」
ヤマは俺がそう答えるのが分かっていたかのように頷き、俺に拍手を送った。
「魔王ってのは我が強いからね。こうでもしないと頷いてくれないと思ったんだ。少し強引になっちゃって申し訳ないね」
「チッ……。まぁ、一度従うと言ったからには変える訳にはいかないな。それで、俺は何をすれば良いんだ?」
「それは目的の場所に向かいながら話そう」
ヤマが腕を前にすると、周囲を囲っていた炎がはけて道ができた。
「君に転生してもらう世界では、危険な超能力が跋扈しているんだ」
「超能力?」
「あぁ。その超能力のせいで、その世界での死者は他の世界と比べて二倍くらい多いんだ。正直、冥界の管理者として見過ごせなくてね。それで、その世界に自衛組織を作ったんだ。君にはその組織の一員として、その世界の治安を守るために働いてもらう」
「自衛組織、か。……言い方的にもしかして、俺みたいに声をかけた転生者を集めた組織なのか?」
「流石は魔王、鋭いね。そう、その組織は全員が転生者、何なら全員———お、着いたみたいだね」
たどり着いたのは、無数の扉がある広場だった。この扉の先に、色々な世界が繋がっているのだとか。
「君に行ってもらう世界の扉はここだね。それじゃ、行ってらっしゃい!」
扉に辿り着くなり、ヤマは俺の背中を押して俺を扉に押し込んだ。
「おい待て、まだ心の準備が——」
「あ、言い忘れてたけど、その組織曲者揃いだから気を付けてね~。それじゃ、また後で!」
あの野郎……俺が断るかもと思って構成員の情報伏せてやがったな!
ヤマに一言言ってやろうと思ったが、それより早く俺の意識は闇に呑まれて行った。
~~~
次に目を覚ますと、俺は何故か身動きが取れなかった。
「……? 何、だ……?」
次第に意識がハッキリしてきて、俺が今置かれている状況が分かった。
俺は今、縛られている。縄で胴体をグルグル巻きにされており、腕を動かすことができない。
「お、やっと起きたみたいね」
「そうみたいだな。随分長い間眠りやがって、吞気なもんだ」
声のした方を向くと、そこには二人の男女がいた。二人は心底楽しそうに俺を見つめている。
「ここに来たって事は、ヤマの奴が新しく俺に寄越した奴隷って事だよな。やっぱ魔王たるもの、奴隷は必要だよなァ!?」
「あなただけの奴隷じゃないのよ、レクス。彼は私達全員の奴隷。独り占めなんて許さないわ」
「ヤマ……って事は、お前らが自衛組織って奴、なのか……?」
「そうだ。ここはヤマの奴が集めた魔王が集まるミュータント犯罪対策組織、『魔王荘』だ」
レクスと呼ばれた男はそう言った。
『その組織は全員が転生者、何なら全員———』
ヤマが言いかけていた言葉を思い出す。組織の名前から察するに、まさか……。
「まずは名乗ってあげましょう、レクス。私は
「俺はレクス・マーラ。今日から奴隷であるテメェの主人になる魔王だ」
……やはりだ。この組織、全員が魔王なんだ!
ヤマと約束はしたが、ここは明らかに危険すぎる。一旦逃げなくては。
俺は足だけで何とか立ち上がり、その場から脱出しようとする。
……だが、気付けば俺は立ち上がる前の状態に戻されてしまっていた。
「何だ⁉ 何が起きた⁉」
もう一度立ち上がって脱走しようとするが、何度やっても横たわった状態に戻されてしまう。まるで何度も時が戻されているみたいだ。
「勝手に逃げちゃダメでしょ? あなたは私達の奴隷なんだから」
クリエが心底楽しそうな表情で俺を見下している。
「ふーむ、反応的に持っていそうね。レクス、あなたのアレ、出してやりなさい」
「オーケー。特別に見せてやるよ。『ダブルクレイジー』、クレイジーキャット」
レクスがそう言うと、彼の側に奇妙な存在が現れた。成人男性ほどの大きさの猫だ。やや細身で、驚くべき事に二足で立っている。
「お前、これが見えるのか。ならお前も『ミュータント能力』を持っているハズだぜ。さぁ、お前が使える奴隷か判断してやるよ。ミュータント能力を出してみやがれ!」
レクスがそう叫ぶと同時に、奇妙な猫が俺目掛けて飛び掛かって来た。
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