第40話 最期の誕生日
「やった……やったんだ、私!」
バックは心から喜んだ。エラが傍にやってくる。
「やったね……やったね、バック!」
バックの十八歳の誕生日。三つの顔の月が大きくなってきて悔しそうに嘆く。これが幻想だと分かっていてもおぞましいが、今は晴れやかな気分で三つの顔の月を見下せる。
「あなた達はもう消える!」
「あらあら、悔しいですね。ですが我らの負けのようです」
「ホホホ、大人しく消えるとしましょうか」
「ふん、この国を守りきるとはなぁ」
ラック、ハーフ、デスの月は凄惨な笑顔を消えさせていく。
「バック! 本当にやったのね!」
エラは大はしゃぎだ。涙を浮かべている。
「よくやったな、バック」
後ろから男の声が響いた。いつも電話越しに聞いていた声だ。
「博士!」
バックは博士の元へと駆け寄っていく。
「博士! 私やったよ! お父さんとお母さん、ううん、それだけじゃない。あの日死んだ皆の復讐を達成したよ!」
「ああ、よくやった。これでもう安心だ。呪いは消えた」
エラは嬉し涙でいっぱいだ。
「今までありがとう、エラ。私、あなたのような友達ができて嬉しかった。これから先はもう一緒にいられないけど、それでも強く生きて欲しい」
「え……?」
エラはバックの言葉に驚愕した。今何を言った? 何の話をしている?
「博士、ありがとう。ウェイもありがとう、シャルにも礼を言っておいて欲しい。私の悲願は達成された、もう……心残りはない」
「バック! 何を言ってるの? あなたはこれからも生きるの! あなたはもう許され……」
「ああ、さよならだ。バック=バグ」
パーンという発砲音が響いた。バックが頭を撃たれた。博士が拳銃の引鉄を引いたのだ。
エラは理解が追いつかない。
「何をするの!? バック! バック! 死なないで!」
「エラ、お前は知らなかっただけだ。バック=バグは十年前、この国を呪った犯罪で国家反逆罪、死刑が決定していた。この国は未成年も、重大な罪を背負うと大人と同じ扱いを受ける。バックは国を救う条件で、十八歳の誕生日までは生きることを義務付けられ、十八歳の誕生日で死ぬことが決まっていた」
何も頭に入ってこない。理解が追いつかない。バックは死んだ。ウェイがバックの遺体を抱き上げる。
「ウェイ! あなたは何とも思わないの!?」
「ワタクシはこの子と十分に生きるのを楽しみましたわ。情も湧きましたわ。ですから命令には従わないという抵抗しかできませんでしたわ……」
「ふざけるな! その男を殺してよ! バックの復讐してよ!」
「お金は払えるんですの? 国の重要人物を殺すんですから沢山必要ですけれど」
エラは力なく崩れ落ちた。
「最後に一つだけエラに言っておく。家の鍵は開けておくから入ってバックの机の引き出しから手紙を読みなさい。それが私にしてやれる唯一の事だ」
博士とウェイは去っていく。エラは泣き叫んだ。雨がポツリポツリと降ってきて、エラの涙を洗い流していく。
エラは立ち上がり、バックの家へと引き摺るように歩いた。
バックの家に着いて、机の引き出しを開ける。それはバックからの遺書だった。
濡らさないように一度引き出しを閉めて、体を拭く。
そうして手紙を手に取って、エラは読んだ。
『これをエラが読んでるってことは全てが終わったのね。あなたには何も言わず逝く私を許して欲しい。あなたを巻き込みたくなかった。きっと黙っていた私を恨んでいるでしょう。でも話すわけにはいかなかった。許して欲しい。心配しなくても私は何にも悲しくないからね? あなたは私の死を背負って悲しいでしょうけど、私は解放されて嬉しいの。その証拠にこの手紙に涙の跡はないはずよ。エラとウェイとシャルとの思い出は私の宝物。でも一つ心残りがあるの。きっとこれを聞いたら、あなたは笑うわ。遊園地での事、観覧車に乗った時、ウェイと私、キスしたわよね? あの時エラは、やらないって言ったけど……本当は私、あなたとキスしたかった。でも言い出せなかったし、感情を低下させるわけにはいかないから、すぐに引っ込めた。いつでもしようと思えばできたかもしれない。でも伝えられなかった。それが心残り。だから私ここに残すわ。あなたのキッスであの世の私に届けてくれると嬉しい』
手紙の最後には、バックのキスマークがついていた。エラはそのキスマークに優しく口づけをした。あの世のバックの唇に届くように。
エラは手紙を大切に鞄にしまいこんだ。別に持ち帰っても構わないだろう。
バックにプレゼントした物全て置いて、写真だけ貰い鞄に入れた。
バックの家を出ると車が止まっていた。
「家まで送ります」
「ありがとう……」
シャルもグルだ。だが何も起こす気は起きない。
エラの家に着いて車を降りる時、シャルが声をかけてきた。
「何もしてあげられなくてごめんなさい」
バン! と扉を閉めてエラは家に戻る。
謝罪するくらいなら……もっと良い未来を用意して欲しかったと思うエラだった。
自分の部屋に入り、バックからの手紙をアルバムにしまう。そしてシャワーを浴びて髪を乾かし、部屋のベッドに眠る。
そこは観覧車の中だった。バックとウェイがキスしている。ああ、あの時の光景だと思うエラ。
自分はできない、そのはずだった。
「エラともしたい」
それは現実とは違う光景だった。バックは自分に近づいてくる。エラは涙を流した
そこで夢は覚めた。エラは涙を流しているのに気づいた。バックの心残りは取り除けたのだろうか……そう考えるエラだった。
――――――
まだ終わりません。あと3話お付き合いください。よろしくお願いします。
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