第39話 最終日の夜

 車で移動する中、殺し屋たちが襲ってくる。それをウェイが防ぎきる。

 ウェイは敵を返り討ちにしていく。その光景がおぞましすぎて、涙が出るバック。

 目を閉じ耳を塞ぎ蹲る。人が死ぬところなんて見たくない。それが例え悪人だとしても。

 だって『あの時あの場』にいた人たちの中には悪人も沢山いたはずだから、バックが国を呪った時にいた人間の中にもだ……。

「狙撃に対する対応をお願いしますわ!」

 ウェイは誰かに指示している。そして終わった後の光景は悲惨だった。

 あの時いくつもの死体の中にウェイは立っていた。その光景が昔の幼い自分と重なって……吐いた。

「バック! しっかりして!」

「ごめん……うぅ……」

 エラが背中をさすり、バックを励ます。状況はよくない。今はデスの月。月が大きくなってこちらへやってくる。

「はっはっは! これはこれはバック=バグ。おかげでこれだけの死蝿を出せたぞ!」

「これが……三つの顔の月、デスの月ですか」

 ウェイは銃を構え発砲する。だがこれは幻影、無意味な行為だ。

 凄惨な顔を睨みつけたウェイは唐突にふらつく。

「ウェイ!」

 倒れるウェイを見て、エラはバックを抱きしめた。

「しっかりして、バック! あなたの力がいるの!」

 バックはフラフラと立ち上がり、死蝿を潰す。そしてウェイに薬を飲ませた。


 デスの月の幻影は引っ込んだが、死蝿はあちこちにいる。あまりにも感情を低下させすぎた。

 更にまだ殺し屋がいる可能性がある。薬で生き返り、起き上がったウェイは何か電話で指示を出した。

 これ以上、バックの感情を低下させてはいけない。

 十八歳の誕生日は明日。今日を乗り越えねばならないのだ。

「アークを殺しても、前払いで報酬を受け取った有能な殺し屋がいるそうです。そいつを捕えないといけませんわ」

「とにかく死蝿を潰していきたい」

 バックの願いに頷いたウェイは、三人で走る。

 薬で生き返らせていく人達を後にして死蝿を追う。

 最後の死蝿を潰し終えたバック。

(ちっ、やるな)

 デスの月は舌打ちし、バックは最後の人に薬を飲ませた。

「ん? ああ、なるほどね。それじゃあ、さようなら」


 咄嗟に起き上がった男はバックに向けて銃を構えた。ウェイがナイフを投げて弾く。

「ちぃ! 面倒だな」

 ウェイはバックの襟首を掴んで引き下がらせ、ウェイと男の戦闘が始まる。

 ナイフと銃撃の攻防、ありえない光景だった。ナイフを持ったウェイは銃弾を弾いているのだ。

「ふん! いかれてやがる!」

「銃口の位置さえ分かれば容易たやすいことでしてよ」

 引っ張られてゲホゲホ咳をするバックは自分がいるせいで足を引っ張っていることに気づく。

「エラ、離れよう。私達のせいでウェイが戦えない」

「ええ、あなたは私が守るわ!」

「あまり離れすぎない程度にしてくださいませ!」


 建物の影に隠れるバックとエラを確認して、ウェイは男に一気に詰め寄る。そして、男の首の頸動脈を切り殺した。

「あと少しなのに……こんな……」

 バックは頭を抱える。再び死蝿が湧く。薬が足りなくなってくる。バックは焦っていた。

「今日を乗り越えよう」

 エラがそう言う。握る手に力が篭もる。車にある神薬の植物と、トランクの中の機械。車に乗り込んだ三人。ウェイは提案する。

「歌いましょう。今まであった楽しい事を思い出しながら」

「それならあのローディアランドの歌なんてどうかしら?」

 あの日が一番楽しかった。バックは頷いて歌う。三人で歌う。植物が伸びていき薬ができる。

 死蝿を潰しながら、薬を人々に飲ませていく。そうして死蝿も全て潰し終えたのだ。


 前から車が突っ込んできた。ウェイはハンドルを切って、相手のタイヤにナイフを突き立て、相手はスリップして事故った。

 中からアークが現れる。雇った殺し屋は全て殺された。残り時間も少ない。アークは語る。

「俺が何故ここまでバック=バグに拘るか教えよう。それはね、妻マリーをこの国の奴らに殺されたからだ。それもお腹の娘ごとね。妻は酒場を経営していた、そして政府の人間が酔った勢いで機密情報を漏らした、そのために殺されたんだ。政府の人間はそう簡単に殺せない、だから俺は月呪法を使おうとした、だが成功しなかった。何度やってもだ。それを成功させたのが君なんだ、バック。頼む、死んでくれ。死んでマリーの復讐を果たさせてくれ」

 構えた手の平から銃弾が飛び出した。手に銃を仕込んでいたのだ。だがウェイの拳が弾を防ぐのが早かった。ウェイの手から流血する。バックは危機一髪で助かった。

 ウェイをもう片方の手の平の中の拳銃で牽制しながら撃ち続けるがウェイは完全に防ぎ切る。

「クソ! クソ! クソ!」

 連射するがもう当たらない。アークは項垂れた。そして弾が切れた。

「君たちの勝ちだ……私の負けだ……素直に降伏しよう……殺すなり捕らえるなり好きにしろ」

 捕らえられていく彼に一言、バックは声をかけた。

「多分だけどあなたの復讐は完遂している。私が昔、感情を低下させて神薬の植物も上手く扱えてなかった時、マリーという名前の人を殺し屋に殺させて、揉み消した政府の人間が死んだと博士から聞いた。だから安心して罪を償って欲しい」


 アークはそれを聞いて驚いて、それは真実かを尋ねた。

「後は他の人に聞いて欲しい。私は救えなかった人の情報をメモしているから間違いないと思うわ」

 アークは号泣し崩れ落ちた。

「我が神バック=バグ! すまなかった! すまなかった……!」

「都合のいい人ね! 後は刑務所でやりなさいよ!」

 エラは唾を吐く。馬鹿な男だ、本当につまらない事をしているとウェイも呆れている。


 時間は二十三時五十分、公園のベンチに腰掛けた三人は歌った。神薬の植物が伸びるがもうほとんど意味はない。

 そして零時ぴったりに、神薬の植物は枯れていった。

「ハッピーバースデー! バック」

 エラとウェイが祝う。バックは涙をポロポロと流し、二人に抱きついた。

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