第38話 最後の戦い
ウェイは殺し屋を殺し続ける。その間一撃ももらっていない。だが中堅クラスの殺し屋が現れた。
「ウェイ=ヴォイスか、流石にこれは回避不可能だろう?」
ガトリング砲を構えた男は連射する。それも何人も構えている。完全包囲だ、前に走る。あらゆる物を踏み出しにして飛び越えるウェイは的確に男たちの眉間を貫いた。
装填してる暇はない。新しい銃を構える、二丁拳銃のウェイは回避しながら物の影に入り、タイミングよく頭を出しては敵の頭にヘッドショットしていく。
「殺気も何もかも漏れすぎですの」
凄惨な笑顔になったウェイは駆け抜けた。車のタイヤをパンクさせドアを壊そうとしている男たちに、舌打ちしたウェイは銃撃する。
「!? バック! 見ちゃ駄目!」
窓に張り付いた死体を見てしまったバックは頭を抱える。
「嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ!」
死蝿が出る、行かないといけない。この中を? 地獄絵図だった。ドアを開けようにも男たちが押し寄せている。
「博士! 死蝿が出た! 何とかしないと!」
博士は盗聴器を仕掛けているから聞こえてるはず。この車はもう動かせない。
『もう少しだけ我慢してくださいませ! ワタクシ、すぐに殲滅いたしますので!』
ウェイは今も戦っている。バックは泣きながら耐えた。感情は低下してしまうが、それでも生きなければならない。
ウェイを信じて待つ、それしかないのだ。
ウェイは焦っていた。何の援護もなしにこの数は不可能だ。あと六時間、死蝿の犠牲者が増え続けたら、それを救わなければ死んでしまう。
神薬の植物もバックの十八歳の誕生日で消えるからだ、それはバックが神から伝えられた情報。
これではもう……ウェイがそう諦めかけた時だった。射撃援護が入る。そして部隊が突入してきた。
「……何故?」
ウェイが呆気にとられていた時、電話が入った。
「博士、どういうことですの?」
『どちらにせよ死蝿が出るなら全力で守るだけだと判断した。ウェイ、君にはトップクラスの殺し屋を相手してもらわねばならない。できるか?』
「やりますわ」
エラとバックを車から出す。エラも気分が悪そうだったが、バックはぐちゃぐちゃだった。
「やめて! 私のために死なないで!」
「落ち着いてくださいませ! バック、あなたのやるべき事を思い出しますのよ」
「私のやるべき事……」
国を救う……そうだ、誰にも邪魔させない。覚悟を決めたバックは涙を無理矢理拭いて、ウェイの指示に従う。
「こちらについて来てくださいませ」
確実に殺し屋を殺しながらバックたちを走らせるウェイ。そして準備された車にたどり着いた。
乗り込むバックとエラを見たあと、ウェイは運転席に座り発車する。
まずは死蝿の処理だがそう上手くもいかない。出た数は三匹、夜働いて帰る人が倒れている。車から降りて駆けつけるバックだが、ウェイが叱る。
「ワタクシから離れすぎないでくださいませ!」
「ごめん、でも急がないと……」
この調子では死蝿は増え続ける可能性もある。ウェイは頼んだ。
「バック、今日だけでいいですの。最後の今日だけ守らせてくだらない?」
「……」
「頼って欲しいんですの」
「わかった」
走り出す三人は死蝿を潰したバックを見てAI操縦で車を手繰り寄せるウェイ。
そしてあと二匹の死蝿を処理しに向かう。一匹は簡単に殺せた。だがそこから走り出した後、ウェイが呟く。
「何かわかりませんが、嫌な予感がしますわね」
そこは駐車場だった。車を停めて死蝿を潰しに行く。潰した瞬間だった。
「バック! エラ! 伏せてくださいませ!」
射撃が飛び交う。ウェイは全て防ぎきった。
「ほう、これを防ぐか。噂に違わぬ実力の持ち主だな。そちらにいるのが勿体ないくらいだ」
二十人ほどに囲まれている。絶対絶命だと感じた。ウェイはとにかく二人を安全な所にと思う。
だが三人の実力者に阻まれる。それらはそれぞれがウェイと同等の実力者だった。
これはいけないと感じたウェイは徐々に照準の合ってくる銃撃が伏せたバックを殺してもおかしくないと感じて、バックとエラに立つように言った。
「まずは二人を安全な所に向かわせますわ」
それは煙幕。ウェイは正確に二人の位置を把握して車まで連れて行き中に押し込む。
「ウェイ! 逃げよう! 駄目だよ!」
「いいえ、あれらはここで殺さねばなりませんの。ここで仕留めねばどこまでもおってきますの」
ウェイは銃を構えた。相手もウェイを殺す気だ。ウェイは相手の射線から上手く抜け出し、的確に遠距離でいる人間を殺していく。
「そうそうやらせるわけにはいかないんだよ」
三人の実力者が襲ってくる。だがウェイは軽く素早いフットワークで躱していく。
そうやって残り三人まで追い詰めた。ここからが本番だ。
ウェイはサバイバルナイフを構えた。そして三人に突っ込んでいく。三人は三方から襲ってくる。短刀の男と、暗器ナイフの男と、槍使い。
まずは槍使いが向かってくる。暗器ナイフも飛んでくる中、槍を躱し懐に飛び込むウェイ。
だが当然槍は棒術も使える。
槍を振り回す相手をリンボーダンスのように躱し、更に踏み込むウェイに短刀の男が斬りかかった。だがウェイは避けない。背中で短刀を受けた。そのまま槍使いを持ち替えた拳銃で撃ち殺す。
「避けないだと……?」
「背中に傷を受けるのは慣れてますの」
血が流れるが少しだけだ、深くはない。相手の狙いとは別に背骨で受けたのだ。またウェイの服装は防刃でもある。それでも傷を受けたのだから相手の武器の強力さがわかる。
暗器使いは正確に急所を狙ってくるだけでなく、こちらの動きを予測して狙ってくる。
短刀使いも達人だ、間合いに踏み込めない。だがウェイはまず短刀使いから狙いを定めた。
サバイバルナイフを投げる。簡単に躱す短刀使いだったが、ウェイはワイヤーで軌道を変えた。そのままワイヤーで男の動きを封じる。
「ちぃ!」
瞬時に解こうとする短刀使いだったがその一瞬の隙に拳銃を構えて撃ち殺した。
パチパチパチ、拍手が響く。
「凄いね君」
暗器使いが語りかける。ウェイは不愉快だった。
「あなた、この二人が死ぬのを待っていましたわね?」
「正解。チームを組むのも嫌だったんだ。自由に動けないからね」
男はウェイと似たサバイバルナイフを取り出した。暗器と近接の二刀流の相手にサバイバルナイフと拳銃のウェイはニヤリと笑った。
「あなたにはもう勝ちの目がありませんですわよ」
ウェイが突っ込む。暗器を投げてくるが全て落とす。そしてサバイバルナイフ同士がぶつかる。
男は一度距離を取った。そしてめちゃくちゃにナイフを投げ出した。
「ヤケになりましたの?」
だがそれらにはワイヤーが付いていて角度を変えて絡みついてくる。
絡むワイヤーを外そうと四苦八苦するウェイに笑いかける男。
「俺に勝ちの目がないんじゃなかったの?」
近づいてきてウェイの顎を掴む男だったが、ウェイはニヤリと笑って奥歯を強く噛んだ。
カチッと音がして大きな仕込みナイフがウェイの胸から飛び出し男の胸に刺さる。
「馬鹿な……」
男は倒れて息絶えた。ワイヤーを外したウェイはバックとエラの元へ行く。
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