第31話 旅行編、スカイダイビング

 今度はシャルの提案だ。スカイダイビングをしようということで、ヘリコプターに乗って上空へ。バックはなるべく感情を低下させないように話し続けた。

「そういえばウェイはともかく、シャルもスカイダイビングのサポートできるの? 私もエラも初心者だから怖いと思うけど」

 シャルは自信ありげに頷いて胸を叩いた。

「任せてください! 実は趣味でスカイダイビングするのが大好きで、それを味わって欲しくて手配しました。空からの地上の眺めは最高ですよ!」


 いつにも増して気合いの入っているシャルは空へと向かうヘリコプターの中で準備していた。

「ワタクシも全然大丈夫ですわよ。パラシュートの使い方なんて慣れたものですわ」

 バックは下を見て、その絶景に驚いた。色んなものが点だ。スカイダイビングをする定位置に着くまでにエラは呟いた。

「そのまま落ちたら潰れるわね」

「物騒なこと言わないでよ」

 こんなことを言っているがバックは笑っている。冗談を冗談と受け入れることができるくらいに余裕ができてきたバック。

 やがて準備ができてダイブする時がやってきた。


「準備はいいですか?」

 事前の説明を受けてウェイがバックに、シャルがエラに付く。

「行ってきます!」

 ヘリコプターの運転手に別れの挨拶をして飛び降りた。

 落下していく体、バックは夢中になって楽しんだ。手を広げて落ちたり、浮力を得る形で浮き上がったり、だがその時だった。

(空にいるとは余裕だなぁ?)

 デスの月が語りかけてくる。

(今お前の周りを殺したら救えるかな?)

 バックはニヤリと笑った、そして祈った。今は太陽の出ている昼間、太陽の神の加護、バックの幻影がデスの月を苦しめる。

「今楽しんでるの! 邪魔しないで!」

 その叫びを聞いてウェイが何かあったのか尋ねる。バックは笑いながらウェイの指示を聞いていた。


「何でもないわ! ねぇ聞いて、ウェイ。私今日、初めてデスムーンを追い返したわ」

 それを聞いたウェイはバックの背中から頭を撫でる。今まで負け続けたバックは今日この日、デスの月に勝てることを知ったのだ。

 景色を楽しんでいてくださいませ。ワタクシがきちんと安全に降ろしますの」

 エラとシャルの方も問題ないようだった。バックは空から見た国を見て言った。

「美しい国だよ」

「本当ですわね、あなたが守るべき大切な国ですわ」

 ウェイの言葉に急にしんみりしたバック。ウェイはハッとして言った。

「いけませんわ! 感情を低下させないでくださいませ!」

 バックが気付いた時には遅かった。

(ハハハ! 俺に勝ったんじゃなかったのか? 結局こうなるんだよ!)


 死蝿が出現する。そしてエラとシャルが気絶した。命が失くなる。バックはまず死蝿を潰すことに集中した。一瞬でも判断を誤れば、大地へ衝突だ。

 ウェイに指示をして死蝿の位置を把握して潰す。その後、エラとシャルの方に近寄った。シャルの口に神薬を入れてシャルのパラシュートを起動させる。

 衝撃で薬が中に入ったシャルはパラシュートを操作して地上に降りていった。

 ウェイもパラシュートを起動させて降りていく。シャルはエラに神薬を飲ませていた。

 エラが気がついて、何がどうなったのかを尋ねる。


「ごめん、死蝿が出ちゃったの。何とか処理できてよかった」

 バックは落ち込みそうになるのを何とかこらえた。

「折角勝てたと思ったのになぁ」

「勝つって誰に?」

「デスムーンにだよ、四人で落ちてる時デスムーンが私以外の全員を殺そうとしたの、それを抑えられて嬉しかったんだけど……」

「ワタクシが余計な事を言いましたわ。ごめんなさい」

 バックは首を横に振る。ウェイの言う通りだったからだ。バックが守るべき大切な国だ。決して負けることは許されない。

 昼間に薄ら光る月を睨みながら太陽に祈りを捧げる。絶対この国を守り抜いてみせる。三つの顔の月の中でも凶悪なデスの月。

 この後バックは更なる試練を課せられる。車に乗りこみながらバック達は次の予定を話す。

 こうして人里から離れることでアーク=ディザスターの魔の手から逃れることができている、それだけでも大きな成果だ。



 こうしている間にもバック=バグ包囲網はアークの中で完成し始めていた。マップを見ながら怪しく微笑むアークは楽しそうに鼻歌を歌い始めた。


 そして博士は頭を悩ませていた。ダミーが完全に把握されている、そんな風にしか思えない状況に辟易していた。

 仲間の男がこれ以上はダミーを作れないと言い、提案する。

「いっその事、バックを牢屋に閉じ込めて残り日数を乗り切ったらどうだ? 死蝿は殺せないが薬は飲ませられるだろう?」

「そんな事ができたらとっくにやっている。能力蝿を放置すると犠牲者しか出ない。薬も無限に出るとはいえ、死蝿は無限に湧き出る。そのままバックを牢屋に入れたまま国が終わるだけだ。こんな当たり前の想像もできないか?」


 博士の怒号に頭を下げる男は、ではもう運を天に任せるしかないのではと言う。

 その通りだった、最早アークの手からはバックは逃れられない。ならばと、博士は言う。

「敢えてバックを囮にしてアークを炙り出すしかない」

 この手は最終手段。あと一週間、なるべく部屋で過ごして欲しいところだが、守られてると感じると感情を低下させるバックが本当に厄介だと思う博士。

(守らせてくれよ……バック=バグ)

 何故守ることに抵抗を覚えるのか、それはわかっているのだが、今くらい大人しく守られてくれれば丸く収まるというのにと愚痴りたくなる博士だった。



 ウェイはホテルの控え室で電話を受けながら、状況を確認する。今どれだけ逼迫しているかの報告を受けてため息が出る。

「ウェイ、大丈夫ですか?」

 シャルが心配そうに尋ねる。敵の情報はシャルも掴んでいるが、守るのはウェイがメインだ。

 ウェイの悩みは尽きない。明日はテレビゲームをしようと提案したウェイ。それでもってくれたらいいのだが、そう上手くもいかないだろう。

 もし死蝿が出たら外に出ないといけない。そうなったら危険度が増す。

 またハイキングにでも行ければ気晴らしになるかもしれないが、結局どこも同じ思えてくる。

 どの選択ならバックが安全かにずっと頭を抱えているウェイは、悩んでいても仕方ないと切り替える。

「ワタクシが全力で守ればいいだけですわね」

 シャルにそう言うウェイだった。

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