第30話 旅行編、スキー

 デスムーンの効果はバックの近くから発せられるという事で、スキー場に行ってもいいだろうとウェイは提案する。

 ウェイ達からしてみれば人の街から離れた方が見つかる可能性は低くなる。

 勿論そういう場所にも敵はいるわけだが対処はしやすい。

 バックは勿論承諾した。エラはスキーウェアや道具は借りるのかを聞いたが、リスクが大きいので買ってあると言う。

「私が断ったらどうするつもりだったの?」

「別にどうもしませんわ。必要ありませんでしたら、売ればいいだけですのよ」

 そういう事にも疎いバック。ウェイが大丈夫だと言うから大丈夫なのだと考え思考を放棄する。


「この時期にスキーってできるの?」

 エラは尋ねる。今は三月、まだ寒いとはいえ徐々に暖かくなってくる季節。

 だがウェイは全く問題ないという。

「雪が降らなくても人工雪でスキーはできましてよ。スノーボードも持っていきますから楽しみますわよ」

 いつもより大きな車に乗り込むバック達、運転するのは当然シャルだ。

 車で急な斜面も登っていく。そうしてスキー場についたバック達は、ロープウェイで更に登っていく。

 その間もおしゃべりで楽しみ、なるべくバックの感情を下げないようにする。

 頂上に着いた時、絶景に感動したバックとエラ。

 ウェイとシャル早速装備を付けさせていく。そして、二人にスキーのやり方を教えていく。


「ワタクシが並走いたしますので安心して転んでよろしいですわよ」

 そう言うとスノーボードに乗るウェイ。

「私はスキーですし、エラを見ますね」

 そうして四人は出発した。

「うわあ! ちょっと怖い!」

 エラの叫び声が後ろから聞こえる。バックはどんどんバランスを取りながらスピードを上げていく。

「上手ですわよ! どうせなら直線よりクネクネと滑ってみましょう!」

 ウェイの滑りを見たバックは見様見真似で捻りを入れてみる。するとどんどん楽しくなる。

 実は下まで距離のある上級者コース。初めてスキーをしたバックなのに抜群の運動神経でやりこなしてしまった。

 下まで行くとウェイが拍手をした。

「周りもよく見えてますし、素晴らしいですわ。ボードにも挑戦してみましょう」


 再び頂上までスキーリフトで登る二人。そしてウェイはスキー板を付けて、バックにスキーボードを渡す。そして扱い方をざっと説明する。

 バックはそれだけで理解したようで、ウェイも感心する。

 滑って行くとエラとシャルが見えてくる。どうやら転びながらいたようだ、だが少し嫌な空気が漂っていた。

 ナンパだ、遠目からわかった。バックとウェイはそちらに向かう。

 シャルが断り続けているようだったが、しつこく付き纏っているようだった。

 バックとウェイが寄せると、男たちは二人を見た。

「ワタクシたちの連れに何か用ですの?」

「おー! 君達も可愛いねぇ、どう俺たちと滑らない?」

「シャル、マークも無意味でしたの?」

「ええ。無知な人達のようで……」

 ウェイはため息をついた。無知というよりはそちら関係に関わっているのかもしれない。

 こうなると他の手段を考えなければならない。


「そうですわね、ワタクシとそちらにいるバックという女の子に勝てたら考えますわ」

 バックは焦る、ウェイはともかく自分の技術は今日身についた物だ。だがウェイが後押しする。

「ワタクシについてきてくださいませ。バックならできますわ。できなかったらワタクシが何とかしますので気楽に臨んでくだいませ」

 ウェイの言葉に、ウェイを信じようと思ったバック。

「俺たち上手いぜー! じゃあやろうか」

一斉に滑り出す。バックはすぐに遠くなるウェイを追いかけた。体重をかけて、転ばないようにかけ過ぎずちょうどいいバランスをとる。


 男たちはどんどん後ろに置いていかれる。速さにおいてウェイを超えることはできなかったが、バックはウェイの背中を追い続けた。

(まただ)

 背中を追う姿が昔と重なる。

(行かないで!)

 まるで夢見を見ているかのような気分になっていく。

 死蝿が一匹湧いてしまう、ウェイが倒れた。ウェイに薬を飲ませて、起き上がらせる。

「ああ、そうでしたわね。私を追う姿は駄目なのを、スッカリ忘れていましたわ」

 まだ勝負も終わっていない。バックはウェイに薬を飲ませるのを任せ、死蝿を追う。勢いをつければすぐに追いついた。そして滑りながら潰す。

 倒れた人に薬を飲ませるとウェイが追いついてきた。


「さぁ、締めましょう。並走しますわよ!」

 バックとウェイは二人仲良くならんで、ゴールする。遅れてやってきた男たちは、拍手してさらに近寄ってくる。

「いやぁ、凄いねぇ。ますます惚れ直したよ。カフェがあるからそこで一緒にお茶しないかい? 勿論さっきの二人も合わせてさ」

 会話が通じないタイプの人間だ。こうなると最悪実力行使しかない。

 ウェイはスキー板を外し瞬時に男の一人に近寄って見上げた。そして囁いた。

「ワタクシ殺し屋ですの。なので殺し合いでお話しましょう」

「なっ……」

 バックに見えないようにナイフを突きつけるウェイに男は唖然とした。流石に引いて逃げていく。もう一人の男も逃げていくのだが、ウェイは釈然としない。

「まさか殺し屋と名乗って逃がす日が来ますとは思いませんでしたの」

「ウェイ、ごめんね」

 謝るバックにウェイは彼女の頬を撫でる。

「いいんですのよ。バックを守るためでしたらなんのことはないですわ。さぁ、もう一度上に登って、エラとシャルを迎えに行きましょう」

 バックは頷いてリフトに向かう、それを見てウェイは胸元の何かに指示を出した。

 

 頂上に登り、三度目の滑走。バックとウェイはスキー板とボードを交換して向かう。エラとシャルはあんまり進んでいない。上級者向けに一緒に来るべきではなかったとウェイは思う。

 ゆっくり進むエラを見守るシャルに声をかけて、ウェイは言う。

「これでは日が暮れてしまいますわ。エラ、ワタクシが抱えますから首に手を回してくださいませ」

 エラをお姫様抱っこしたウェイがボードで滑走して行く。それを追う形でシャルもバックを前にして滑る。

 その様子をウェイの腕の中で見ていたエラは下にたどり着いた時聞いた。

「バックはスキー、本当に初めてなの?」

 それはエラだけでなくウェイとエラも思っていた。

「初めてだよ。ただ体の動かし方とかはなんとなくわかるんだ。昔からバランス感覚とかを鍛えていたからかな?」

「羨ましいなぁ、私ももっと体動かしておけばよかった!」

 エラの言うのに苦笑するバック。あちこちを動き回ったからこそ身についた力。

 それでも、そんな力でもこんなふうに役に立つなら、意味はあったのかもしれないと思ったバックだった。

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