第27話 旅行編、アスレチック

 バックの希望でアスレチック広場に来た四人。ウェイがバックに、シャルがエラに付いて安全装置を取り付けたりしてくれる。

「ワタクシには安全装置なんて邪魔なだけなのですのに」

 自分も付けないといけないことに不満を持つウェイにバックは笑った。

「ウェイに万が一なんてないもんね」

「そうですわよ」

「でも億が一はあるかも」

 エラがそう言う。ウェイはにこやかに、ありませんわ、と言うのだがエラは頑なに言う。

「背中の傷が物語っているわよ」

 バックは、確かにと頷いた。それに困ったウェイは大人しく安全装置をつける。

 シャルが安全装置をつけたところで出発した。ぴょんぴょん飛び回るウェイにバックはついて行く。

「待ってよー!」

 エラはゆっくり行くしかできない。シャルがエラに付いている。

「私に合わせなくていいよ、シャル。バックの護衛でしょ?」

「私はエラの護衛でもあります。エラが怪我をすればバックの心が落ちます。ですから、エラの安全も私とウェイの役目なんです。ウェイはバックに確実についてないといけませんから、今回は私がエラをサポートします」

 それを聞いたエラはゆっくりアスレチックを楽しみ始めた。


 バックはウェイが自分の速さに合わせて進んでくれているのを噛み締めていた。ウェイの心遣いに感謝すると共に、追いつきたいと思うのだった。

 自分が後ろを追うのが何かと重なる。

「お母さん……なんで……?」

 ふと涙が溢れて止まらなくなった。ウェイが突然足を止めて、飛び寄ってくる。

「危ないよ、ウェイ……」

「そんなことより、どうしたんですの?」

「ウェイを追う自分が、昔お母さんを追う自分と重なって、ウェイがお母さんに見えたの……」

 幻覚……そうなってしまったものは仕方ない。

「死蝿はどれくらいいますの?」

「二匹だよ」

「もう落ち着きましたわね?」

「うん、行こう!」

 上から安全装置で降りる。死蝿が飛んでいる方向はエラ達のいる方向だった。

 人々に薬を飲ませて行きながら、エラ達を探す。やがて安全装置でゆっくり落ちて倒れているエラとシャルを見つけた。

 薬を飲ませて生き返らせる。


「うっ……」

「良かった、ごめんね。私たちは死蝿を追いかけるよ、ゆっくり休んでて」

「シャル、エラを診ていてくださいますわね?」

「わかりました、気をつけて」

 走るバックとウェイは、ウェイが倒れた人々に薬を飲ませ行く。

 困ったことに上空に飛んでいた。死んだ人が安全装置と共にゆっくり落ちてくる。薬を飲ませ生き返らせるが、これではキリがない。

 薬も無限ではない、どうしたら……と思っていると、ウェイが死蝿はどこにいるか尋ねた。

 バックは死蝿の位置を示す。するとウェイが屈んで、肩に乗るように言ってきた。何をするのかがわかって一瞬臆するバックだが手段は選んでられない。

 バックが死蝿を殺すための射程範囲までウェイはバックを投げ飛ばした。

 人間砲丸になったバックは死蝿に一気に近づき、能力で潰した。そのまま落下するバックはウェイに受け止められ着地した。


「もう一匹潰さないといけないよ」

「行けますの?」

「大丈夫。ウェイが優しく受け止めてくれたから」

 走るバックとウェイはアスレチックを下から逆走する。

 網に倒れている人がいる。死蝿はもうすぐそこだ。再び上にいる、ウェイはバックを背負いボルダリングで登っていく。

「ウェイ大丈夫!?」

「これくらい平気でしてよ」

 そして網のところの人に薬を飲ませた後ウェイはバックに上を任せ、下に降りた。

 まるで忍者のようなウェイに感心しながら、バックはアスレチックを逆走して死蝿を潰した。

 下に降りたバックは倒れた人に薬を飲ませたウェイと合流した後、エラとシャルがやって来るのを見た。

「何があったの? バック」

 エラが聞いてくるので説明する。エラは、それは防ぎようのないことだと言った。

 ウェイが悪いのではなく、バックの問題なのだ。こういう事は度々起こっていたと言うバック。


「色んな光景が昔と重なって悲しくなることはよくあったことなの。それはもう、私にもどうしようもない事だから……」

「今は楽しくない?」

 エラの問いに首を横に振るバックは、エラを抱きしめて言った。

「エラと仲良くなってから全部が楽しい。勿論ウェイもシャルも。ただそれらがいつも、パパとママのいた時に起こって欲しかったと思ってしまうの」

 バックは感情を落とさないように慎重に言葉を選ぶ。それを聞いて、過去は変えられないから、過去には勝てないのかもしれないと感じるエラ。

「逆なのですわよ」

 ウェイの言葉に注目するバック。

「それらがなければエラは仲良くなってなかったかもしれないですし、ワタクシとシャルは接点がありませんわ。ワタクシなんて殺し屋ですからあなたを殺しに行っていたかもしれませんのよ?」

 バックは確かにその通りだと思ったからこそ、この出会いに感謝した。

 エラが迫ってくれたからこそ繋がっていったこの運命の糸に、もっと早く心を許していればとバックは思うが、結局どう足掻いても過去があるから今の現状があるのだと、そう考えて悩むのをやめて前を向いたのだった。

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