第21話 旅行編、美術館

 バックはウェイに美術館を提案された時、美術品を見て何が楽しいのかと思っていた。

 だが現地に行った時、驚きの連続だった。ローディア美術館、この国最大のこの美術館では様々な展示品が並んでいる。

 それらの説明をするシャルに並んでガラス越しに覗く美術品たちは、様々な芸術要素でできていて、バックは目を光らせた。

 特に絵画に目が止まる。大きな絵画には人の欲望や罪が描かれていて、どれも壮絶な想いで画家が描いたのだろうと感じられた。

 綺麗で楽しくなるような絵画より、人間そのものを描いた風刺的な絵画に注目するバック。


 ただ、エラはとても退屈そうにしていた。その様子にウェイは小突いた。

「折角バックが楽しんでるんですから、もう少し楽しそうにしてくださいませ」

「だって、別に感動しないんだもん」

 ウェイはそれを聞いて悪い顔をする。

「お子様ですわね」

「な、なんですって!?」

「美術品の価値がわからないんでしょう?」

「わかるわよ! あれは百万くらいでしょ?」

 適当に言うエラにウェイは呆れて言う。

「あれ一つで一億ですわ」

 ひっくり返りそうになりながら驚いた顔で尋ねる。

「あんな子供でも描けそうな絵が?」

 それは落書きのような絵画だった。『アミダの遊び絵』と呼ばれたその大きな絵画は、画家アミダの代表作の一つだ。

 その絵の価値は、本人の知名度にもよるだろう。

「私にも描けそうだよ」

「描いてみてはいかがですの?」

 エラは苦笑して『アミダの遊び絵』を眺めた。


 骨董品エリアに着いた時、壺を見ながらバックは言う。

「お父さんがこんな壺を沢山持ってたな」

「そうなの?」

 エラが尋ねるとバックは思い出しながら言う。

「私が走り回って壺を割っちゃった時あってね。泣き喚きながら謝ったら、怪我がなくて良かったって笑ってたな。きっと高価な物だったはずなのに」

「親はそういうものです」

 シャルは語る。自分が政府に直属している事をシャルの両親は知らない。

 だが、いつもシャルの心配をして手紙を寄越してくれると言う。

「親の心子知らずなんて言葉があります。子供は親になって初めて親の気持ちを知ったりするものですよ」

 その言葉にバックは驚いた。


「シャル、子供がいるの?」

 しまったという顔のシャル。ウェイがシャルを睨む。

「あの、それは……」

「誤魔化さないで」

「……います。個人情報にはあまり踏み込んで欲しくないのですが」

「じゃあ、今すぐこの任から外れて! あなたが死んだら子供が悲しむよ!」

「……それはエラやウェイなら死んでも構わないということでしょうか?」

 バックは驚いた。確かにその通りだ。エラやウェイも死んではいけない。

「皆あなたを守りたくているのではありません。あなたの傍にいたくているのです」

「でも、もし子供に会えなくなったら……」

「でしたら、必ず守りきると誓ってくださいませ」

 そう言ってウェイが口を挟む。

「あなたが言ったんですわ。ワタクシを守ってくださると。それをシャルにはしないんですの?」

 その通りだ。シャルも守りたいと思う。だがバックは非力だ。結局対人では守られることになる。


 だがシャルは望んでここにいる。それを拒否することは簡単だが、なにか理由があるのかを聞くバック。

「約九年前です、旦那が不幸にあって亡くなったのは」

 それはバックが何もできなかった頃と重なる。博士と何とかできないか模索していた頃だ。

「その時は何があったのか何も分からなかったんです。突然倒れたそうで近くにいた人も亡くなったそうです。原因不明の死に、何も分からずにいました」

 子供がまだ一歳で幼い子供だった。旦那の死の謎に迫ろうとした時、博士にスカウトされたそうだ。

 原因を知った時、当初はバックを恨んだそうだ。だが、バックの身の上話を博士から聞いた時、自分と同じだと感じたと言うシャル。

 何も分からず、ただ月呪法をしてしまったバックを憐れんだシャルは、バックの力になることを決意した。


 それからはバックの支援を多くの人としてきたそうだ。前線に立つことはなかったが、数少ない女性としてバックを裏で支えてきた。

 たまたま女性としてウェイの支援係を受ける事になっただけで深く関わろうとは思わなかったシャル。

 何故ならバックはそれらを断ってきたのを知っていたから。

 だからこそ、折角受け入れられたのに離れることを望まなかった。

「それでも人を交代しろと言うのなら仕方ありません。私はただ……」

「ごめんなさい、ありがとう。離れなくていいよ」

 バックは最後まで聞かずに答えた。シャルの気持ちは嬉しかったから。

 バックのせいで旦那さんが死んだのに、シャルはウェイのサポートでバックの支援をしてくれている。

 なのに自分勝手な思いで任を解けば、シャルの心が守れない。


「でも無茶はしないで。必ず子供の元に帰ると約束して」

 そうバックが言うと、シャルは微笑んだ。

「当然です。あなたも私もエラもウェイも、あなたの誕生日まで死なせません。何もかも私が守ります」

「あら、それはワタクシの仕事でしてよ。どのみちシャルに危険はありませんわよ。ワタクシ、最高の殺し屋でしてよ」

 ウェイの言葉に皆が笑う。話し合いが落ち着いてホッとしたエラはこう言った。

「安心したらお腹が減ったわ」

「ふふふ、そうですね。食事処へ行きましょう」

 こうして四人はご飯を食べに行くのだった。


 ホテルに帰ってエラが寝た後、ムクリと起き上がったバックは、植物園でシャルから受け取ったものを広げて、作り始めた。

「手紙ですの?」

「うん、見たら怒るよ?」

「でしたらワタクシもシャルと共に、部屋の外に立っていますわ」

 バックは手紙を書き綴り、ある行動をとった。そして全て書き終わると、シャルとウェイに渡した。

「私の誕生日の前日まで開けないで欲しい。あとこれは……」

「わかりました。預かっておきます」

 何かを頼んで、笑顔になるバック。

「まだ明日もありますわよ、楽しみましょう。おやすみなさいですわ、バック」

 バックはベッドにダイブする。これできっと大丈夫。

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