第14話 孤立する二人にエラ=フィールドは……

 そうこうしているうちにバックとウェイは孤立した。まぁウェイは密かに想いを寄せる男たちがいるわけだが、バックはそんな人はいない。

 エラは学校では他人のフリをしなければいけない、その事に苛立ちを覚えていた。

 いっその事ウェイのように振り切って接することができたら……それができない自分が嫌になるエラだった。

 バックはエラに学校では関わらないでほしいと言っている。なのにウェイには言わないのは護衛だからだろうか、そう考えバックに尋ねた。

「半分正解、もう半分はウェイの機嫌を損ねたから」

 ウェイはバックを守りたいと言った、なのに周りにはバックの感情を低下させる要素が沢山潜んでいる。

 それなのに傍にいられないのは困ると言われたのだ。

 だからバックはウェイだけは傍にいることを許したのだ。

「それなら私も傍にいさせてよ、私だって学校で三人で話したいよ」

「でもエラには他にも友達がいるじゃない」

「そうだけど……」

「エラ。この家でこうして話せるんだから、我儘言わないで。学校では私たちの事気にしなくていいんだよ」

「うーん……」

 エラは納得いってない。そしてこう言った。

「協力者を増やすのはどうかしら? 話せばわかってくれる人もいるはずよ」

「それはオススメしないですわ」

 ウェイが口を挟む。バックも頷いた。それはできないのだ。

「私が昔それをしようとして嘘つき呼ばわりされて感情を大きく低下させてしまったことがあるの、基本的には誰も信じてくれないわ。エラが初めて信じてくれたの例なのよ」


 それはあのデスの月を見たからだが、早々そんなチャンスもないだろう。エラは困ってしまった。どうしたらエラがバックとウェイと共に学校生活を送れるのか、それを考えるエラにウェイが助け舟を出した。

「ワタクシが博士に言って、何かアイデアを出して貰いますわ。バックもエラが悩んでいると、感情が落ちるですわよね?」

「そうだね。真剣に悩んでくれてるのに、何もできないと私もちょっと嫌だな。ウェイ、頼んでいい?」

 そうして博士に報告するウェイ。博士は学校長へ働きかけた。

 次の日、朝礼で花壇の水やり係を任命された、バックとエラとウェイ。

「エラ、不運ね」

「大丈夫? エラ」

「大丈夫よ」

 エラは内心ガッツポーズをしていた。それは朝と昼休みの間だけの係だったが、これでバックとウェイにも話しかけることができる。

「ありがとう、ウェイ」

 エラの感謝に笑ったウェイは、ただし、と付け加えた。

「調子に乗って他の時間に話しかけないでね。バレたら余計拗れるから」

「わかった」

 花に水をやりながら談笑する三人の笑顔の花が咲いたのだった。



 アーク=ディザスターは苛立ちを覚えていた。一向に殺せた報告がこない。どうやらバック=バグも多少の変装やメイクをしているせいでわからないようだ。

 ハッキリとした写真を得たにも関わらずダミーばかりを掴まされるのは、政府の上の者が優秀だからだ。

 そして、気付かれた殺し屋は消される。払った前金も行方不明になっていく。このままではジリ貧だ。

 せめて学校がわかれば、と思うが駄目だ。逃げられるに決まっている。

 悩むアークに、金を支払えと言う電話がかかってくる。

 バック=バグを殺したという偽情報の電話だ。頭を悩ませるアーク。三つの顔の月は凄惨な顔で、アークを責める。

「あらあら、バック=バグを殺せないのですか?」

「ほほほ、早くしてくださいな」

「ふん、使えないな」


 バックのせいで折角の呪いも全く機能しない。殺せた人数は昔に比べ減り、もういない。完全に神の薬により対策されてしまった。

 三つの顔の月は大きくなりアークに迫る。

「次のデスの月までに仕留めなさい」

 アークは拳を握りしめ頷く。平穏な日々を送り笑い合う三人の裏で、アークは悩んでいた。

 もうすぐ期限が来るのだ。あと二ヶ月ちょっとでバックの十八歳の誕生日。もはや猶予は残されていない。

 アークは何としてでもバックを殺し、呪いで国の人々を殺す、それだけが彼の願いだった。

 狙いは政府の人間、あいつらを殺すのはほぼ不可能。だからこそ、三つの顔の月に願うのだ。


 あの日、世界を救うためと謳って月神会を立ち上げ、様々な人に月呪法を試させたアーク=ディザスター。

 成功したと思った矢先、中々死んでいかない人々に不信感を抱き、調べ続けた後、三つの顔の月とアプローチの成功したのが約半年前。

 時間がない焦りとバックへの怒りで、殺意を深めたアークだからこそ、慎重だったのだ。

 絶対に失敗してはいけない。最後のデスの月が終わるまでには、必ずバックを殺してみせる、そう思うアークだった。

 三つの顔の月の情報によると、月呪法は十年抑え続けられると消えてしまうが、抑えるのが解けてしまえば、後はまた抑えられない限り止まらないそうだ。

 だから期限までにバックを殺せさえすれば確実に政府の人間を殺せる。

 アークはもうその事しか考えられなかった。それ以外に彼の生きがいはなかったからだ。

 彼の心はもう既に死んでいたのだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る