第13話 イジメを払いのけるウェイ=ヴォイス

 ウェイはバックに学校でも勉強を教えた。

「ちょっとウェイ、学校ではあんまり目立つと……」

「別にワタクシ、どう思われても構いませんわよ」

 ウェイはバックに囁く。そして、後ろからの気配にも気づいていた。

 ウェイは不意に後ろに拳を振り上げた。バケツを持って被せようとした女子生徒はバケツを叩き飛ばされ水を丸々被った。

「きゃあ!」

「あら失礼しましたわ。こんな所で掃除なんて殊勝な事ですわね」

 イジメようとした女子生徒はわなわな震えている。

「ちなみに、次何かしようとしたらあなたのお父上に報告致しますわよ? ワタクシの知り合いが、あなたのお父上の働くリズボーン会社の社長ですの。あなたのお父上をクビにする事なんて造作もないのですわ」


 それを聞いた女子生徒は顔を真っ青にしていた。

「謝罪はないんですの?」

「う、嘘なんていくらでも……」

 するとウェイはメモに何か書き始めた。

「これあなたのお父上の電話番号と、社長さんの電話番号ですわ。別に今からかけてもよろしくてよ?」

「な、なんで……? あなた何者よ?」

「ワタクシの事より謝ることがあるんじゃないかしら?」

「すいませんでした……」

 ずぶ濡れの彼女はトボトボと歩いて着替えるために保健室に行った。

 それ以来いじめに来る人はいなかった。


「やりすぎよ、ウェイ」

「あれくらいしないと相手は引きませんわ」

「バケツの水かけさせようとするなんて普通この学校でそこまでの事はないわよ? 何をしたの?」

「バックはこういうことに関しては情報に疎いんですのね。単純にあの子の彼氏の注目を浴びてしまっただけですわ」

 ウェイは小柄で胸が大きい。可愛らしい童顔で、男の興味を引く。水色の髪も素敵で、おまけに色気もある。

 そんな彼女が男子から注目を浴びるのは仕方なかった。だがウェイからしたら注目されるのは困ることだ。

 だから秘密裏に、卒業まで待って欲しいと、キスをしてほとんどの男と約束したのだと言う。卒業まで待ってくれたら、色んなことをしてあげると言うウェイに男たちはメロメロだったそうだ。

 残酷なことにそれを叶える気はウェイには全くない。

「頭が痛くなるよ。人の心を弄ばないでよ」

「勘違いしないでくだいませ、バック。弄んでいるのは彼らですわ」

 彼女がいるのにも関わらずウェイとそういう関係になりたいという男たち。彼らもまた人の心を弄んでいる。

「バレたらどうするの?」

「全員に、『ワタクシ多くの男と約束してますの。あなたが誠意を見せてくださるか、試させていただきますわ』と言ってありますわ」

 まぁここまでくると騙される方も騙される方かと苦笑するバック。


「ワタクシが本当に愛してるのはバックだけですわよ」

 そっと耳元で囁くウェイに耳まで赤くするバック。

「わかったわかった。そういう事にしておいてあげる」

「あら、ワタクシ本気ですのに」

 ニッコリ微笑む笑顔が眩しい。こうやって男をおとしてきたんだろうなと再び苦笑する。

「信じておりませんわね?」

「まぁそれはそうでしょ」

 むーっとするウェイは放課後、バックと共に帰りながら影でキスをした。

「ま、待ってウェイ! ここ外だから!」

 迫ってくるウェイに慌ててバックが止める。

「ワタクシが本気なの分かっていただけました?」

「わかった! わかったからもうやめて!」

 感情を低下させるわけにもいかないと引いたウェイだが、スキを狙っているようにも見えて、その本気度がうかがえる。


「女同士は嫌ですの?」

「嫌、ではないんだけど……」

 バックは悩んでいた。ウェイの行為は嬉しいが、愛されていいのかわからないのだ。

 困惑するバックは慌ててウェイに言った。

「半蝿が出た! ごめん! 車を!」

 ウェイはテキパキと連絡し車を回す。今回は二箇所だけだったが、ウェイはやり過ぎたかと反省した。

 そんなウェイを見てバックは笑った。ウェイのせいではないからだ。

「違うの、ウェイ。私、愛されていいのかな? って思っちゃって」

「あら、それでしたらワタクシこそ愛されてよろしいのでしょうか? 殺し、騙し、貶めて。ワタクシは愛されるべき人間ではありませんでしてよ」

 そんな事ないと言いたかった。バックはその言葉を飲み込んだ。ウェイは殺し屋だ。ここでふと疑問が沸いた。

「殺し屋って犯罪者とは違うの?」


 ふふふと笑ったウェイは説明する。この国の法で裁けぬ悪人を殺す、それが殺し屋だ。

 勿論理由もなく一般人を殺してはいけない。またライセンスを持っていない人間は、殺し屋を名乗れない。

 ゴールド、シルバー、ブロンズの順にランクがあり、ウェイはゴールドの殺し屋だ。

 ゴールドになるのはごく一部で、沢山の厳しい条件を満たした殺し屋がなれる。

 ほとんどの殺し屋はブロンズ止まりだそうだ。

 ウェイの話を聞いて、ウェイはどんな試練を越えて、どんな任務についたのか聞きたくなったバック。

 だが流石に守秘義務を破ったらゴールドライセンス剥奪だと苦笑したウェイに「そうだね、ごめん」と笑ったバック。

「ウェイはどうやってゴールドライセンスを取るくらい強くなったの?」

「ワタクシには育ててくれた師匠がいますの。その方から色んな事を教わりましたわ」

「どんな人なの?」

「ワタクシ、あの人の話するの苦手ですの。勘弁してくださいませ」

 照れているんだろうかと思ったバックだったが、ウェイは本気で顔も思い出したくなくなるほどのようだった。厳しい修行を思い出して、帰りの車で吐きそうになり窓の外を眺めて心を落ち着けるウェイだった。

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