第12話 勉強を教えるウェイ=ヴォイス
「皆で勉強しよう」
そう提案したのはバックだった。それはエラのある行動が原因だった。
時間は一時限目に遡る。
◆
「エラ! 起きなさい、エラ!」
「うーん、むにゃむにゃ」
「エラ=フィールド!」
「はっ! はいっ! 先生!」
「全く、評価を落としますよ? 昨晩は何をしていたんですか?」
「すいません……勉強をしていました……」
その言葉にため息をついた教師は呆れ返っていた。
「遅くまで勉強をして次の日の授業で眠っていては意味がありません。それもあなたの様子では予習をしていたわけではありませんね?」
エラは勉強で置いていかれないように復習して夜を明かしたのだ。
「すいません……」
「気をつけなさい。睡眠不足はお肌にも天敵ですよ」
◆
そういう事があったので、エラは昼間に勉強しようとしたのだが、バックの事が気になって学校で勉強できない。
それに気づいたバックは、家で集まった時に勉強しようと言ったのだ。
「エラは何が苦手なの?」
「ほぼ全教科得意よ」
「じゃあなんで復習してたのよ」
「私の家、テストの点数に厳しくてね。九割以上の点を取ってないとお小遣い減らされるのよ」
バックは、それは一大事だと言いながら、自分も制限があることを話した。
「私は博士に最低六割の点は取るように言われてるわ。評価に関わるからね」
「それくらいなら授業だけでも取れるんじゃない?」
エラの言葉に苦笑したバック。授業すら時々抜け出していたバックはある物を博士から受け取ったと言う。
バックは音楽を流す。何か歌詞は聴き取り辛いが、勉強の事を流しているのはわかった。
「私は五感が鋭いから、これでも聴き取れるの。これで覚えてるわ」
それでもギリギリだけどねと笑うバック。エラは今度はウェイの方に向いて話しかけた。
「ウェイはどうなのよ?」
「全て百点満点ですわ」
バックとエラは目を丸くして驚いた。
「カンニングしたの?」
「正攻法ですわ。これくらいでしたら全て暗記することなんて簡単ですし、応用させるのも余裕ですわ」
「天才じゃない!」
エラは改めてウェイの凄さを思い知らされた気分だった。
「もっと難しい暗号を丸暗記して一つも間違わずに味方に送ったりしていましたもの。命懸けですわよ」
命が懸かっていれば失敗なんて許されないだろう。本当にウェイが同い年なのか(実際は二つ歳上の事は二人は知らない)疑いたくなるエラだった。
バックは三人で勉強する中で、ウェイに教えて貰っていた。
「ここはこういう風に当てはめるとわかりやすいですわ」
そしてウェイはエラの勉強も見る。
「エラ、ここの問題間違えていますわ。ここはこの公式を使うんですわよ」
バックは鼻歌を歌いながら勉強する。エラはバックに尋ねた。
「そんなに楽しい?」
「三人でする勉強は楽しいよ」
それを聞いたエラも何だか楽しくなってきて、笑顔で勉強する。
(これなら危険を犯さず、バックの感情を維持できますわね)
そう思ったウェイは笑顔で話しかける。
「これから毎日ここで勉強しましょうか」
すると二人の表情が曇った。毎日は流石に嫌だと抗議するエラ。
「まぁ三人なら楽しいから私はそれでもいいけど」
だがバックも明らかに不満気味だった。エラはバックの肩を掴んだエラはウェイに頼んだ。
「三人の思い出作りにもっと協力してよ、ウェイ!」
それを言われてはどうしようもない。ただし、と言う。
「成績を落としたり評価が下がったりするような事は許しませんわよ?」
はーい、と手を挙げるエラに笑ったバックは引き続き勉強を教えてもらう。
楽しげな勉強会に神薬の植物も伸びていく。バックの心が楽しめれば、それで伸びるのだ。
バックの心が反映される神薬の植物。ウェイが採取して薬に変えながら、呟く。
「この植物や三つの顔の月だけは、どれだけ勉強しても理解が追いつきませんわ」
超常現象的なこれらの物は、人智を超えている。欠蝿、半蝿、死蝿も、どうなっているのかはバックにしかわからない。
放っておいたら大変なことになる事だけはわかっている。だからこそバックの感覚が頼りなのである。
とにかくバックの感情を低下させて、月の呪いの力を強めてはいけない。バックに楽しんでもらって月の力を弱めなければならない。
ウェイは、バックの髪を撫でた。
「うん? どうかした? ウェイ」
見上げ見つめる目を可愛らしく思ったウェイはバックの頬にそっとキスをする。
「もう! ウェイ、真面目に勉強教えてよ」
「ワタクシ、いつだって真面目ですわよ」
バックにそう微笑み音楽を流す。勉強の音楽ではなく、リラックス効果のある音楽だ。
「少し休憩致しましょう。根を詰めても良くはありませんわ」
床に寝転がる二人のためにキッチンで紅茶を淹れるウェイは音楽の音色につい、鼻歌を歌ってしまう。
「ウェイ、楽しい?」
バックが寝転びながら尋ねる。
「ええ……とても」
「よかった」
まるでバックがウェイの心の安寧を守っているかのような居心地に、ウェイはハッとした。
(いけない……ワタクシが油断してはいけないですわ)
「ウェイ?」
「何でもありませんわ」
ティータイムの三人は談笑しながら、帰りの時間まで勉強したのだった。
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