第15話 アーク=ディザスター動く

 アークは再び殺し屋を集めてこう言った。

「できるだけ多くのバックと思われる人間にマーキングして欲しい」

 そして殺し屋たちと結託して、消された殺し屋の地点を特定して行った。

 するとある場所だけ避けられ気味だったのがわかった。恐らくダミーを配置すると本物に引っかかりかねないからだろう。

 手練の殺し屋と共にその場所に紛れ込んだのだ。



「やられましたわ」

 ウェイは舌打ちした。複数人の殺し屋の気配を後方から感じ取ったのだ。まだ後ろにいてバックに気付いてないのが救いだ。

「バック、振り向かないで聞いてくださいませ」

 ウェイはバックに説明する。バックはウェイの説明をなんでもない振りをしながら聞いて、サポートしてくれる人に紛れて帰宅した。

「引っ越しますわよ」

「エラに連絡いれないと」

 ここはバックの生家ではないから未練もない。神薬の植物だけはもっていかないと。

「学校も変えるの?」

「それは避けたいですわね、あまり派手に動きすぎると逆効果ですわ」

 バックの家だけ交換したいところ、ウェイは博士に連絡を取り相談する。

 その間にバックもエラに連絡する。


「はい……はい、ですから家を引っ越し……え? 必要ないですの?」

 それを聞いたバックがウェイの携帯電話を受け取り博士に話を聞いた。

「博士、引っ越さなくていいの?」

『ああ、必要ない。今から後二ヶ月分の変装顔パックを用意するから通学時にそれを付けて行けばいい。あと護衛のウェイを一緒に暮らさせてくれないか? そこまで心を許したのなら可能だろう?』

 今までは近くの借家から通っていたウェイ。より怪しまれないために、バックと共に暮らす事を許可して貰えないか尋ねる博士。

「ウェイも危険ってことね?」

『……そうだ』

 バックがウェイを思って言っているのを感じながらも、それを利用した博士。

「わかった。それでいいよ」

 ウェイは携帯電話をバックから返してもらい、話を聞いて飛び上がった。

 そして変装顔パックを作るならエラ用の物もと進言するウェイ。エラが狙われる可能性もあるからだ。

『スグに用意する。ウェイ、頼んだぞ』

「わかっていますわ」


 そうして博士はすぐに変装顔パックを用意して女性に持ってこさせた。ついでに家に着いたエラにも渡す。

「学校から友達と別れてこの家に来る時にトイレでつけてくださいませ」

 それは浸透型の変装顔パック。目を閉じ口を閉じ額の頂点からピッタリ付く顔パック。これ一つで少なくとも別人の顔に変装する事ができる。

 口を大きく開けると外すことができる、逆に言えば途中で口を大きく開けてはいけない。

「欠伸は噛み殺してくださいませ」

 試しに付けさせてもらうエラ。頭の頂点から顎に合わせ目を閉じ口を閉じ、ピタッとくっつく。

 鏡を見たエラは爆笑した。

「あはは! 誰これ?」

 それも不自然なく付いていた。だが爆笑した事で口が大きく開き、外れる。

「うーん、なるほど。鏡は見れないわね」

 そうしてエラにパックを渡し、ウェイはバックと暮らすことを話す。

「ええ!? 羨ましい! 私もバックと暮らしたい!」

「親御さんが許さないでしょう? それに不審がられますわ。諦めてくださいませ」

 エラは悩む。親に事情を話すわけにもいかないし、どうしようもない事かもしれない。


「困ったらいつでも頼ってね」

 エラがそう言うのにバックは彼女に抱きついた。エラの存在もまたバックにとって大きくなっていた。

 照れるエラにバックは手を離し、神薬の植物の前で踊る。楽しかった。自分が守られるだけでなく、大切に想われる事の重要さを思い知らされた。

 二人の存在が自分の中でどんどん大きくなっていく。自分はここに今いていいんだと分からされる。

 それがとても嬉しかった。二人がくれる友情を手放したくなかった。それがいずれ離れていくものだとしても、離したくなかった。

 不意に悲しくなる。自分が手を離す側になる事を想像してしまったから。


「ごめん、ウェイ、エラ、半蝿が出た。手伝って欲しい」

「え? なんで?」

「わかりましたわ。車を手配致しますわ」

 車の中で、バックは窓の外を見ていた。

「大丈夫? バック」

「大丈夫、ただ……悲しくて。この関係が二ヶ月には終わってしまうんだなって思ったら」

 エラはびっくりして大声を上げた。

「何を言ってるのバック! 私たちはこれからもずっと友達よ! そうでしょう? ねぇ、ウェイ?」

 それを聞いたウェイは微笑してバックに言う。

「ワタクシも次の仕事がありますので、離れてしまいますが、ワタクシ達はずっと友達ですわよ」

「そうだね」

 半蝿の出現場所は今回、遠い。そう……『遠い』。これが、バックの感情に関わっていたのはバックにしかわからなかった。

 そしてウェイはバックがそんな感情に至る理由について理解していた。

 何故そんな気持ちになるか、二ヶ月後に迫るバックの誕生日にどんな意味があるのかを知っていたからだ。

 エラだけが何も知らず、この関係が離れずにいると思っていた。連絡くらい取れるだろうと安易に考えていたのだった。

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