第9話 バック=バグ、遊園地に連れていかれる

 ローディアランド、それはこの国最大級のアミューズメントパーク。様々なアトラクションがあり、人々を楽しませる。

 開演時間の少し前に着いた三人は人の多さに驚いた。

「平日なのにこんなにいるんだね」

「高い優先パスを買って正解でしたわね」

 ウェイは通常パスより半額分高い優先パスを三人分購入していた。

「リッチね」

「ストレスは感情によくありませんわ」

 ウェイの言葉に納得するエラだったが、バックは別に待つのも悪くないと思っていた。

 この三人でなら絶対楽しい、そういう確信があった。


「まずは……どこへ行けばいいの?」

 入園して、バックは尋ねる。

「そうだね、とりあえず絶叫系は避ける?」

「何でですの? まず絶叫系に乗りますわよ」

 ウェイがそう言うのに対し、エラは困ったのだ。絶叫系はバックが怖いと思って感情を低下させるかもしれない。だがウェイは言う。

「そもそもアトラクションで感情が動かない方がおかしいですわ。一度最大のに慣れておけば、後は全てを楽しめると思いますわ」

 一理あると思ったエラは一番凄いのはどれだったかを思い出す。

 エラは何度か来たことがあるのだ。だがエラの記憶よりウェイのリサーチの方が早かった。

「あの奥に見えるジェットコースターが一番凄い人気のコースターのようですわ、行きますわよ!」


 そうして着いてから順番待ちを少しして乗って行く。

 バックとエラが一番前に乗ってウェイは一つ後ろに乗る。

「念の為ですわ」

 そうしてコースターが出発する。徐々に登っていくコースターにドキドキするバック、そうして落ちて回って回転して、重力に振り回されるて、叫び続ける。

 終わった後、エラはバックが感情低下してないか心配するが、杞憂だった。

「凄い楽しかった! もう一回乗ろう!」

「いい心がけですわ! 乗りますわよ!」

「え? もう一回乗るの?」


 そうして同じジェットコースターに乗る三人。絶叫系らしく絶叫する。

「楽しい! もう一回!」

「よしきましたわ! 乗りますわよ!」

「ま、待って待って、時間に限りがあるんだよ? 他のにも行こうよ」

 ウェイはエラの様子を見て笑う。

「好きな物に乗るのが一番ですわよ?」

 エラは苦手ではなかったが、このコースターはそれほど凄いのだ。何度も繰り返し乗るのはエラにはきつかった。


「そうだね、ほかのにも行こう」

 バックもエラの提案を受けて、他のに行く。ウォーターライドに乗ってみる三人。

「凄い凄い!」

「ここからだよ」

 エラがそう言うと急に落下した。

「わああああああ!」

 水飛沫が飛び、着水する。バックは大はしゃぎだ。次はフリーフォールへ行く三人。

 徐々に登っていき頂点に着くと、回りながら落ちていく。落ちていく感覚が堪らない。

「飛ぶ感覚を味わいたいなら、ああいうのもいいよ」

 回転しながら回るアトラクション、上がったり下がったりする。バックはとても楽しんだ。


 お昼になりご飯を食べる。ファーストフードは高いが美味しい。

「エラ、ウェイ、ありがとう。本当に楽しい」

 バックの言葉に満足するエラは、ウェイの方を見た。見つめる二人は黙っている。

「どうしましたの?」

 我慢比べに負けたウェイが尋ねると、エラは笑った。

「ウェイも楽しんでるのかな? って」

「そうだよ、ウェイも楽しい?」

「勿論ですわ」

(きっと一生の思い出になりますわ。いえ、してみせますわ・・・・・・・

 ウェイは何かを企んでいた。それはバックのためであり自分のためだった。


 昼ご飯を食べた後、簡単な劇場タイプのコースターに乗り楽しみながら時間を潰した三人。パレードの時間になり、有名なキャラクター達に手を振るバック。エラは様々なバックとウェイと自身の写真を残した。

 そしてウェイに渡した。

「ワタクシは心に残しますので大丈夫ですわ。お気遣いありがとうございますわ」

 しょぼくれたエラにバックは言う。

「私は貰っていいかな?」

「勿論だよ!」


 そうして夜の時間になり最後に観覧車に乗る。夜景を見ながら感動しているバック。頂点に達する直前、ウェイが、エラと座るバックの隣に無理矢理きて尋ねる。

「キスしてもよろしいですの?」

「え?」

「はぁ!?」

 バックが驚き、エラは声を裏返らせた。

「観覧車の頂上でキスしたら結ばれるという噂がありますわ。ワタクシ、バックと結ばれたいですの」

 そう語るウェイは、妖艶に笑う。

「ワタクシ、別にキスした事がないわけではないですわよ。でも、『好きな人』とキスした事ありませんの。ワタクシ、あなたの事好きなのですわ」

「な、な、な、何を言ってるの! ウェイ!」

 エラの叫びも無視するウェイ。バックは冷静に尋ねた。

「ほっぺじゃ駄目?」

「ええ、唇と唇ですわ、それも抱擁つきの熱いキスを」

 ウェイは迫ってくる。それに笑ったバックはウェイの腰に手を回す。ウェイの顎に手を当て、強引にキスして抱きしめた。

 ウェイはあまりの事に驚いて目を見開いた。だがキスの味は忘れまいと堪能する。


「ふ、ふふふ、奪われるとは思っていませんでしたわ。奪うつもりでしたのに」

「甘いよ、ウェイ」

 このやり取りに顔を赤らめるエラ。観覧車は降りていく。

「エラはしなくてよろしいんですの? キス」

「そうだね、する?」

 エラは顔を真っ赤にして首をブンブン横に振っている。

「後悔しても知りませんわよ?」

「後悔なんてしないよ! 馬鹿じゃないの!?」

 バックとウェイは笑った。二人にとっては大切な思い出になったからだ。一生愛する男とはキスできない、だからせめてこの瞬間だけ、『愛する人』とキスをしたかったウェイ、させたかったウェイ。

 三人は帰りの送迎の車の中で楽しく談笑していた。

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