第10話 アーク=ディザスター、企む

 アークは殺し屋を集めた。信用のできる殺し屋だ。純粋に殺しを楽しむ悪しき殺し屋を集めたのだ。

 アークは仮面をして画面越しに彼らに会った。そしてバック=バグの殺しの依頼をした。

「そう言っても旦那、顔が分からないと困る」

 殺し屋の言うことは尤もだった。三つの顔の月に張り付いているバックの姿は幻影だから写真に写らない。

 だが対策済みだった。ネットにバック=バグの顔写真募集のホームページを作り情報を集めたのだ。勿論多額の報酬付きで。

 そうして得た写真、どこの学校かは分からないが、ほぼ確実なバック=バグの写真を手に入れた。あの時見た顔の少女だ。


 博士『達』は情報統制に尽力を注いでいたが、アークの執着は凄かった。ネットで自分のことがバレるリスクをくぐり抜け、バック=バグの情報を得た。

 後は殺すだけ。期間は限られている、急がなければならない。

「一思いに殺してやってくれ、世界のために」

 そうして殺し屋たちに依頼したアークは、これで勝ったと思っていた。


 翌日のニュースで女の子が一人殺されたことが出た、名前はアイル=ルーズ。残虐に殺されたその少女を殺害した人物は不明。


 殺し屋の一人がアークに言う。

「おい、話が違う! ホクロの位置まで一緒の女は自分をバック=バグだと言ったが、実際はアイル=ルーズという名前だった! どういうことだ?」

 アークは頭を悩ませる。政府の仕業か……自分が情報を掴むところまで予測していたか。

「金はある。片っ端からその顔の人物を殺してくれ」

「馬鹿言うな! 俺は降りる! 政府にマークされるのは御免だ!」

 殺し屋たちは話し合う、乗るか降りるか。何人かは降りたが、多額の報酬を示され残る者もいた。

「ダミーは半額、本物を当てたら最初提示した金額の二倍を払おう。頼んだぞ!」

 こうしてアークと政府の戦いが始まった。



「バック、お願いがありますの」

 バックの家で三人でいる時、ウェイはスっと頭を下げた。

「落ち着くまで外出を控えて欲しいのですの」

 バックは冷静に聞いていた。恐らくあの男だろう、前に襲ってきた男。

「勿論、買い物などはワタクシたちが、必要なものを揃えますし、学校はワタクシが常に傍にいますわ。何も気構えなくてよろしいですわよ。

 ただ、ワタクシも監視したいわけではありませんので、突然外に出られると困りますの。蝿が湧いた時、すぐにワタクシにご連絡くださいませ」

 それを傍で聞いていたエラは疑問を投げかける。

「もっと本格的に守ってくれたらいいのに」


 するとバックは悲しそうに笑った。

「守られるのは嫌いなの。私のせいでこの国を呪ったのに、私が守られると感じるとどうしても心が落ちる」

 それを聞いてウェイは苦笑する。

「ワタクシはよろしいんですの?」

 するとバックは微笑んで答えた。

「ウェイは、私が心を守ってあげてると思っているから大丈夫。ウェイのために一緒にいる。ウェイが私を守りたいならそれでいい」

「それを他の方にもやってほしいのですわ」


 バックは目を瞑って考える、だがやはり無理だった。ゆっくり息を吐いて感情を整える。

「私、エラとウェイだけでいい。いっぱい居ると混乱する。三人で乗り越えたい」

 ウェイはそれを聞いてゆっくり頷いて、バックに再度忠告する。

「外出する際はワタクシと共に。それだけは守ってくださいませ。連絡頂きましたら車を手配いたしますわ」

「今までしてこなかったの?」

「ハーフの月の時は仕方ないから博士の手配する車に頼ってるの。もうハーフの月だから」

 ハーフの月の時は何か問題があるようだった。



 エラが帰り、バックの家から離れたウェイは、携帯電話で博士にかける。

『了承してもらえたか?』

「ええ、多分大丈夫ですわ」

『お前は随分懐かれたようだが、四六時中一緒というわけにもいかない。バックが勝手なことをしない事を祈るよ』

「大丈夫ですわ。それより報告はお聞きになりまして?」

『聞いたよ、バックの懸賞金十億、頭の痛い話だ』

「代わりを立てるのも限度がありますわよ」

『何人雇われていた?』

「十三名残っていましたわ。後はネットモニターですので、わかりませんわよ」

『何人消した』

「申し訳ありませんわ、ワタクシ、師匠と共に行動していたのにも関わらず、三名取り逃しましたの」


『いや、上々だ。顔や声はわからないんだな?』

「全員仮面を付けてましたし変声機も使っていることでしょう。またアークは仮面を付けて画面越しだったので全く何もわかりませんわ」

 電話越しにため息が聞こえる。

『調査は難航している。これだけ大きく動いているのに、何も掴めない。無能な我らを許してくれ』

「仕方ありませんわ。金も全て現金で持っているようですし、差し押さえようがありませんわ。それより困ったことになりましたの」


『何だ?』

「明日水族館に行くことになりましたの」

『はぁ!?』

 思わず声が裏返った博士。

『馬鹿なのか? お前たちは……』

「ワタクシもそう思いますわ。でもワタクシと一緒なら外出してもいいのなら思いっきり遊びたいというエラの主張を、ワタクシを信頼しているバックが行こうと言ってしまったんですの。

 ワタクシの沽券に関わりますので、全力で護衛致しますわ。それに考えようによっては相手を誘き出すチャンスでもありますの」

『……ハァ、まぁ任せる。失敗した時は国が全滅する。それだけだ。頼んだぞ』

 電話を切り、ため息をつくウェイ。夜空の星と自分には普通に見える月。月を睨んだウェイは、バックの家の近くに借りた借家に戻った。

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