第5話 エラ=フィールドの苦悩と、男の名
エラは悩んでいた。もしバック=バグが虐められでもしたら感情が低下してしまうのではないかと。
だがそれは既に終わったターンだった。虐めた相手がマフィアに詰められ二度とバックに近寄るなという噂を聞いたのだ。
博士の仕業だなと感じたエラだが、それが逆にバックを孤独にしていると感じた。
だが人と関わると感情の上がり下がりはあるものだ。信用できない者とは関わらない方がいいかもしれない。
それでもバックが孤独なのが可哀想だと思ってしまう。理解者の自分は、外で堂々と接することができない。
それが悔しかったのだ。皆にバックの良き理解者になってあげて欲しい。そう願うエラは、だがどう動くか悩んでいた。
そう簡単に決められるわけではない、人の命がかかっている。万が一にもバックの心の枷になりたくない。
もしバックがエラを避けるようになってしまったら、そう思うと怖いのだ。
バックの背負っているものは大きい、大き過ぎる。もし彼女が不幸になったら、その瞬間たくさんの命が死ぬかもしれない。この国は終わるかもしれない。
そんな彼女の支えとなるべく、彼女の家で神薬の植物を育てるのを手伝うエラ。
「ねぇ、もっと友達欲しくない?」
エラは尋ねてみる。軽くだ、ジャブ。
「私は友達はいらない。ただ……」
「ただ?」
「仲間が欲しい。共に戦ってくれる仲間が。エラのように」
エラはそれを聞いて笑った。
「普通、友達から仲間になるもんじゃないの?」
「そうかな?」
「そうだよ! ちなみに、私はもう仲間かな?」
エラは不安げに尋ねる。バックは笑って頷いた。二人は抱き合う。
「エラ、無理しないで」
バックのその言葉にエラは驚いた。
「エラがいっぱい考えてくれてるのはわかってる。でも私は今のままでいい。無理に変えて、落ち込んだ時、また大変なことになるのが怖い」
エラは頷いてもう一度バックを抱きしめた。
「私も怖いよ、でも今のままじゃダメだよ。一生、三つの顔の月と戦うの?」
エラの問いにバックは首を横に振り言う。
「月呪法は十年しか効果がない。私が呪いをしたのが八歳の誕生日。十八歳まで頑張れば呪いは解けるよ」
バックとエラは高校三年生。あと一年もかからない。それだけ頑張ればいいのだ。
「そっか、じゃあそれまで現状維持でもいいわけね」
友達作りは高校卒業してからでもできる、それを聞いただけでも救いがあった。
だが、それまでは気が抜けない。たかが一年されど一年だ。
「頑張ろうね」
エラはバックを抱きしめる。バックは心強い友達、いや仲間ができたと思った。
心が踊る分、薬も沢山作れる。安定してきたと思った。乗り越えられると、そう考えた。
あの男に会うまでは。
◆
「ふぅ、ふぅ、まったく……なんでこんな探し方しかないんだ……」
男は、汗ばみながら昼間の街中を歩いている。この国は「制服」は男子も女子もワンパターンしかない。
男子の制服と女子の制服、それぞれ一つずつしかなくて統一されているのだ。地域の生徒とか、学校の生徒ではなくて、「国の生徒」なのだ。
だから学校を特定することができないようになっている。それは
そのせいか学生が皆同じに見えてくる。バック=バグの特徴は髪が長く、童顔で蒼い瞳、金色の髪。
身長はわからないからどうしようもない。生徒たちの顔をジロジロ見ながら確認している。
不審者と思われないようにはしているが、真剣に見るその眼差しが、完全に不審者のものだ。
何度か通報され、人を探していることを伝えたが「名前がわからない」と言うと呆れられた。
注意を受けつつ再び探す。バック=バグという少女を探しているとは言わなかった。
政府に管理されている可能性があるからだ。もう片っ端から探すしかない。その時だった。
「……まさか、今の」
通り過ぎた少女の腕を掴んだ。金髪の蒼い瞳、ツインテールの女の子。
「っ!?」
腕を掴まれたことに驚いた彼女の顔をよく確かめる、間違いない。
「お前がバック=バグか」
「……あなたは?」
「人の名を聞いてる余裕なんてあるのか?」
通報されても捕まらないのは、武器は持ってないからだ。男はバックをひねり殺そうと首に手を伸ばした。
バックは冷静に鞄からスプレーを取り出して男の顔に吹きかけた。
「うがああああああ!」
そして男がのたうち回るところへ男の手にナイフを打ち立てる。
「誰か警察を呼んで!」
男は慌てて暴れて逃げ出す。警察が来て、取り調べが始まるが、すぐにバックは解放された。
警察もその上からの指示には従うしかないからだ。
そして血のついたナイフを回収し、DNA鑑定が始まる。
男の追跡が始まった。だが男は違法整形外科で顔を変えていた。どこに住んでいるのかもわからない。どうやら複数の偽証身分証を持っているようだった。
ただし、名前だけはわかった。アーク=ディザスター、三十七歳。
月神会の信者の名簿にはなかったが、裏取引していた、人物かもしれないと博士はバックに伝えた。
『よくやってくれた。我々の方でも彼を探すが、君が狙われているのは変わらない。引き続き注意してくれたまえ』
学校の近所や、家の近所で見つからなかっただけまだマシだった。
バックは買い物をしに制服で歩いている時、出くわしたのだ。
敵の正体を知り、それでも……それらは博士『達』に任せるしかないと思っているバック。
大人への対処まではできないのだから。
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