第3話 エラ=フィールド、バック=バグの理解者となる

 エラはバック=バグから月の顔の話を聞いて、彼女が見た、あの不思議な光景を思い出す。

 月が大きく見えてきて凄惨な顔の月だった事を思い出し、両手で体を抱き震えた。

 そして、バックにどうしてこんな事になっているのかを聞く。

 バックは、自分が呪ったことを伏せて話す。それに怒りを乗せるエラ。神に選ばれたバックは何故選ばれたのかを聞かれ、どうした物かと思っていると、携帯電話が鳴る。

 エラの方を見て頷き、電話を繋げる。

「博士、何か用?」


『全て話したまえ』

「え?」

 バックは慌てる。エラには聞こえないが、バックが慌てるのに対して不安になる。

「ちょっと、バック? 大丈夫?」

 バックは手で制し、博士と会話を続ける。

「どうして?」

『真の協力者になってもらうためには、包み隠さず全て話す必要がある』

「そんな事をしたら……」

『感情を低下させるな。前に進みなさい。本当の理解者が、お前には必要だ』

 バックは迷うが次の博士の言葉で踏み切る事になる。

『どうせ信じられないと思って踏み出したまえ』

 バックはエラの方を見た。そうだ、どうせ信じないし、信じたとして、バックが悪者だと触れ回っても何も関係ない。

「わかった」


 バックは電話を切り、エラに謝罪をして全ての情報を渡した。

 バックが宗教団体に騙されて国を呪った事、そしてそれを悔やんで神に祈った時、太陽の神に選ばれた事。

 神から授かった薬の種を栽培して博士の資金で生活していること。

「ちょっと思ったんだけどさ」

「どうしたの?」

「この会話も全部博士に聞かれてるの?」

「多分ね」

「着替えとかどうしてるの?」

「別に。普通にしているよ」


 エラがガタンと立ち上がり、バックの手を引っ張り外に行く。

「おかしいよ! 騙されてるよ! バック、私の家に行こう! 鉢植えも持ってきていいから!」

「おかしくないよ、博士は味方だよ。ただ私が暗くならないように監視しているだけだよ」

「どうして監視する必要があるの?」

「私は国を呪った罪人だからかな」

「だからって着替えを見てるなんて理解できない!」

「見てないよ、音声だけだよ」

 唐突に電話が鳴る。出ないようにエラが言うが、バックは電話に出る。


「……うん、わかった」

 バックは何か言われたのを聞いて、エラに携帯電話を渡した。

「博士が、文句があるなら直接言えって」

 エラは携帯電話を受け取り、言える範囲で罵声を浴びせる。それを冷静に聞いていた博士は一つだけ言った。


『君がバックの事を想ってくれているのは嬉しく思う。だが私もできる範囲でサポートできるようにしている。プライベートに関しては録音をきるようにしている。それでも納得いかないなら君の家に移動して君が保護しても構わないが、夜でさえも活動しなければならないバックのサポートを君の親はできるのか? これは人の命の問題なんだ』


「あなたが変な機械で人を襲っていて、それをバックに壊させているだけって線はないかしら?」


『バックの話を信用できないならそれでいい。とにかく私たちの邪魔はしないでもらいたい。バックの感情が低下すると、月の力が強くなる。その度にバックに出向いてもらわなければならないんだ。そしてこれは彼女の『感覚』にしかわからない。私にできるのはサポートだけ。君が彼女の友となれるかと期待したが、とんだ期待はずれだ。この件は忘れて警察にでも報告しに行くといい』


「警察に行っていいのね?」

『構わない。私はバックの親権者だ。彼女の記録を撮っていても何も問題はない。調べられても困らない』

 これ程言うのだから、怪しいことはないだろうとエラも思うが、警察には調べてもらおうと考えたのだった。

「納得いった?」

 携帯電話を返してもらい、バックは笑った。

「じゃあね、エラ。信じて貰えなくて残念」

「ちょっと待って、信じてないなんて言ってな……」


「じゃあ、どうして博士を信じられないの?」

 家の中に入り直したエラは頭を悩ませる。

「どうして博士を信じられるの?」

「私の妄想だと馬鹿にした人はたくさんいた。そんな中で私と共に、神様から受け取った神薬しんやくの苗を研究してここまで育ててくれた唯一の人なの。機械音痴で方向しか分からない私のサポートをしてくれる。何か狙いがあったとしても、私は信じる」

 ここまで言われてしまってはエラも参ってしまう。ところで神薬の苗とは一体なんなんだろうか。

 バックは見せればいいだろうと、ダンスを踊る。鼻歌交じりにダンスを踊る彼女に合わせて、神薬の植物が伸びていく。

 不思議な光景に驚くエラ。


 ダンスを終えて汗を拭くバックに一体どういう事なのかを聞くエラ。

 バックは神に選ばれた自分が楽しい気持ちで踊ると植物が伸びて成長するんだと言う。

 そして伸びた植物の葉を切り取っていき、すり潰す。博士が作ってくれた機械に粉を入れていくと中から小さなカプセルが出てくる。それをプラケースに入れていき準備していく。

「これも博士の用意したものなの?」

「そうだよ。前に不審死が多かった事、覚えてない?」


 エラは、確かにニュースで不審死が多く起きたことがあったことを思い出す。

「あの時は救えない人も沢山居た。葉を食べさせるだけで治せたんだけど、足りなくて。水をやっても育たないこの神薬の葉を、どうすれば育てられるのか、博士が一緒に研究してくれて、それで機械も作成依頼と購入もしてくれたんだよ」


 こうなってくるとますます博士が何者なのかわからなくなってくるエラ。

 信用していいのかわからない、だが博士の協力なしでは人を救えないだろう。

 エラは、全てを飲み込むことにした。

「わかった、全部信じる。だから私にも協力させて!」

「うん、ありがとう」

 バックはエラの言葉をまだ全て信用したわけではないが、新たな協力者ができて少し嬉しく思った。

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