第2話 バック=バグ、薬を作る

 デスの月の期間が過ぎると、ラックの月、命を欠けさせる月の出番が来る。

 ラックの月はそこまで驚異ではないが、自然と命が失われていく欠蝿けつばえは潰さないと厄介ではある。

 とはいえ脅威度は低い。この期間に神薬草を育てておく必要がある。音楽を聴きながら踊るバック=バグ。楽しい気持ちが栄養になる薬草。どの顔の月の力にも対応できて、沢山の薬になる。

 不意に家のインターホンが鳴った。音楽を止めて、ドアを開ける。

「バック! 来たわよ!」

 バックは扉を閉じた。エラだ。彼女を呼んでいないし、住所も教えてない。

 今日は休日だ、バックは出かけていないから見つかっていないはず。

「開けなさいよ! バック!」

 完全にストーカーだ。いい加減にして欲しいと思うバック。

 扉を開けてエラに言い放つ。

「私とても大切な用事があるんだけど」

「あら? それは何?」

「ダンスの練習」

「へぇ! 私もその練習に付き合うわ! 中に入れてよ」


 パタンと扉を閉じて鍵をかけるバック。エラが外で騒いでるが、関係ない。

 ダンスに集中しようとした時心の中から声が聞こえる。

(おやおや? 随分不機嫌ですね? いいんですか? そんな心持ちで……ねぇ?)

 しまった! と思うバックは薬を鞄に家から飛び出した。

 扉の前にいたエラは突然弾かれ転ぶが、それを気にしている余裕はない。自動ロックだし問題もない。

 駆け出して方向を確認する。距離も遠い、電車か? バスか? 迷ってる暇も惜しい。

 バックは携帯電話を取り出して、何処かに電話をかける。

「博士! 欠蝿の居場所が分からない。家から南西へ五キロ、どうすれば近い?」

『バック、君はまた感情を低下させたのか? いい加減上手くやれと何度言ったら……』

「説教は今いらない! 私には私のやり方がある! いいから場所を!」


 博士はパソコンを弄っているようだ。カタカタと忙しく打つ音が聞こえる。

『エストラル駅行きバスに乗ってテコラ病院前という場所で降りろ。またわからなくなったらすぐに電話するように』

「わかったわ! ありがとう!」

『それと友達付き合いくらいきちんとして、感情を安定させ…』

 説教の途中に電話を切るバック。走ってギリギリセーフ、エストラル駅行きのバスに乗る。バスの走る方向に欠蝿の気配を感じる。

 月に呪われた国、ローディア。小さい国のローディアはある時、月呪法という呪いを行った子供によって月に呪われる事になった。


 その子供こそがバック=バグだった。


 バックは月神会という宗教にいた親の子供だった。人を救うためにと騙され、月呪法で国を呪ってしまったバックは、周りの大人が恍惚の表情で、デスの月に殺されていく中、涙し太陽の神に祈って選ばれた。

 呪いの顔の月に自分の幻影で呪詛返しし抑え込み、更に使者である蝿を圧縮する魔法で潰して回る。


 両親も死んだ彼女に手を差し伸べたのは、月神会の反対運動をしていた『博士』。

 彼女に一人暮らしをさせサポートする役割を担っている。

 一緒に暮らさない理由は、彼が極度の女嫌いであることがあるが、それはバックに伝えた表の理由。裏の理由はわからない。

 本名も知らない。バックを監視しているのは彼女も容認している。

 テコラ病院前で降りたバックは、欠蝿の気配を探る。


「見つけた! 全く、困ったものね」

 バックは欠蝿を潰し、そして、一人の男に声をかけた。

「ん? なんだい? おわぁっ!」

 足技をかけて転ばせ、マウントをとり、薬を無理矢理飲ませる。

「ごめんなさい! それじゃあ気をつけて!」

 バックは逃げるように走り去る。男は何が何だかわからないが、何かを飲まされたことに焦る。

 これを六人繰り返したバックは逃げるように去っていく。

 テコラ病院では、何かを飲まされたと診察に来る患者で、バタバタしていた。


 警察も来て、相手の素性を探るが、バックはその時に変装していた。捜査は難航し、飲まされた物も害のある物ではないと判断されたため、打ち切られた。

 混乱の事件はニュースにもなっていた。

(これだから欠蝿の時は厄介なんだよね)

 バックは溜息をつきながら、家路に着いた。家の前にはエラが立っていた。

「バック! どこに行ってたの?」

 変装は解いて鞄に入れてるので気付かれない。だが、またイライラして欠蝿を解放してはいけない。

「エラ、私のプライベートにどうして関わるの?」

「私があなたを助けたいからじゃダメなの?」

(嘘だ。興味本位で首を突っ込んでいるだけだ)

 バックはエラが信じられなかった。だがそこまで関わりたいなら関わらせてやろうかと思ったのだ。

「わかった。家に入って。明日も休みでしょ? 話は長くなるから、泊まっていって。親に電話して」

「バック! 話してくれるのね! ありがとう!」

 エラは親に電話してバックの家に泊まっていく事を伝える。

 その後エラはバックの家へと招かれていった。

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