第7話 だから、超越者【アンリミテッド】

「へへ、ざまぁみろってんだ」


立ち上がる爆煙を前に、モフィはドヤ顔を浮かべて勝ち誇っていた。


そんな彼の元に、次々と隊員達がやってくる。


「やりましたね、副隊長」


「あぁ。だが、あんな小娘一人に俺様の貴重な玉一つだぞ。割にあわねぇぜ」


モフィが苦悶の表情を浮かべると、ザクスが「自業自得だ」とやってきた。


「見かけは小娘でも、超越者の後継者だぞ。油断する方が悪い」


「……やな野郎だ」


モフィが舌打ちすると、隊員達から笑い声が漏れ出す。


彼等が和やかな雰囲気になったその瞬間、爆煙の中から次々と氷の刃が飛んできて隊員達を貫いた。


「ぐぁあああ⁉」


「馬鹿な。モフィの対魔戦車砲の一撃を喰らってまだ生きているのか⁉」


「そ、そんなはずはねぇ。俺は、俺は、間違いなく本気だった。殺すつもりで射ったんだ」


ゼクスとモフィは、戦きながらも必死に結界を張って氷の刃を防ぐ。


だが、氷の刃は隊員達が張る結界をいとも容易く貫通してその身を貫き、絶命させていく。


やがて、この場に立つのはゼクスとモフィだけとなっていた。


「ふむ。射出形の魔法は、以前と近い感覚で使えるようだな」


爆煙の中から主に小さい魔力気配に標準を合わせていたが、どうやら上手くいったようだ。


それにしても、こう煙いと視界が悪いな。


私は風と水の混合魔法を発動し、一気に煙と火を掻き消した。


すると、ゼクスとモフィが何やらこちらを見つめて青ざめている。


私は両手を広げ、感嘆の言葉を発した。


「いや、対魔戦車砲の砲撃は実に素晴らしかった。少し手が痺れてしまったよ。ほら、この通り」


軽く震える左手を掲げてみせると、二人の表情からますます血の気が引いていく。


「な、なんだ。なんなんだお前は⁉」


「そうだ。な、なんで、合計段位八のお前がこんな馬鹿げた力をもっている」


「ふむ。そうだな」


私は口元に手を当てた。


折角ここまで実戦練習【チュートリアル】に付き合ってくれたんだ。


彼等だけには、理由ぐらいは教えてやるか。


「いいだろう。では、冥土の土産に教えてやる。お前達の使う段位測定魔法には致命的な仕様があるんだ」


「致命的な仕様、だと」


ザクスとモフィが眉間に皺を寄せて訝しむ。


私はそんな彼等に、わかりやすいよう丁寧に説明していった。


段位測定魔法は、私が師匠アリサ・テルステラと共同開発したものだが、当初の測定魔法にはある問題があった。


魔術書に書き記したとしても、内容が難しすぎて一般人が会得困難だったのだ。


研究費用を集めるため、私と師匠は是非ともこれを世に売らなければならない。


そこで、私達は段位測定出来る範囲を大幅に縮小した。


当初は師匠のように超越者【アンリミテッド】と呼ばれる者すら、段位測定できるようにしていたが、一般人にはそこまで必要ない。


せいぜい、一般人にして一騎当千ぐらいの合計段位四十まで測定出来れば差し支えないだろう。


その代わり、合計段位四十以上を越える相手を測定した場合には、合計段位八として術者に知らされる。


ゲームで例えるなら、バグやオーバーフローみたいなものだ。


強者同士との戦いでは致命的な仕様だが、一般人が相手にするようなことはないだろうという考えだった。


「……というわけさ。しかし、長い年月をかけて合計段位四十が最大値と思い込まれていたとはな」


「そんな馬鹿な話があるか。そもそも、測定魔法の魔術書が世に広まったのは今から五十年以上も前の話だぞ。貴様はどこからどうみても、十歳かそこらだろうが」


ザクスが声を荒らげるが、私はやれやれと肩を竦めた。


「私だってこの姿は不本意だとも。実験に成功したとはいえ、ね」


「実験に成功だと」


モフィとザクスが顔を見合わせると、私はにやりと微笑み掛けた。


「そう、長年かけて師匠と共に目指した不老不死。その実験に成功したんだよ。まぁ、この姿はその副作用というか、意図しない結果なんだ。私の実年齢は百を越えているよ」


「な、なんだと⁉」


「おやおや。女性の年齢を聞いたというのに、君達の反応は常識にかけるんじゃないかな」


驚く二人を横目に、私が自分の右肩銃創に左手を当てると傷がみるみる癒えていった。


うむ、特殊魔法も問題なく使用できるな。


一連の様子を目の当たりにして青ざめたザクスは、たじろぎながら重い口を開いた。


「齢百歳を超え、増強形、結界形、射出形、特殊形をここまで使いこなすだと。い、一体、どれだけの段位【レベル】なんだ」


私は「ふむ」と口元に手を当てて考えを巡らせた。


「まぁ、おそらく合計四百段は軽く越えているだろうな」


「よ、四百だと⁉ そ、そんなの人の及ぶところを越えて……」


モフィが言い掛けてハッとする。そんな彼等に私は再び微笑み掛けた。


「そう、だから超越者【アンリミテッド】と呼ばれるわけだ。そして、私にはある信条があってね」


私は睨みを利かせ、魔力をあえて解放して凄んだ。


「恩には恩を、敵意には敵意を、だ」


「……⁉ く、くそったれぇええええ」


「やめろ、モフィ」


ザクスの制止も聞かず、モフィは増強魔法を発動して闇雲に突っ込んでくる。


私はそれを軽くいなし、躱していき、程なく彼が力一杯に振り下ろした拳を片手で受け止めた。


「まぁ、合計三十八段、増強十段とはこの程度だろうな」


「こ、このクソ餓鬼が……⁉」


凄むモフィだが、私からすれば彼等など大した存在ではない。


「さて、君は随分と好き勝手に生きてきたようだ。どのような死に方でも、文句は言えんな」


彼の腹を蹴り上げ、空高い上空に吹き飛ばすと「がぁああああ⁉」と苦痛の叫び声が轟いた。


私は近くにあった対魔戦車砲を魔法で引き寄せると、砲口を上空の彼に向けて魔力注入を始める。


「モフィ・マッケンジー君。あえて、もう一度言おう。記念すべき千人目の私は、犠牲者九百九十九人の恨みを晴らすとしよう」


「やめろぉおおおお⁉」


モフィとザクスの声が轟く中、私は対魔戦車砲の引き金を引いた。


次の瞬間、私に飛んできた光線とは比較にならない極太光線がモフィに向かって放たれる。


「助けてくれ、ザクス、ザク……」


断末魔の叫びは、モフィと共に極太光線に飲まれて掻き消えた。


「汚物の焼却、完了だな」


私が呟くと同時にザクスの振るった剣が首筋に当てられ、次いで回転式魔拳銃の銃声が連続で轟いた。


だが、結界と増強によって私は無傷である。


「ば、化け物め……」


「そう急くな、アンダーソン君」


私がザクスの鳩尾に拳をめり込ませると彼は呻き声を漏らし、膝から崩れ落ちてその場に四つん這いとなった。


「君をこうして残したのには、ちゃんと理由があるんだからな」


「り、理由だと。何もしゃべらんぞ」


「あぁ、話してくれなくて構わない。記憶を抽出させてもらうだけだ」


「……? き、記憶を抽出」


ザクスは意図が分からず首を傾げた。





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