第3話 来訪者
「なるほど。では、確認すると超越者【アンリミテッド】のアリサ・テルステラ様は十年以上前に死亡。現在は貴殿、アラン・オスカー殿が後継者としてこの土地の管理をしている……ということですな」
「あぁ、その通りだ」
私の目の前に立っているのは、赤茶のボサボサ頭に大きく鋭い目つきと黒い瞳を持つ男である。
見た感じ、歳は三十半ばぐらいだろうか。
彼の名はザクス・アンダーソン。
この地を治めるローグスミス帝国皇族直属の特務実行部隊に所属する軍人であり、此処に来た部隊を率いる隊長だそうだ。
服装も特殊部隊らしい軍服に帯剣と自動魔小銃【じどうましょうじゅう】を装備している。
ちなみに、自動魔小銃の元になったのは私が師匠と五十年以上前に製作した回転式魔拳銃【かいてんしきまけんじゅう】だ。
開発当時、この世界にはまだ銃のような武器がなかったから、興味本位で師匠と作ってみたのである。
今では各国に広まって、色々な形が派生で作られたのだ。
ザクス達が装備しているのも、そのうちの一つだろう。
そして、それらの総称は魔銃【まがん】だ。
魔銃には薬莢式と魔力注入式があって、薬莢式は事前に薬莢へ魔力注入しておけば使用者の魔力消費なく、すぐに射てるのが利点だ。
ただし、薬莢に込められる魔力には限界があって威力限度が存在する。
弾切れによる薬莢装填の手間が掛かるのも欠点だ。
一方、魔力注入式は術者の魔力を消費することで高威力の魔弾を発射できる。
だが、こちらは術者の負担が増えるし、射撃速度は薬莢式にどうしても劣ってしまう。
使い勝手なら薬莢式、威力重視なら魔力注入式という感じだろうか。
広く普及しているのは誰でもある程度の威力が保証され、難しい技術も必要としない薬莢式らしい。
周囲には同様の装備をした兵士達がいて、ザクスを含めた十人の厳つい兵士達に私は囲まれていた。
先ほどまで素っ裸だった私だが、今は彼等から手渡された布を羽織って体を覆い隠している。
いわゆる、裸マント状態だ。
しかし、そのせいか、彼等の視線は実に不快である。
揃いも揃って鼻の下を伸ばし、邪な横目でこちらを伺いつつ、何やら腰をもじもじさせているのだ。
特に七尺【約210cm】を越えそうな大柄で、赤茶の髪をパイナップルみたいにまとめた髪型をした目つきの悪い男。
ザクスを補佐する副隊長でモフィ・マッケンジーというらしいが、こいつに至ってはにやにやと下卑た表情を隠そうともしていない。
それどころか、時折舌なめずりしながら私を舐めるように見ている。
つい先ほど……いや、先日か? まぁ、何にしても男だった私からすれば、その視線と意図が否応なく察せられ、全身鳥肌ものだ。
一個人や人と認識されず、性の対象としてだけ視姦される。
なるほど、これは実に不愉快だ。
こいつらの視線には嫌悪感しか湧かないが、私は我慢しなければならない理由がある。
ローグスミス帝国と言えば師匠の出身国だ。
恩を仇で返すようなことはできない。
私はため息を吐くと、ザクスに視線を向けてやれやれと肩を竦めた。
「とはいえ、実験失敗で管理するべきものも全て焼失したがな」
「そうでしたか。ちなみに、どのような実験したら、このような大惨事になるのでしょう。後学のため教えていただけませんか」
彼はそう言うと、つい先程まで私がいた巨大穴と氷の柱を訝しむように見つめた。
「……まぁ、それはあれだ。色々と超越者の企業秘密だな」
頬を掻いて誤魔化すと、「企業秘密、ですか。畏まりました」とザクスは案外簡単に引き下がる。
そして、それとなく周囲を一瞥するが、部下達の表情が厳しいと見るや彼は咳払いをして「ところで……」と切り出した。
「アラン殿はローグスミス帝国で最近起きた混乱をご存じかな」
「いや、実験に没頭していたんでね」
私は頭を振った。
実は彼等、私の力を計るべく『段位測定【レベルそくてい】』の魔法を密かに発動している。
段位測定とは術者が視認する相手から漏れ出る魔力を測定し、対象の扱う魔法の形を『段位【レベル】』という方法で確認できる魔法だ。
相手の強さを測定して『段位【レベル】』という単位に置き換えることで、無用な争いを避けるというのが本来の用途である。
これも、五十年以上前に私と師匠が生み出し、研究費用を稼ぐため『魔術書』に記して各国に販売したものだ。
この世界における魔法は、大きく別けて四つの形に分類される。
一つ、増強形、術者の魔力を糧に、身体能力や武具に魔力付与を行う高威力の近接特化。
一つ、射出形、術者の魔力を糧に、魔弾を生成して中威力の中遠距離特化。
一つ、結界形、術者の魔力を糧に、結界を生み出して一定威力以下の攻撃を無効化。
一つ、特殊形、前述の三形に属しない先天性または後天的な術者独自の魔法。
増強形は結界形に対して優位、結界形は射出形に対して優位、射出形は増強形に対して優位という三竦み構図となっていて、特殊形は扱う魔法次第で優位にも不利にもなり得る。
どの形の魔法が得意なのかは基本的には先天性、持って生まれた才能が重要だ。
術者は魔法を学ぶうち、自身の得意な形を実感するだろう。
強くなりたいなら、まず一つの形に絞って訓練するのが推奨されている。
段位測定は、これら四つある形をそれぞれに最大十段位【レベル】で判断することで、最大合計四十段位となる。
一般的に考えれば、合計三十五段位以上ともなれば一騎当千の実力者という感じだ。
なお、魔術書というのは術者が魔法発動に必要な論理、仕組み、感覚などを書き記してまとめたものである。
魔法の素養と知識があれば、魔術書を読み込めば誰でもある程度の魔法は使用可能だ。
しかし、中には難解な魔術書もあって、簡単には習得できない魔法も当然存在している。
それにしても、皇族直属の特務実行部隊というのは伊達ではないようだ。
彼等が魔法を発動していることは、一般人なら気付くことすらままならない。
私でなければ、感知できぬかもしれんな。
魔法妨害を行っているから、彼等の測定が終わるにはまだ暫くかかるだろう。
しかし、こちらの情報も不足しているし、時間稼ぎに付き合ってやるか。
私は興味ありげに身を少し乗り出した。
「もしかして、君達が此処に来た理由に関係しているのかな」
「お察しの通りです。実は……」
ザクスは自分達が師匠を尋ねてきた理由を語り出した。
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