第4話 段位測定【レベルそくてい】

ローグスミス帝国の皇帝グスタフ・ローグスミスが数ヶ月前に急逝。


帝国内に激震が走ったそうだ。


まぁ、私には無縁だったが。


グスタフ帝には五人の子供がいて、生前に『能力のある者が次期皇帝となるべき』と良く周囲に漏らしていたそうだが、遺言書は残していなかった。


そのため、誰が次の皇帝になるのかという皇位継承権争いが帝国内で勃発。


第一子、皇子チャールズ・ローグスミス。


第二子、皇子アイビル・ローグスミス。


第三子、皇子メイビル・ローグスミス。


第四子、皇女シャリア・ローグスミス。


第五子、皇子オリナス・ローグスミス。


以上の五人の誰が皇位を継ぐのかという問題だが、双子の第二子と第三子の皇子は第一子のチャールズを支持することを早々に表明する。


これを切っ掛けに、大多数がチャールズを次期皇帝にすべきという主張をするようになった。


一方、第四子シャリアと第五子オリナスは、グスタフ帝が亡くなって間もない今の時期は喪に伏すべきだと、皇位継承件の争いには慎重な姿勢だったそうだ。


大多数の支持を得たチャールズは、国内少数派となった第四子シャリアと第五子オリナスのどちらかを皇帝にと主張する一派を畳みかけるべく、とある内容を公表する。


『グスタフ帝を暗殺したのは、危険極まりないベルマーサ王国との国境地点である辺境へ幼い頃に飛ばされたシャリアとオリナスの意趣返しである。物証と証言もあるため、二人を逆賊と見なして討伐軍を派遣する』


これを機に帝国内緊張は一気に高まる。


当然、シャリアとオリナスは黙ってはいなかった。


『我等が結託し、父グスタフ帝を暗殺したなど事実無根で言い掛かりも甚だしく、笑止千万である。そもそも、帝都から遠く離れた辺境で常に最前線に立つ我々にそのような暇はない。父の一番傍に仕え、父の傀儡となることを拒んだチャールズこそが暗殺したと考えるのが妥当であろう』


これらの文面が公表されたことで、帝国内の派閥は完全に二極化して対立が決定的となった。


帝国は内戦勃発の瀬戸際にあるらしい。


戦力は圧倒的にチャールズが優位であり、シャリアとオリナスは苦境に立たされているそうだ。


そこで、劣勢の二人は秘密裏に国内の超越者【アンリミテッド】に協力を仰ごうと考えたらしい。


本来、超越者【アンリミテッド】は有事に手を貸さないことが暗黙の了解としてあるが、国内の内戦であれば他国への影響は少ない。


許容してくれるのではないか、と考えた上でのことだそうだ


「……というわけでしてね」


「なるほどねぇ」


ザクスの説明を聞き終えた私は深い相槌を打った。


話を聞く限り、グスタフ帝は後継者を実力主義だと表向きではうたっておきながら、その実、自分にとって都合良い後継者を選ぶつもりだったのだろう。


大方、それに嫌気が差した第一皇子のチャールズとやらが皇帝を暗殺。


今後の政治基盤を盤石とするため、罪を辺境にいる皇女と第四皇子になすりつけて討伐を言いだした。


推測の域は出ないが、そんなところだろう。


師匠、貴女の故郷。


すっごいややこしいことになっていますよ。


心の中で苦笑すると、私は「じゃあ、君達は……」と切り出した。


「私に助力を求めてやってきたシャリアとオリナス側に仕える兵士、その認識で良いのかな」


「えぇ、その通りです」


ザクスは目を細めて頷いた。


しかし、その表情からはきな臭さしか感じない。


彼は再び周囲の兵士達を一瞥するが、彼等の表情は相変わらず硬い。


どうやら、未だに私の妨害魔法を突破できずに段位測定ができていないようだ。


ザクスはやれやれと頭を振ってため息を吐くと、こちらを見やった。


「アラン殿に一つお願いがあるんですがよろしいでしょうか」


「うん? なんだ」


「実はシャリア様とオリナス様から、助力を得る前に超越者様の実力を『段位測定』で調べるよう言われておりまして、恐れながら確認してもよろしいでしょうか」


「あぁ、なんだ。そんなことなら早く言ってくれれば良かったのに」


私はあえて破顔すると、測定すべくこちらを密かに伺っていた兵士を横目でちらりと一瞥する。


「あまりに不躾な視線と魔法だったんでね。意図もわからんし、どうしてやろうかと悩んでいたんだよ」


「……これは大変失礼しました」


ザクスは深く頭を下げると、兵士達は気付かれていたことに驚いたらしく目を丸くする。


ちょっとばかし、私を舐めすぎだ。


まぁ、しかし、こんな身なりなら侮られてもしょうがないか。


私は自身の可愛らしくなった手足を見て小さなため息を吐くと、ザクスが首を捻った。


「どうかされましたか」


「いや、何でもない。それより、私の力を測定させるんだ。君達の力も見せてもらっていいかな」


「えぇ、構いませんよ」


余程の自信があるらしく、ザクスは二つ返事で頷いた。


「じゃあ、遠慮なく」


私は測定魔法を発動して、周囲にいる兵士達を見回していく。


ほう、これは凄い。


さすが帝国の皇族直属部隊だ。兵士達の四形合計段位は平均にして三十五を越えている。


ザクスとの会話中、ずっと舐めるように私を見ているモフィという男にしても増強十段【レベル】、結界十段で他九段と合計三十八段。見かけによらず、相当な実力者のようだ。


特にザクスに至っては全てが十段と隙が無い。


まさに、一般的な一騎当千の部隊と言って差し支えないだろう。


「どうでしょう。私達の実力は」


「うむ。一般的に考えれば、素晴らしい実力だな」


「……? ありがとうございます」


ザクスが訝しみながら会釈したその時、一人の隊員が「こ、これは……」と怪訝そうに呟いた。


どうやら、私の測定が終わったらしい。


「どうした」


すかさずザクスが駆け寄って話を聞くと、彼も怪訝そうな表情を浮かべた。


「アラン殿。申し訳ないが、念のため我等全員で測定してもよろしいかな」


「あぁ、構わんよ」


「では……」


彼の言葉を切っ掛けに、この場にいる全員が私に向かって段位測定を発動する。


何だか、写真か映像でも撮られているような気分だ。


程なく、測定を終えたらしいザクスが私の前にやってきた。


「アラン殿。おそれながら貴殿の形は全て二段。合計八段となりますが、こちらの表示に間違いありませんか」


「そうだな。おそらく、その表示に間違いはないぞ」


笑顔で答えるが、ザクスの表情は晴れない。





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