第14話 復讐の終わりとときめき

あの後、ケイトの遺体を灰の中から探し村の外の見晴らしの良い場所に埋葬して弔った。


後ろにある村は炎上している。


もう、この村は終わりだ。


大昔の木造建築、しかも見た感じ乾燥していた。


派手に燃え広がっていくのは当たり前だな。


もし、生き残っても井戸の水を飲んだら毒で死ぬ。


なんとも悪魔の俺が好ましい状況だ。


村に背を向けながら二人で更に森の奥に歩き始めた。


それにしても気になる……


さっきのファイヤーボールにポイズンの魔法。


数の暴力に勝てないまでも、逃げ出す事は出来たのではないか?


そう思えてならない。


「アル、それほどの力がありながら何故反撃しなかったんだ! あの実力なら、痛い目にあわせる事も出来たんじゃないのか?」


「私が魔族と解かるまではそれなりに良い人達でしたから、躊躇していたら……子供と旦那を人質にとられまして……気がついたらもう手遅れ状態でした」


「そうか……人質か……」


その人質の一人が自分の敵になったんだから目も当てられないな。


愛する人を救おうとして、騙され、その結果子供まで失った。


そしてアルは捕らわれた。


酷い話だ。


「はい……」


アルが今にも泣き出しそうな顏になった。


やはり、人に愛なんて……


いや『愛』はある。


『たっ助けてお母さんーーっ!』


『私はどうなっても構わない、娘だけは助けて下さい……お願いします……お願い……えっ! いやぁぁぁぁぁーーーアリアがアリアがぁぁぁぁーー』


1人だけ、子供の為に自分を犠牲にしようとした母親が居たな。


殆どの人間はクズだが……稀にはいる......それは認めないとならない。


だが、それでもこの世界の人間は『魔族の敵』だ。


魔族というだけで殺しにかかる存在である以上は殺すしかない。


人間はただ醜いというだけで大した理由も無く蜘蛛やゴキブリを殺す。


襲って来なくても蜂や毒を持つ生物を駆逐する。


熊も狼も手を出してこなくても殺す事もある。


例え、愛があったとしても……この世界で魔族と敵対し魔族というだけで迫害し殺しにかかるなら、此方も殺すしかない。


「木こり、アルの旦那の名前は?」


「シモンです!」


「俺に出来る事は少ない! ただ、残酷に地獄を見せて殺すだけだ」


「地獄を見せて下さい……我が子の仇をお願い致します!」


「ああっ約束しよう」


悪魔の耳は地獄耳だ……聞く気になればかなり遠くの音を絞って聞く事も出来る。


目も同じだ……その気になれば望遠鏡みたいに遠くまで見える。


木を切り倒そうとする斧の音。


簡単に拾う事が出来た。


呑気な物だ。


自分の子供を自ら殺し、妻だった人間を捕らわれの身に落して……


それなのに自分は、いつもと同じ生活か……クズだな。


「ありがとう……ございます」


「ああっ、所でおおよその居場所が解った……行くぞ」


俺はアルの手を引き森の奥へと更に突き進んだ。


◆◆◆


見つけた……


「ううっ、アル、ケイト……ううっ」


ケイトと言うのが子供の名前か……


泣く位なら何故そんな事をしたんだ……泣きながら木を切っている馬鹿な奴め。


俺が声を掛ける前にアルはシモンの方へ走っていく。


「ケイトを殺しておいて何故泣くのかしら?  私だって自ら差し出した癖に……」


「アル……僕は、僕は君を愛している」


「愛しているなら、何故ケイトを殺したの? しかも人質の振りまでして私を捕らえさせて……娘を火にくべ殺し、処刑されると解っていながら妻を差し出した男が『愛していた』笑わせてくれますね」


「アル……」


妻や子供を裏切ったクズの話等聞く意味はない。


俺は素早くシモンに近づき……


「なっ……うわぁぁぁぁぁぁーーーーっ」


伸ばした爪で右足を切断した。


「逃げられては困るので片足は貰って置いた……これで逃げられないな! どうするアル? 此処からはアルがするか? それとも俺がするか?」


「私の技術や魔法は相性が悪く、楽に此奴を殺してしまう! もし、キリ様が地獄を見させる事が出来るならお任せします」


「そうか……」


「アル……ハァハァ助けて……頼む……」


「ねぇ、シモン……貴方なんで生きているの? 愛する娘を私の前で焼き殺して、私を処刑されると解りながら捕える手伝いまでして……」


「僕は……僕は、恐かったんだ! 自分だけなら死ぬ選択も出来た! ケイトやアルと一緒に死にたかった……だが、僕がそれを選んだら僕の親も兄弟も姪っ子に甥っ子まで皆殺しだ……だから、僕は……」


詭弁だな。


「そうか……それなら今なら死ねるな! 今すぐ死んでケイトの傍に行けば良い……今、お前が死んだとしても誰もお前を裏切ったとは思わない。そこにある斧で自害すれば良い……良かったな」


アルは静かにシモンを見ている。


これは慈悲だ。


俺はこれでも慈悲深い。


言っている事が真意なら、仕方が無いともとれる。


家族の為に妻と娘を捨てた。


酷い話だが一族の為と言うなら納得もいく。


アルもそう思ったのだろう。


静かに冷めた目でシモンを見ている。


「嫌だ……ハァハァ頼む、お願いだ見逃してくれ……頼む、愛しあった仲だろう……お願いだ」


やはりクズだったな……


今、死ねば楽に死ねたのに……


そのチャンスを棒に此奴は振った。


「終わりだ、処刑開始だ!」


俺はシモンに近づくと残った足の肉を1cm程の深さで削いだ。


俺の名前は『切裂く者』その俺の得意技を使った拷問。


その気になれば出血も少なく、重要な器官を極力傷つけずに解体していく事も出来る。


「ぎゃぁぁぁぁぁーーーーっ、た、助けてぇぇぇぇーー痛いっ」


カンナで肉を削られたようなもんだ痛いよな。


「もう地獄は始まった……引き戻せないからな……偽善者め」


「シモン、貴方の言い分は解ったわ。 でもそれなら魔族の私と何故結婚したの? そこから可笑しいわ……それに貴方にとって私や娘は他の家族よりは下そういう事よね! 」


「……ハァハァ」


答えられる訳がない。


人間として暮らしていた俺から見て、アルは凄い美人だ。


そんじょそこらの女優なんて比べられない程美しいし、凄くセクシーだ。


恐らく、その容姿に惹かれた。


だが、それは『そういう相手』としてで家族や伴侶して命がげで守る相手じゃない、そういう事なのだろう。


「俺は悪魔だ……大体、お前が考えている事は想像がつく! お前にとってアルやその娘は命懸けで守る相手じゃ無かった……少なくとも2人の間に生まれた子と天秤にかけて家族をとった……そういう事だよな……黙っていたら殺す!」


「ハァハァ、うっ……俺はアルやケイトを愛していた……だが、その為に家族を母さんや父さんを捨てられなかった……その通りだ……それがどうした……愛にも序列はあるんだ……アルは……魔族だ、ケイトもその血が……ぎゃぁぁぁーーうんぐっうーう」


俺はシモンに近づき爪で口を突き刺した。


歯を貫通して舌に突き刺さり抉った。


そのまま手前に引きだすと歯数本と一緒に舌が千切れた。


「もう喋らなくて良い……」


その後はひたすら切り刻んだ。


苦痛が永く続くように肉を中心に切り刻み、極力大切な臓器を傷つけず肉を削いでいく。


これが俺の特技だ。


出血も少なく切り刻み……今や皮ははぎ取られ心臓を含む臓器が剥きだしだ。


「あぐっあああっああああああーーーーうあっ」


目に涙が浮かび、此方を皮の無い顏で見つめてくる。


「アル……此処からはお前に任せる……ただ、もう軽く殴るだけで死ぬ状態だ」


「キリ様、ありがとうございます……シモン、貴方の死はやはり焼死がいいわ。あの世でケイトに詫びるのね……ファイヤーボール」


なんだかんだ言ってアルは優しいのかも知れない。


あっさりと楽に殺した。


さて、これでアルの復讐は終った。


悪魔としての契約は終了だ。


◆◆◆


村を燃やしてしまったのでこのまま旅立つ事にした。


「キリ様、ありがとうございます……約束通り、この身も心も捧げます」


「そうか、だが、それを捧げると言うのは無理な話しだ……俺を好きになるように傍に居て努力してくれれば良い」


「えっ……」


アルは凄く驚いているようだ。


「本当に誰かを愛するのは難しい……だから、恋人として俺を好きになるよう努力して欲しい、それ位で充分だ」


「ですが……」


「俺はアルの事が好きだ……だから契約じゃ無く本当の意味で好きになって貰いたい……だから、時間を貰えるだけで充分だ」


「そうですか……ですが、私の事なら気にしなくても良いんです! だって私はキリ様の事、大好きですから」


「え~と……」


「殺される所から助けてくれて、仇迄全部討ってくれて……それなのに指一本触れてこない……キリ様が誠実で優しくて素敵な方なのは良く解りましたから……私みたいな女で良いなら、うふっ、身も心も捧げさせていただきますよ」


「え~と」


「それとも、こんな経産婦で年増じゃ嫌いですか?」


「いや、俺はさっき好きだと……」


「そうですよね! 好きだとおっしゃいましたよね? それなら何も問題はありません……寧ろ、私の方が、その申し訳ない位なんです! 愛人でも使用人でもそういう気持で言ったのに恋愛相手だなんて……」


「それじゃ、つきあって下さい」


「はい……宜しくお願い致します」


思わずときめいてしまった。


こんな感情……何百年ぶりだろうか?






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