第15話 異世界で平凡な生活を送る悪魔


さてと、ただ此処には散歩できたわけだが……


もう、王国に戻る必要は無いな。


このまま、魔国に向かった方が良いだろう。


あそこには、俺に魅了された人間の女達がいるが、あれは『人間』魔族にとって人間は敵だ。


一応は抱いた女だ……自分の手で殺すのは忍びない。


この世界に居る魔族は悪魔に近いが悪魔ではない。


恐らくは俺みたいな能力は持ってない気がする。


もう王国は終わりだ。


主力となる騎士団はほぼ全滅。


召喚した勇者達も全滅。


そして生き残った王宮の女達は『俺の魅了に掛かった状態』だ。


悪魔に抱かれる快感を知った人間は他の人間の心惹かれることは無い。


あの快感を知ってしまったら、もうどんな男に抱かれても無駄だ。


尤も、女自身もあそこ迄広がった穴じゃどんな男も満足なんてしないだろう。


あの国はもう放って置いても……終わりだ。


あとは……敵対しているのは聖教国と帝国。


別に俺は、戦争に介入したい訳じゃないから、放って置いても良いかも知れない。


◆◆◆


「キリ様が、召喚勇者達を皆殺しにしたんですか?」


「 王宮騎士団! テンプル騎士団!も含めて王宮にいた奴はあらかた殺した……王国はもう壊滅状態だ……アルは魔族の為に俺はどう動けば良いと思う?」


「え~とですね……多分、もう放って置いても良いかも知れませんね! 魔王様を殺せるのは『聖剣を持った勇者』のみです。 勇者が死んで聖女も、賢者も剣聖も死んだなら、次の勇者召喚まで誰も魔王様を倒せません! しかも王宮騎士団、テンプル騎士団も無くなったなら、王国は無力化されました……残るは、聖教国や帝国ですが……もう魔国相手に戦う事は難しいかと思いますよ」


「そうか……」


「それでキリ様はどうしますか? 魔国に行けば貴族に取り立てて貰えます! いえ、それ処か四天王、いえ副官にすら取り立てて貰えますよ」


確かにそれ位の手柄は貰えても可笑しくないかも知れないな。


だが、それは戦争に参加する事になりかねない。


それを望むかと言えば三角だ。


魔族の為と言うなら参戦しても良い。


もう魔族の勝利が確定しているなら、俺が戦うことは無いかも知れない。


「それでアルは俺に何を望む」


「私の望みですか?」


「ああっ! 俺が貴族階級になって戦いで活躍した方が嬉しいのか? それとも……」


何を言っているんだ俺は……


「私ですか? 私は、余り戦争は好きじゃありません! 幾らキリ様でも絶対に勝ち続ける保証はありませんから……」


そう言いながらアルは少しだけ悲しそうな顔をした。


「それは余り俺に出世して欲しく無さそうだね」


「貴族階級になれば嫌でも戦いからは逃げられません……これは望んではいけないのかも知れませんがキリ様には戦いの場に赴いて欲しくないのです」


俺も争いに余り参加したく無いな。


「なら、良いか……手柄の報告はしないで良いか?」


「キリ様?」


俺は自分が欲しかった物が解ってしまった。


「俺は別に出世がしたい訳じゃない……自分に近い存在の魔族と面白可笑しく暮せればよいんだ! アルに心配させる位ならこのままで良い!」


「キリ様……本当に良いんですか?」


「ああっ…….」


俺が欲しかった物……それは同族の家族になって貰える存在だったんだ。


サターニャ様とは長く暮したが、幾ら気さくとはそこに上下関係はある。


随分と回り道したが……今の俺にはアルが居る。


戦いに参加するよりアルと関係を深めた方がきっと良い。


「本当に宜しいのでしょうか?」


「勿論……戦いの場に行くより、アルと一緒に楽しく暮した方が良い……本当にそう思うよ」


「私は、もう既に身も心も捧げています……本当に嬉しい」


「良かった」


切裂く者と言われた俺が……心から望んでいたのは……これなのか?


意外だな……


笑顔で抱き着いてくるアルを俺はしっかりと抱きしめた。


◆◆◆


アルと一緒に魔国にたどり着いた俺は、アルと一緒に魔国の奥で冒険者を始めた。


魔族に溶け込み、魔族の友人をつくり……面白可笑しく暮し始める。



狩るのは魔物じゃなく、人間や獣。


気がつくと悪魔としての殺戮本能は消えていった。


平凡な魔族として暮らす生活……それも悪くない。


◆◆◆


人間界で寂しく暮していた最後の悪魔は……異世界で平凡な魔族として暮らしました。


そして彼がその後争いに参加してくることは無く、まるでただの魔族のように家族を作り楽しそうに暮らしましたとさ。


きっとサターニャが見たら……自分達と何が違うの?


そう言うかも知れません。


FIN





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