第11話 狼の魔物と魔族の女
この辺りにはゴブリン以外にもオークという魔物が居る。
ブタの頭に人間の体を持つような魔物だと言うが……
見てみたい物だ……もう少しぶらついたら見られるのだろうか?
ゴブリンに癒された俺はそのまま森をうろついていた。
魔物が出るという森は俺にとって癒しだ。
文明が進んでいないからか空気も美味いし……ゴブリンとは細かな意思の疎通は出来ない物の……明らかに畏敬の念で見られていた気がする。
オーガとは言わないがせめてもう一種族、オーク位には逢いたい。
そう思い、森の中を歩いていると青み掛かった狼が人間に追われていた。
あれは獣なのかそれとも魔物なのか……
どちらか解らない。
だが、どちらにしても『人間より上位』の存在だ。
獣であっても狼は悪魔が好む生き物だ。
どうせ、この人間は悪魔信者でもないし、魔女ではあるまい。
それなら、簡単だ。
「おい、そのブルーウルフは俺達の獲物だ」
「横取りするなんて冒険者の風上にも置けないわ」
「此処まで手傷を負わせたのは俺達だぞ!」
見当違いだな。
男2人に女1人……見た感じ冒険者だな。
「がるるっ」
この狼の様な存在は足を斬られて此処まで逃げてきたようだが……その場から動かない。
「そうか……このような可愛らしい、いたいけな動物を傷つける様な奴を俺は許せない」
「待て、そいつは動物じゃない、魔物だぜ、なに馬鹿な事を言っているんだ!」
「犬か狼と……えっ……」
魔物なのか、それなら尚許せないな!
近くに居た男を俺は無造作に伸ばした爪で切裂いた。
防具もつけて無い人間等、俺にとっては紙みたいな物だ。
上下がゆっくりとズレてそのまま崩れ落ちた。
「貴様ぁぁぁぁぁーーー! よくもーーっ」
「煩いよ! 魔物虐待者……」
残念ながら、その程度の動きじゃ俺に攻撃は当たらない。
ひょいと簡単に躱し、逆に首を跳ねた。
近くで女の冒険者がガタガタ震えている。
「たたたた、助けてぇ」
「助けない」
俺はこれでも慈悲深いのだ。
苦しまないように一瞬で首を跳ねた。
さてと……
俺はブルーウルフの様子に目を向けたが、ヨロヨロと歩き出した。
残念な事に俺は回復の術を持たない。
殺した冒険者の腰袋を漁るとポーションが出て来た。
ポーションは俺の体で試したが、ちゃんと回復した。
それなら、魔物にも使えるだろう。
俺はブルーウルフの足に振りかけるとブルーウルフの足の傷はみるみる治っていった。
これで大丈夫だ……
そう思い、ブルーウルフを見ると、すぐさま走って行った。
『なんだ助けてやったのに薄情な奴だ』
そう思い眺めているとすぐにブルーウルフは引き返して来て俺のズボンの裾を噛み引っ張った。
「うん? どうした?」
遊んで貰いたいのか?
一瞬思ったが、必死に引っ張っているように思えた。
「もしかしてついて来て欲しいのか?」
「がるるぅ~」
まぁ良い暇だしな、このブルーエルフもなかなか可愛い。
理由は解らないが、俺はついて行く事にした。
◆◆◆
ブルーウルフについて行くと……そこには檻に入れられた女が居た。
「様子を見て来るから此処で待ってな」
魔物に言っても解らないか……そう思ったが、このブルーウルフという魔物は頭が良いのか、その場で伏せをした。
多分、ブルーウルフはこの女を助ける為に俺を此処に引っ張ってきたのだろう。
まぁ良い……
檻の周りには男が5人居る。
1人は恰好から見て、御者だろう。
問題は4人、さっきの冒険者と違いしっかりと鎧を着こんでいる。
ちょっと厄介だ。
そのまま歩いていき、1人の男に話しかけた。
「その檻の中の女、なにか悪さしたのかい?」
「ああっ、此奴か? 此奴は普通の女なんかじゃない! 魔族だよっ! 村で人間に混じって生活して居たんだぜ!」
魔族だと!
「そうなんですか? なかなか、面白そうな話ですね……これ差し上げますから、詳しい話を聞かせて貰えませんか?」
俺は銀貨1枚取り出して冒険者らしい男に渡した。
「随分と物好きだな、まぁ今は休憩中だから構わないぜ!」
「仕事が物書きなもので、取材ですよ! 取材!」
「成程……おーいお前達! この旦那が話聞かせて欲しいってさぁ! 飯代に銅貨5枚預かったから、話してやろうぜ!」
此奴銅貨5枚分誤魔化しやがった。
目で文句言うな……そう威圧をかけてくる。
まぁ、良い……俺は話しさえ聞ければよいんだからな。
「そう言う事なら、良いぜ」
「話すだけで飯代稼げるなら構わねー」
「随分と物好きなんだな」
「物書きだそうだ」
「そうかい? そういう事か?」
御者はこの輪に加わって来ない。
恐らくは立場的に下なのかも知れない。
話しは簡単だった。
この檻の中の女は魔族で、村の木こりと結婚して、人間の振りをして生活して暮らしていた。
木こりの家が村ハズレで魔族の女も人に近い容姿だった為、魔族だと解らなかったそうだ。
確かに遠目で見る分には俺の目にも人間にしか見えない。
「それで、どうして魔族だと解ったんだ」
「村の女から『何時までも若いまま齢をとらない女が居る』という話しがでてよぉ~ 可笑しいという話しで役人が調べに行ったら、この女の子供の頭に小さな角があったんだ、まぁ髪を結んでいて普通じゃ気がつかない位に小さな角だったんだけどな」
「それで……」
「それで調べてみたら、木こりは普通の人間だったが、この女は訴えどおり魔族だった……そう言う事だ」
「それで、女しか居ないようですが、木こりや子供はどうしたんですか?」
「それならよぉ~木こりが魔族と知って結婚したのか試す為に木こりに子供を火にくべて殺せるかどうか村で試したんだそうだ。 そうしたら見事に木こりは子供を火にくべて殺す事が出来てな……騙されただけと言う事で無罪になったそうだ!」
「魔族でも自分の子じゃ無いのか?」
「はぁ~! 魔族の子に温情なんて掛けるわけねーだろう? 『この魔族がぁぁぁーー』と言って泣いている子を火に放り込んだそうだ……まぁ聞いただけの話だけどな」
魔族と言うだけで実の子を火にくべて殺すのか……
やはり人間はクズだ。
「それで、檻の中の女と話をさせて貰えないか?」
「そうだなぁ~」
そう言いながら男は下品な顔で笑いながら顔を近づけてきた。
俺は追加で銀貨1枚渡すと……
「別に構わないぜ、俺たちはこれから昼食だからそれが終わるまで勝手に話してな」
「ありがとう」
俺はお礼を言うと檻に近づいていく。
凄い美人だ。
相手が魔族と解っているせいか、どうしても甘く見てしまう。
綺麗な金髪、色白の肌……そして巨乳とも言える大きな胸。
肉つきが良くそれでいて太ってない。
目は切れ長で顔も整っている。
人間で言うなら貴族の令嬢というかお姫様だな。
但し、よく見ると耳がエルフの様に長く、小さめの羊の様な角がある。
「これから死ぬという私がそんなに見たいのですか……話す事なんてありません」
きっ! という目つきで俺を睨んでくる。
「人間が憎くは無いか?」
「憎いに決まってます! 愛していた夫に裏切られ、子供は目の前で夫に燃やされました……夫は私が魔族だと知って結婚したのに……ううっ……裏切って大切な娘まで、愛して無いと言わんばかりに燃やしたのです。 仲の良かった村人も誰一人助けてはくれず、全員が私に石を投げてきました……」
「そうか……」
子供も目の前で殺されたのか……
「もし、俺が仇をとってやると言ったらどうする?」
「仇を……どうせ私を騙して嘲笑うのでしょう? 人間が私を助ける訳が無い! 人間は……人間は全員敵だぁぁぁぁぁぁーー! もし助けてくれたなら、娘の仇をとってくれたなら私の人生全てを捧げても良いっ! この体、心、魂全部あげるわぁぁぁぁーー! だけど、薄汚い人間が私を助ける訳ない! そうでしょうっ!」
この恨み……この怨嗟の声、まして相手は魔族。
この俺がこの思いを振りほどく事は出来ない。
まして、悪魔への作法『対価を捧げての願い』叶えない訳が無い。
「そうか……良かったな! 俺は人間じゃない! 悪魔だ!」
俺は悪魔本来の姿『切裂く者』の姿に変わり男達の傍に近づいていく。
「まずは、この男たちは…...残酷に殺してやるよ」
魔族の女はそんな俺を驚いた顔と喜びの笑顔で見ていた。
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