第5話 転移先にて......やはり此奴らは馬鹿だ
俺が目を覚ますとそこは……レンガで作られた部屋の中だった。
どの位広いんだ…体育館並みの大きさがある。
生徒達はもう既に目を覚ました後だ。
これが異世界転移か……理屈は解らないが、本当に他の世界に来たようだ。
世界を渡ったせいか……悪魔の俺が気を失うとはな。
多分、俺が一番最後に起きたようだ。
「なかなか目を覚まさないから焦ったぜ」
目の前に居る兵士が俺に声を掛けてきた。
「此処は何処でしょうか?」
異世界なのは間違いない。
見た感じ、中世のような世界のようだ……さっき迄日本に居たんだ。
明らかに異様な世界だ。
「しっ! その質問にはこれから姫様が答える、心して聞くように!」
兵士に言われ前を向くと……そこには1人の少女が玉座の男の横に立っていた。
「最後の一人が目覚めたようですね! これから重要な話をします、事情が解らないかも知れませんが、まずは私の話を聞いて下さい!」
日本では見ない水色に銀色を混ぜた様な綺麗な髪、セミロングでウェーブが掛かっている、見るからに豪華な装飾品……まぁ異世界のお姫様って所か。
「ようこそ! 異世界の戦士の皆さん、私はこの国の第一王女ライアと申します。こちらに座っているのがこの国の王ドラド6世になります」
小太りの王様らしい王様だな。
そんな風に思っていると、生徒の中のただ一人の、まぁ割と常識人な工藤が手を挙げていた。
「こちらの国の事情は全部女神様から聞いた。そして俺たちが戦わなくてはならない事も…...だが私達は戦闘経験がない……できるだけ安全を確保した状態で戦わせて欲しい。そして生活の保障と全てが終わった時には元の世界に帰れるようにしてくれないか?」
此奴、思った以上に真面だったんだな……
今更、そんな事はどうでも良い。
この世界において、俺の立ち位置は此奴らの敵だ。
だが…俺はこんな話は聴いてないぞ。
俺があの世界で目覚める前に話でもしていたのか……
どう言う事だ……聞いていれば解るか……
「勿論です、我々の代わりに戦って貰うのです。戦えるように訓練もします。そして、生活の保障も勿論しますご安心下さい。 元の世界に帰れる保証は今は出来ません。ですが宮廷魔術師に頼んで送還呪文も研究させる事も約束します」
嘘だな……
本当の所は解らないが、あの女神の口ぶりでは今回が初めてじゃない。
普通に考えて、過去の召喚者だって帰りたがった筈だ。
だが『未だに送還呪文が無い』それは帰す気が無い、そういう事だ。
「解りました、それなら俺からは何もいう事は無い、他の皆はどうだ? 聞きたい事があったら遠慮なく聞いた方が良いぞ」
やはり馬鹿だ。
こんな事が解らない。
生徒達が猫を被って色々な事を聞いている。
どうやらここは魔王が存在し魔族と人間が戦っている世界。
恐らく此処には魔族がいる。
しかも……恐ろしい神族や天使族が人類に表立って加担しない。
『なんて素晴らしい世界』なんだ。
俺は、天使位なら殺せる実力はある。
人類最強が『勇者』なら怖くない。
生徒がまだ質問をしていたが、もう目新しい情報は無い。
「俺たちはただの学生です、戦い何て知りません、確かにジョブとスキルを貰いましたが本当に戦えるのでしょうか?」
はははっ、只の不良じゃ不安だよな。
暴力は振るえても殺しは出来ない。
今の此奴らに真面に戦闘が出来るとは思えない。
「大丈夫ですよ、ジョブとスキルもそうですが召喚された方々はこの世界に召喚された時点で体力や魔力も考えられない位強くなっています、しかも鍛えれば鍛えるほど強くなります。この中で才能のある方は恐らく1週間位で騎士よりも強くなると思いますよ」
ジョブやスキルを貰って強化されているのは間違いない。
だが、この世界の人間が敵わないから此奴らを呼んだ。
騎士より強くても意味はない筈だ。
そこからどれだけ強くなるかがキーだ。
俺にとって此奴らは敵になる。
此奴らが居なければ、この世界の魔王、魔族は助かる筈だ。
成長して脅威になる前に手を打つのが正しい。
しかし……この世界の女神は何を基準に此奴らを選んだ。
強い奴が欲しいなら、自衛隊や防衛大学、せめて体育大学から転移させた方がまだマシだろう。
座礁がこの高校しか選べないにしても、せめて運動部位から選ぶべきじゃないのか。
「それなら安心だ……」
いや…安心じゃ無いだろう。
馬鹿なのか……いや、此奴らは馬鹿だった。
「もう、聞きたい事はありませんか? それならこれから 能力測定をさせて頂きます。 測定といってもただ宝玉に触れて貰うだけだから安心してください……測定が終わったあとは歓迎の宴も用意させて頂いております、その後は部屋に案内しますのでゆっくりとくつろいで下さい」
何か行動を起こすなら……そこだな。
一応は聴いて置くか……俺は手をあげ聴いた。
「ジョブもスキルも貰ってない場合はどうすれば良いんだ!」
生徒達全員の顔がこちらに向いた。
厭らしい顔だ。
声に出さないがニヤニヤと蔑んでいるのが解かる。
そうだ……俺は元から此奴らが嫌いだった。
完全な敵になった今、我慢する必要はない。
「とりあえずは測定を受けて下さい。きっと何かの間違いですよ……ジョブもスキルも無い人間なんてこの世界には居ませんから安心してください」
残念ながら俺は確実に無い。
『悪魔』だからな。
問題は、その測定で俺と言う悪魔を暴く事が出来るのか?
それと俺と言う存在の強さを数値化できるのか……
楽しみだ……
あくまで俺の勘だが、此処に強そうな奴は居ない。
とりあえず、説明は終わってしまった
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