第4話 過去 女神との邂逅 異世界転移


サターニャ様も他の同胞もなにを見ていたんだか……


愛? 夢? 妄想も良い所だ!


黒木恵介として生きている俺には、そんな物は見えてこない。


周りを馬鹿にし、自分さえ良ければ良い。


そんな人間ばかりだ。


暴力を振るい金を脅し取る馬鹿ども。


金欲しさに体を売る女……しかも妊娠したら中絶すれば良いと思っている馬鹿娘。


これの何処に愛や夢があると言うんだ……


悪魔の俺からしたら心地よい。


だが、それは俺(悪魔)の敵でなければだ。


理不尽に人を貶め、差別するこんな人間……どうしてこんな存在を好きになるのか解らない。


『最悪、気にいらなければ殺すか』


そう思いいつもの様に授業を続けていたが……


いきなり、教室に魔法陣が浮かび上がり光り出した。


これは……召喚の魔法陣に何処か似ているが、少し違う。


なんだこれは……嫌な予感がする。


クソッ……逃げるか! 


生徒がなにやら騒いでいるが……知らない。


俺はすぐにガラスを割り、校庭へ飛び出した。


まだ、安心できない……少しでも遠くへ、遠くへ!


何故だ。


この魔方陣は場所に掛けられたのではなく、教室に居た人間全員に掛けられているのか?


何処までも追いかけてくる。


それなら逃げても無駄だ。


魔法陣の光がこちら迄迫ってきて、結局俺はそのまま光に包まれていった。


◆◆◆


……


俺が寝ぼけていると生徒の一人工藤が声を掛けてきた。


「先公が寝ている間に異世界の召喚で俺達はこの場所に呼ばれたんだ! 今は異世界に行く前に女神が異世界で生きる為のジョブとスキルを皆に授けてくれている最中だ! 先公もノンキに寝て無いでさっさと並べよな」


興奮気味に工藤は俺に話してくる。


俺は周りを見渡した。 


白くて何もない空間……こういう空間は確かに神が好んで使う。


間違い無く、此処は神界だ。


だが、どの神や仏も『悪魔』をその領域に入れることは無い。


いったいどの神が俺を此処に招き入れたと言うのだ。


「それじゃ、俺は先に行くぞ、先公もジョブとスキルを貰ったら来いよ……全員揃ってないと異世界に行けないみたいだからな」


そういうと工藤は走って行ってしまった。


どうやら、ジョブとスキルを貰った者から先に異世界へ転移していくみたいだ。


俺は、女神らしい女性のいる列に並んだ。


綺麗なウエーブの掛かった金髪に綺麗な青い瞳。


確かに神々しく、そして慈愛に満ちた顔をしている。


『ああっ、殺したくなってくる』


確かに美人だ。 だが殺したい女。


それが、女神のイメージだった。


悪魔にとって女神は敵だ......だから嫌悪する。


次々に生徒がジョブとスキルを貰っていく中、いよいよ最後に並んだ俺の番がきた。


他の生徒達はもう異世界に向かったようだ。


「貴方で最後ですね……貴方は……」


異世界か……


魔王や魔族が居る世界……


昔は地球もそうだった……悪魔と神が存在し拮抗していた。


そんな世界に俺は行けるのか……


凄く有難い。


きっと、そこには『素敵な仲間』が沢山居るのだろう。


俺は猫を被る事にした。


「ジョブやスキルが貰えるのですよね? ……それで俺はどう言ったジョブとスキルを頂けるのでしょうか?」


「おかしいわ……貴方にジョブやスキルを与えようとしたのですが……何故か入っていかない……」


俺は悪魔だから、神の加護が貰える訳が無い。


『正体がバレる前に殺すか』


まだ、解らない。


様子を見ようか……


「あの…なにか問題が起きたのですか?」


「異世界で魔王が現れ困っている。そして一国の王族が勇者召喚をして君たちを呼ぼうとしたのよ......ここまでは理解できますか?」


まるで夢の様な世界だ。


ああっ……魔王が居て、魔族がいる。


きっと、俺の同胞や仲間が沢山居る世界。


また、俺はやり直しが出来るのか……


女神……俺の敵だが、今だけは感謝する。


「何となく物語で読んだ話に似ている気がします」


「理解は早いわね……助かるわ、だけど困った事が起きたのよ……」


「何でしょうか?」


「召喚対象全員にジョブとスキルを与えているんだけど、何故か、貴方にジョブやスキルが入っていかないのよ」


悪魔だからな。


「あの、女神様?」


「ん?どうかしたの?」


「もしかして、その穴に入れば異世界に行けるのですか?」


「そうよ……だけど、このままじゃ貴方だけジョブもスキルも無い状態で行く事になるわ」


『殺すか……殺して穴に飛び込めば異世界に行ける。 だが、腐っても女神……戦ったら恐らく死ぬのは俺だ。どうやって誤魔化すか。 元の世界には戻りたくない』


「俺は前の世界で、別の神を信仰しています。だからジョブやスキルが入っていかないのかも知れません」


「そう……信仰深いのね……でも、この魔法は私が掛けたんじゃないのよ……どうする事も出来ないわ!」


「仕方ありません……何も貰えない状態で行きますよ……」


「そう……助かるわ……あっ、何故か翻訳と収納だけは入ったわ」


「そうですか……それじゃ、それで結構です!」


「今からでも、私の宗教に信仰を変えませんか? ジョブもスキル無いと辛いですよ」


多分、時間をかけると正体がバレるかも知れない。


「結構です……スミマセン……それじゃ行かせて貰います」


それだけ伝え、俺は女神を無視し穴へ飛び込んだ。







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