第3話 過去、なりすまし
この世界に来る前の事だ。
俺は青誠(あおせい)高校で教師をしていた。
「ですから、昔の日本において神道とは……」
「きゃははっそれでさぁ、今日、これからどうする?」
「面白くないから、このまま授業サボって何処かいかねー?」
「マケドにでも行ってだべるか……」
『本当に煩いな……此奴ら殺したらイライラもおさまるか……』
「そーれ、えぃっ!」
授業を聞かない生徒達......此処では、あたり前の光景だ。
後ろから紙飛行機が飛んでくる。
『此奴ら、まるで猿だ……はぁ~面倒くさい』
「はい、此処はテストに出るからチェック」
いちいち文句を言ってもきりがない。
このクラスの生徒その物がほぼ全員碌でもない奴らだ。
1人や2人じゃ無くほぼ全員がクズ。
だから、注意しても何も変わらない。
下手に注意しても、徒党を組んで文句を言い暴れまわる。
此奴らはきっと更生しない。
此奴らが真面になる時はきっと『冷たく動かなくなった時』だろう。
少なくとも俺は此奴らが嫌いだし更生などしない、そう思っている。
本当に面倒臭い。
「どうせ、この学校は余程の馬鹿じゃなければ進級できるし、意味ねーよ」
「そうだよね、うちら、大学なんていかねーもんね」
行きたくてもいけねーだけだよな。
行かねーんじゃ無くて『馬鹿だから行けない』の間違いだろうが。
まぁ良い……俺は授業という義務を果たしているだけだ。
あとは、知らねー。
此奴らがどんな人生歩もうが関係ない。
半グレ、ヤクザ、風俗嬢にでもなれば良い。
俺は好きで教師をしている訳じゃない。
好きな様に生きてくれ……
どうせお前ら更生しねーから……どうでも良い......将来地獄で後悔するんだな。
◆◆◆
更に時は遡る。
「人間の男と結婚する……だと?」
「ええっそうよ!」
赤い綺麗な髪の美しい美少女......だが、その正体はサタン様の愛娘、サターニャ様がそんな事を言い出した。
「世の中には悪魔はもうサターニャ様と俺しかいませんが! まさか相手は……」
「そう、人間よ!」
魔界とのこの世界の繋がりが無くなり、数百年……ずうっと傍で仕えていた、サタン様の娘サターニャ様がまさか人間の男に恋をし結婚を考えているとは思わなかった。
確かにこの世界は悪魔にとって住みづらい。
世界中、それこそ南極に居ても、カメラで映されてしまう。
そんな環境で、悪魔が城なんて維持する事が出来ず……我々は住む拠点を失った。
最早、この世界に住処は無いと悟った多くの悪魔は、人間と同化し紛れ生きて来たが……何故か多くの者は、人間との同化でその能力を失い、人の寿命で死んでいった。
理由は解らない。
だが、更に、世の中の悪魔の血を引く者も人に紛れ生きていくなか能力を失っていき、人と大差ない寿命で誰もが死んでいくのは事実だ。
そして、今この世界に居るのは、悪魔の血を引いている物の悪魔とは言えない混血が多少いるだけで、本当の悪魔と呼べる存在はサターニャ様と俺だけだ。
俺とサターニャ様は悪魔の中でも変化が出来る為、人と同化しないでそのまま生きてきた。
「まさか、人間と同化してその能力を失い人として生きていくと言うのですか? 悪魔としてのプライドは無いのですか?」
「そんな物ないわ! 悪魔と呼べるのはもう貴方と私だけだわ! それに貴方は私の好みじゃないから……相手は人間から選ぶしか無いじゃない?」
確かにそうだが……
「魔界に帰れば幾らでも相手が……」
「無理よっ! 聖魔戦争で魔族が破れ魔界とこの世界の扉が閉ざされ数百年が過ぎたわ……修復出来るものならとっくにしている筈よね」
「そうですね……ですが、我々魔族には寿命が無い……幾らでも待てば良いのです」
「でも、もう私は疲れたのよ……それに人の世には『愛』がある。 人の世には『夢』がある。 ただ闇ばかりの世界で生きるより、この世界で生きた方が楽しい……」
「……」
「それに好きな人も出来たの! だから、私はもう悪魔では無く、残りの人生は人として生き人として死んでいくつもりよ!」
「人間と同化し、寿命まで捨てる気ですか?」
「そうよ……悪魔を捨て、完全に人間になるのよ」
これだ……この世界に残った悪魔は何故か人間に憧れ、人間になりたがった。
「悪魔を辞めるのですね……サターニャ様、いえ、もう仕える相手じゃないから、サターニャ……薄汚い人間になるのならもう、私にとって虫けらです……さっさと消えて下さい……殺したくなります」
「そう……最後に一言言わせて! 今迄ありがとうね! 出来る事なら悪魔じゃない幸せを……」
「煩いですよ! 下等な人間になるのならお前は只の家畜だ……私に指図などするでないわ」
「そう……解ったわ」
そして……俺は……
◆◆◆
自殺した黒木恵介の死体を見つけ……同化では無く、そっくりに変化し、なりすまし生活をしている。
この教師……まさか生徒の嫌がらせにより自殺をしたとは、思いもよらなかった。
サターニャ様や同胞が悪魔を捨ててまでなった人間。
俺には醜悪な物にしか思えないし、見えない。
何処が良いのかさっぱりわからない。
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