花詞

色とりどりに咲き誇る花畑を眺めていた。管理人がきちんと世話をしているのだろう、葡萄風信子ムスカリ苧環オダマキ瑠璃二文字ツルバキア花金鳳花ラナンキュラス、その他にも、春に美しい花々が咲き誇る。

葡萄風信子は「寛大な愛」「通じ合う心」、苧環は「決意」、瑠璃二文字は「落ち着きのある魅力」、花金鳳花は「光輝」。

そのどれもが私とは似ても似つかぬ言葉であった。

恩を忘れ、嘘を吐き、愚かにも相手を傷付けては失意の底に沈む。いや、寧ろ私に相応しい花なのかもしれない。

「どうですか、綺麗でしょう。」

不意に後ろから声がする。黒い服に身を包んだ老爺がそこに立っていた。

「ここいらの花は、みーんな私が世話をしているんですよ。」

横に腰かけながらそう話す老爺には、何か引き込まれるような雰囲気があった。

「何かあったんですか。なんだが暗い顔をしている。」

老爺が尋ねてくる。少し躊躇ったが、結局話してしまった。大切な人を傷付け、そして一人になっていったことを。

「そうですか…。それはさぞお辛いでしょうな。しかし、貴方は運がいい。こんなにも貴方に相応しい花々に囲まれている。」

まるで人を小馬鹿にするような老爺の物言いに腹を立てたが、次第にその腹すら立たなくなった。全て悪いのは自分であり、腹を立てる権利などは最初からありはしないのだ。

「そうだ、あなたに相応しい花を加えて植えましょう。あなたを表すに相応しい花…そうだ、孔雀草マリーゴールドなんてどうでしょうか。株で植えればきっと夏には綺麗に咲くことでしょう。」

そう言って老爺は嬉々と立ち上がる。たった数分の会話であったが、何故か心が軽くなったような気がした。

「ああ、それともう一つ。これは老骨の言うことですから深く考えなくても結構ですが…もしこれからも辛いことがあれば、あの木のように生きればよろしいのではないでしょうか。あの木は、真っ直ぐ青々と育つのですよ。」

そう言って老爺はニカッと笑って見せた。

老爺の指す方には、一本の西洋檜サイプレスが植わっていた。


そうだ、次の休みに教会に行ってみよう。そして、たまにはキリストに祈りを捧げてみよう。

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短編小説集 律王 @MD_aniki

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