伽藍堂
皆に笑われる日が続く。
本当の笑いなどとうに忘れ、皆少しずつの悪意を以て嘲笑の餞とする。そんな視線から逃れる様に、私は目を瞑る。
闇が私を包む。皆が私を嘲る。微かに見えた一筋の光も,無情に閉じられていく。先に広がるのは,一寸も見えぬ闇ばかり。
私が呟く。ここでいいのではないかと。
私が絆す。十分ではないかと。
私は呻き蠢く。私を待つ人がいるのだ。最愛の人が。
それでも幻とは無情なもので,大切なものほど遠くに並び,仄かにその輪郭がそれを覗かせるばかりである。
私が囃す。お前の命など,何の価値もないのだと。
私が唆す。あと一歩前へ進めど,誰もお前など目もくれぬと。
ゆるりと動く生温かい手が、するりと心に泥を落とす。先刻までそこにあった筈の心音がはたと無音と化け、心を閉ざす閂の音が頭蓋に響く。目に灯す光を吹き消し、また心が縛られる。
ああ、血が見たい。痛みが欲しい。生を感じられるように。皆が感じる日の心温を、私も感じたい。かつては私も灯したはずの希望という名の篝火を消し、絶望の句を呪のように垂れる。死とは終焉か。救いか。その答えを知りたいが、その勇気もなく、こうして不安の海に身を投げる。
揺れる私を抱き上げるのは女神の皮を被った悪魔か、新たな絶望か。答えを知らぬ、知りたいとも思わぬ問いにばかり心を窮す日々。
いずれは夢を追いかけた日々に戻れるか。その自問さえ許さぬ孤独がまた心に暗幕を下す。
私が迎える最期とは、凍える悪意のもとか、燃ゆる傷意のもとか。
自問し、自傷し、また心を引き攣らせ、笑顔の仮面を被る。
私は伽藍堂。そうでなければならない。
私は道化。そうあらなければならない。
それが皆が求める私だ。
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