伊達家
伊達家の領内を進み、ついに俺たちは伊達家の屋敷に到着した。
長い旅路を経て、ようやく目的地にたどり着いたという安堵感と、これから始まる正式な交渉への緊張感が入り混じっていた。
「やっと着いたな……」
と、勇太が肩をほぐしながら言った。
剛蔵も静かに頷いていた。
門をくぐると、目の前には立派な屋敷が広がっていた。
伊達家は南方の海沿いで栄える領主であり、その繁栄ぶりが建物にも現れていた。
広々とした中庭には、美しく手入れされた木々と庭石が配置され、屋敷の中は海からの風が心地よく吹き込んでいた。
「郷田家の皆様、ようこそ」
出迎えてくれたのは、伊達家の重臣である佐竹という男だった。
彼は礼儀正しく、俺たちに丁寧に挨拶をしながら、屋敷内へと案内してくれた。
「伊達家当主、伊達 秀隆様がお待ちです。どうぞ、お進みください」
俺たちは緊張しながら、伊達家の当主に会うために奥へと進んでいった。
伊達 秀隆は、南方の海岸線を守る若くして力を持つ領主だった。
銀髪に日焼けした肌、そして青い瞳が特徴的で、快活な表情を浮かべながら俺たちを迎えてくれた。
「ようこそ、郷田家の勇士たち。話は聞いている。旅の疲れを癒すために、今夜は大いに楽しんでくれ」
伊達 秀隆は、にこやかに挨拶しながら手を広げて俺たちを歓迎した。
彼の背後には、すでに準備された宴席が広がっており、大勢の客人たちが賑やかに話し声を上げていた。
「まずは、席に座ってもらおう。話はゆっくりすればいい」
宴席に案内された俺たちは、豪勢な食事を目にして驚いた。
テーブルには海の幸が豊富に並んでおり、新鮮な魚介類や肉料理が所狭しと並んでいる。
伊達家は海上交易で栄えているだけあり、その豊かさが食事に表れていた。
「こりゃすごいな……」
勇太が感嘆の声を漏らし、剛蔵も無言のまま酒を注がれた杯を一気に飲み干していた。
俺も目の前の料理を見て、胃が鳴るのを感じた。
新鮮な魚介類に香ばしく焼かれた肉、そして異国の香りがするスパイスの効いた料理が、俺たちを誘惑していた。
「お前ら、遠慮するなよ。今日は大いに食べて飲め」
伊達 秀隆は、俺たちに酒を勧めながら、笑顔で豪快に食べ始めた。
彼は貿易を通じて得た異文化の影響も強く受けており、郷田家とは異なる風習を持つことが垣間見えた。
食事が進む中、宴席は次第に賑やかさを増していった。
酒が進むにつれて、客人たちの笑い声が高まり、賑やかな話題が飛び交った。
俺たちは、旅の疲れを忘れ、次第にその雰囲気に溶け込んでいった。
しかし、俺はこの宴席が単なる歓迎の場でないことを理解していた。
伊達家にとっても、俺たち郷田家の意図を探る重要な場であり、ここでの振る舞いが今後の交渉に影響を与えるのは間違いない。
「郷田の隼人だったか?」
突然、秀隆が俺に声をかけてきた。
驚いた俺は、杯を置いて彼の方に向き直った。
「そうです、伊達殿。お招きいただき、ありがとうございます」
「いやいや、遠路はるばるよく来た。噂には聞いている。お前、まだ若いのに随分と強いそうじゃないか」
秀隆の言葉に俺は少し照れたが、彼の真剣な目が俺を見つめているのを感じた。
「いえ、まだまだです。兄や父に比べれば……」
「謙遜するな。強者ほど、その力をひけらかさないものだ。俺はそういう奴が好きだ」
そう言うと、秀隆は再び笑い、俺に酒を注いでくれた。
彼の気さくさに俺も徐々に心を開いていく。
宴は続き、夜が更けていった。
酒が進むにつれて、俺たちは伊達家との距離を少しずつ縮めていった。
だが、この宴が終わった後に待っているのは、交渉の場だった。
「明日が本番だな……」
俺はそう自分に言い聞かせながら、今夜はこの豪勢な宴を楽しむことにした。
宴が明け、次の日、俺たちは伊達家との交渉の場に臨んでいた。
伊達 秀隆は俺たちを広間へと招き、いよいよ郷田家と伊達家の関係をどう築いていくかが話し合われることとなった。
郷田家は武力に秀で、伊達家は財力と海上交易で栄える家だ。
だが、互いに強力すぎる力を持つため、どこか牽制し合っているのが見えた。
「では、これが当家の息女玲奈だ」
秀隆が広間の奥から呼び寄せたのは、一人の女性だった。
彼女が姿を現した瞬間、俺は思わず息を飲んだ。
銀髪に碧眼、その瞳は大きく輝き、手足は細く長い。
俺の前世での美的感覚からすれば、まさに女神のような美しさを持つ女性だった。
だが、広間の空気が一瞬にして変わったのを俺は感じ取った。
「どうだ? 我が家の娘だが……郷田家の皆様に気に入ってもらえるかは分からんな」
秀隆はどこか申し訳なさそうに頭をかきながら言った。
彼は本気で、この女性が醜女だと思っているらしい。
「……」
俺の横で、勇太も剛蔵も固まっていた。
二人の顔は青ざめ、まるでバケモノを見るかのように息女を見つめていた。
彼らの目には、彼女がこの世界の基準で醜い存在に映っているのだろう。
「あれは……さすがに無理だよ」
勇太が小声で俺に囁いた。
剛蔵も苦笑いを浮かべて頷いている。
俺も彼らの気持ちは理解できた。
この世界、特にジパルド国全体の美の基準では、女性の美しさは大柄で黒髪黒目、細く切れ長の目が好まれる。
そして、顎が下膨れしているほど豪華で福を呼び寄せ美しいとされているのだ。
分かりやすく言えば、太ったでっかい体型の顔はおかめの面のような顔。
俺の美的感覚からは全く共感出来ない。
つまり、彼らにとって、この伊達家の娘は美の対極に位置する存在だったのだ。
「申し訳ないが、うちの娘では郷田家にとって物足りないかもしれん」
秀隆は頭を下げて詫びた。
彼の言葉からも、彼自身が自家の美的感覚がこの国では受け入れられていないことを感じているのだろう。
俺も、ここで一樹にこの女性を嫁に迎えるのは無理だとすぐに判断した。
どんなに俺の前世の感覚で美人だと思っても、郷田家の伝統や価値観を無視してはならない。
何より、一樹自身がどう思うかは分かっている。
「……そうですね。確認はしてみますが、兄一樹の嫁には難しいかもしれません」
俺はそう答え、勇太も剛蔵も無言で頷いた。
だが、秀隆もこれを想定していたようだ。
伊達家と郷田家の関係は複雑だ。
伊達家は郷田家の武力を恐れているし、一方で郷田家は伊達家の財力や、彼らが他の領主たち、特に大谷家や松永家との繋がりを強化することを望んでいなかった。
どちらも強大な力を持っているが、互いに完全に信用し合うことは難しい状況だった。
さらに、伊達家はジパルド国全体でも珍しい存在だった。
彼らは一夫一婦制を採用しているため、他の領主たちから見ると、縁戚関係を結びにくい家柄でもある。
特に、醜女醜男が多いとされるこの領地では、他家との結婚が非常に難しいことが有名だった。
「……郷田家とは、どうしても親しい縁を結びたかったんだがな。一応、玲奈の姿絵を渡しておく。一樹殿によろしくお伝えくだされ」
秀隆が深いため息をつく。
郷田家との縁戚関係は、伊達家にとっても大きな利益をもたらすだろうが、今のままではそれは難しい。
「伊達殿、我々も武力と財力を共有することでお互いに強力な協力関係を築きたいと考えています。だが、結婚の件は……もう少し時間をかけて考える必要がありそうです」
俺は言葉を選びながら秀隆に返答した。
すぐに決断を下すわけにはいかない。
しかし、伊達家との結びつきを完全に拒否することも賢明ではない。
交渉は続くが、今回の縁談は一旦保留となる形で話はまとまった。
伊達家が郷田家の武力をどう見るか、また郷田家が伊達家の財力や影響力をどのように活用するかが、今後の課題として残された。
「……全く、美の基準ってのは分からないもんだな」
俺は心の中でそう呟きながら、今後の関係について思いを巡らせた。
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