伊達家への道を進む途中、俺たちは川を越えるための重要な橋が崩落していることに気がついた。

橋は完全に壊れていて、川を渡る道が塞がれていた。

周囲には困惑した表情を浮かべる地域の住民が集まっていたが、どうやらこの橋が無くなったことで、彼らの生活も大きく影響を受けているらしかった。


「これじゃ川を渡れないぞ……」


勇太が呟き、剛蔵も腕を組んで川を見つめている。

川の流れは速く、渡るのは簡単なことではない。

周囲の住民も不安そうに俺たちを見ていた。


「……どうする?」


俺は考えながら、周囲の地形を見渡した。

そして、ふと目に入ったのは近くに生えている巨大な木々だった。


「……そうだ、あの木を使えば橋を作れるかもしれない」


剛蔵が木々を見て、俺の提案に頷く。

これまでの訓練と成長で、俺の体力は以前の俺とはまるで違う。

川を渡るための簡易の橋なら、俺たちの力で作ることができるだろう。


「よし、隼人。お前と俺で木を倒すぞ。勇太、お前は木の配置を見てくれ」


俺たちはすぐに作業に取りかかった。

剛蔵と俺は村人から借りた斧を手に、次々と大きな木をなぎ倒し、川の両岸に橋の基礎を作り始めた。

力がいる作業だったが、戦場で鍛えられた俺たちの体は動じることなく、次々と木を切り倒していった。


「よし、これで渡れるだろう」


数時間の作業の末、ようやく完成した簡易の橋が川を覆い、住民たちも驚きと感嘆の声を上げていた。


「助かったよ! 本当にありがとう!」


住民たちは俺たちに感謝の意を伝え、その夜は村で一晩過ごすことになった。


村に入ると、住民たちは歓迎してくれた。

村人たちが準備してくれた夕食は、この地域で捕れた獣肉を中心とした豪勢な料理だった。

俺はすぐにその肉を口に運んだが、無骨な調理が逆に野性味あふれる味わいで、とても美味かった。


「これ……うまいな」


俺が満足そうに言うと、勇太が隣で顔をしかめながら肉をつついていた。


「お前、よくそんなに食えるな……。俺、これには慣れないわ」


勇太は明らかにこの獣肉の食感や香りに慣れておらず、食べるのに苦労している様子だった。

剛蔵も同じく、硬い肉を噛みながら苦笑していた。


「まったく、お前たちがこんな食事に慣れてるなんて驚きだな……」


「俺は平気だ。むしろ、これくらいの野性味のある食事が体に合うんだよ」


俺は笑いながら、次の肉を口に放り込んだ。

戦で鍛えられた俺の体には、この獣肉の栄養がじっくりと染み渡るような感覚があった。

かつての俺がこんな食事にありつけるなんて、前世では想像もつかなかったことだ。


その夜、静かな村の一角で俺たちは宿泊していた。

長い一日を終えて、疲れた体を休めようとしていたところ、急に5人の村娘たちが、俺たちの泊まっている場所にやってきた。


「なんだ、こんな時間に……?」


勇太が不思議そうに呟く。

俺も最初は何事かと思ったが、彼女たちの表情から何かしらの期待を感じ取ることができた。

娘たちは、どこか決意に満ちた様子でこちらを見つめていた。


「これは……どういうことだ?」


剛蔵が鋭く問いかけると、村娘の一人が恥ずかしそうに答えた。


「……強い男の種をもらいに来たんです」


その言葉に、俺たちは思わず顔を見合わせた。

どうやら、村の習慣として、強い戦士の種を得ることで、将来の村の兵力を上げようという考えがあるらしい。

剛蔵も無理に驚きは見せず、むしろ冷静に頷いていた。


「なるほどな……強い戦士が村に増えれば、それだけ村も栄えるというわけか」


剛蔵はそう言いながらも、村娘たちの顔を見てすぐに顔を顰めた。

勇太も同じように、顔をしかめながら言葉を失っていた。


「……なんだこれ、冗談だろ?」


どうやら彼らの好みからすれば、村娘たちは醜女に見えたようだ。

村娘たちは、力強い体つきと粗野な顔立ちを持っており、確かにこの世界の美の基準からすれば、一般的な美女とは言えないかもしれない。


「おい、帰れ!」


剛蔵が厳しい口調で一喝すると、村娘たちは一瞬怯んだが帰らない。

しかし、俺はその様子を見て、彼女たちが必死に来た理由もわかる気がした。


だが、俺の目には、彼女たちが全員スレンダーな美女に見えていた。

前世の日本の基準でいえば、彼女たちの姿は十分に魅力的だ。

俺はとっさに立ち上がり、村娘たちを引き留めた。


「待ってくれ、俺が相手をする」


勇太と剛蔵が驚いた顔で俺を見た。


「お前、正気か……?」


勇太が戸惑いを見せる中、俺は頷いた。

彼女たちをただ追い返すのは、なんだか申し訳ない気がしたし、正直言って、彼女たちには十分な魅力を感じていた。


「俺には、彼女たちは美人に見えるんだよ。だから、心配しなくていい」


俺の言葉に、村娘たちも安堵した表情を浮かべた。

結局、俺はその夜、全員を相手することにした。


翌朝、陽が昇る頃、俺は疲れた体を起こし、外へ出た。

そこで待っていたのは、呆れ顔の剛蔵と勇太だった。


「……お前、ほんとにやるとはな」


剛蔵が腕を組んで溜息をつく。

勇太も、驚いた表情で俺を見つめていた。


「隼人、俺たちが相手できなかったのはわかるけど、なんでお前は……?」


俺は軽く肩をすくめた。


「単純なことさ。俺には、彼女たちは美人に見えた。それだけのことだ」


その言葉に、剛蔵は困惑したように笑い、勇太は苦笑いを浮かべた。


「お前、ほんとにゲテモノ喰いだな……」


そう言って、二人は俺に新しい渾名をつけた。

だが、俺はそれを気にすることなく、心の中で微笑んでいた。

美の基準は人それぞれだ。

俺にとって、彼女たちは十分に魅力的だった。

それで十分だったのだ。


そして、俺たちは再び伊達家への旅路を進める準備を整え、村を後にした。

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