父母
俺は六歳になり、自分の体がさらに成長しているのを感じた。
今では兄の一樹よりも少し小さいが、市松とほぼ同じくらいの大きさだ。
二人とも筋肉質で鍛えられた体を持っているが、俺の体はそれ以上に大きい。
周りの者たちが俺を見るたびに驚くのも当然だろう。
「なんでこんなにでかいんだ、俺……?」
そう思いながら、ふと父と母の姿を思い出す。
父の力三は筋骨隆々の豪傑で、戦場では無敵の存在だ。
そして、第三夫人である母・菊は、巨大な体と圧倒的な強さを持つ。
俺がこの二人の子供なら、体が大きくなるのも無理はないかもしれない。
正月の宴が始まり、屋敷は祝いの雰囲気に包まれていた。
戦乱の続く中でも、この時だけは家族や家臣たちが集まり、穏やかな時間を過ごす。
酒や料理がふんだんに用意され、どこか華やかな空気が流れている。
俺は食事をしながら、周りの大人たちの様子を見ていた。
「隼人、今年もまた一段と大きくなったわね」
第二夫人の絢子が、俺に声をかけてきた。
絢子は父の妻の一人で、二郎の母親。
冷静で賢いが、どこか距離を感じる存在だ。
俺はまだ、彼女に対して少し緊張していた。
「はい、絢子様……」
俺が答えると、今度は第一夫人の恵が微笑みながら加わってきた。
「それも当然よ。隼人の父上と母上を見れば、あなたがこんなに大きくなるのも納得ね」
恵は、市松と一樹の母で、俺にとっても優しく接してくれる存在だ。
彼女の言葉に、俺は少しだけ照れくささを感じながら、料理を口に運んだ。
ふと、絢子が俺を見つめながら、興味深げに話しかけてきた。
「そういえば、隼人。あなたは父上と母上の馴れ初めを知っているかしら?」
「馴れ初め……ですか?」
俺は驚いた。
父と母がどうやって出会い、結ばれたのか——そんな話は一度も聞いたことがなかった。
父・力三と母・菊は、それぞれ圧倒的な存在感を持つが、二人の出会いがどんなものだったのか、考えたこともなかった。
「たぶん、隼人にはまだ話していなかったでしょうね」
恵が微笑んで言った。
「ちょうどいい機会だから、教えてあげましょう」
絢子がゆっくりと話し始めた。
「あなたの母、菊様は、南方の大谷家の出身よ。大谷家は昔から強い血筋を持っていて、特に鬼人の血が流れているという噂があるわ。菊様はその中でも特に強靭な体を持っていて、彼女の力強さは誰もが認めるところだったの」
俺は母の姿を思い浮かべながら、話を聞いた。
確かに、母の巨体と怪力は尋常ではない。
それが家系の力だと知り、少し驚いた。
「郷田家と大谷家の同盟のために、政略結婚が行われたわけだけど……実は二人の出会いは少し特別だったのよ」
「特別、ですか?」
「そう。二人が初めて会ったのは、戦場でもなく、宴席でもなく……相撲大会だったの」
「相撲大会……?」
俺は目を見開いた。
まさか、父と母がそんな場所で出会ったとは思わなかった。
「ええ。菊様はその体格と怪力を活かして、大谷家の代表として相撲に出場していたの。対戦相手は次々に菊様に投げ飛ばされてね。そして、最終的に対戦相手として立ったのが、あなたの父上(力三)だったのよ」
俺は唖然とした。
父が……相撲で母と戦った?
そんな話、今まで一度も聞いたことがない。
「二人は激しい戦いを繰り広げたわ。菊様は圧倒的な力を持っていたし、力三様も同じくらい強かった。何度も押し返し合い、ついには……」
「ついには……?」
「力三様が負けたのよ。菊様に押し倒されてね」
「父さんが……負けた?」
俺は信じられない思いで絢子を見つめた。
父が、母に負けるなんて。
俺にとって父は無敵の存在で、誰にも負けることはないと思っていた。
「でも、その後、父上と母上は剣術の試合を行ったの。今度は逆に、力三様が菊様を圧倒したのよ」
今度は恵が話を引き継いだ。
「それで二人は互いに尊敬し合うようになり、その後、結婚に至ったの」
俺は驚きを隠せなかった。
母の強さは確かに知っていたが、父との出会いが相撲大会から始まり、互いに強さを認め合って結ばれたとは。
「……そんなことがあったんですね」
「そうよ。郷田家の血と大谷家の血が結ばれて、あなたが生まれたの」
絢子が微笑みながら言った。
その言葉を聞きながら、俺は両親の強さの源を少し理解した気がした。
彼らの出会いは、ただの政略結婚ではなく、互いの力を認め合った結果だったのだ。
「さすがは大谷家の血ね。隼人、あなたも強くならなければね」
絢子の言葉に、俺は静かに頷いた。
この家に生まれた以上、強さは避けられない宿命だ。
俺もいつか、父と母のように強くなれるのだろうか——そんな思いが胸に浮かんだ。
宴はそのまま続いていったが、俺の心には新たな決意が芽生えていた。
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