第7話 エリスさんを守らないと

 数日前のガビエル襲撃で思い知った。


 ハーレムどころじゃない。なんならエリスさんが最後の希望なのだと。


 最初、異世界転移してハーレムしたいとか言ってたが撤回しよう。


 俺はエリスさんを守りながら、インキュバスに堕ちた美少女達を救い出す! ついでに魔王をバチボコにしばき回す!


 だから強くならないと。


 今日も今日とて、人の何倍もある岩を持ち上げたり、走り込みして下半身をひたすらいじめた。下半身が貧弱じゃあなんもできないから、そこは地道に鍛え抜く。


 ただ、柔道や合気道はかける相手がいないと上手にならない。そして近づかないとそもそも技を掛けれない。


 だから自ずと下半身の瞬発力を活かしたドロップキックに頼るようになった。


 けどドロップキックじゃあ最初の不意打ち以外決まりにくい。


 今のままじゃあダメだ。誰か、一緒に稽古してくれる人を探さないと。


 エリスさんには技かけたくないしな。王様の御庭番でもあるから早朝から忙しいらしいし。


 あっ、そうこうしてるうちにエリスさんが帰ってき……えっ?


「どうしたんだエリスさん!? 顔面が、顔面が死んでる……!」


「だ、大丈夫デス……気にしないでください……」


「それ大丈夫じゃあない人が言うセリフ第三位だから! 水いる? 日本から持ってきた頭痛薬やら胃薬あるけど? それより、何か食べなきゃ」


「大丈夫デス……ありがとうございます。私のことより、王様からの伝言が大事です……」


「あ、ああ」


 エリスさんはゲンナリとした表情で語り始めた。


「王様が『うららかな季節を迎えた今日のこの頃、いかがお過ごしだろうか。先日、ワシの元に極悪非道な魔王から恐ろしい手紙が届いたのだ。その手紙の内容はまさに悪口雑言と言ったところ。我が右腕ガビエルをよくも倒したな等、お前の母さんデベソ等、ワシへの誹謗中傷で溢れておった。ワシは覚えのない濡れ衣を着せられた怒りで手紙を疾風の如く破り捨てた。この怒りを分かってもらうにはワシが即位する際の話をしなければならない』と。それから……」


「待て」


「はい……」


「あの王様のことだ。きっと今回も話が長くなるんだろ」


「そうですね。今回は五時間ほど、王様が即位した経緯とか王妃が不倫していた話をしていました……」


 五時間!? バッカじゃねえの?


 ああ、だからエリスさん憔悴しているのか。


 ていうか地味に気になるなぁ、王妃が不倫とか。後で詳しく聞かせて欲しいが、今は今だ。


「王様の話を出来るだけ手短に、要約して話してくれ」


「『これを機に冒険者カード取得してみたらいい。ソチは勇者かもしれんから』です」


 無駄話が過ぎるよ王様。絶対王妃が不倫した話とか要らんやん。三時間聞かされた時もしんどかったのに、エリスさんは五時間も聞いたのか。改めて、王様の話が無駄に長過ぎる。


「おいたわしやエリスさん」


「王様は無駄話が大好きですから慣れっこです」


 慣れっこにしては大分しんどそうじゃない。そう言いたかったものの、売り文句に買い文句に成りかねないので我慢した。


「それより、冒険者カードの件ですがこれを機に取ってみませんか?」



         ◇



「自身を客観視できるカード。と言えば聞こえが近いでしょうか。ギルドで発行してます」


 ギルド。そういえば仲間募集の張り紙を貼ったっきりだったあそこか。印象無さすぎて忘れかけていた。


「うむ、異世界転移物では定番なやつだな。実際自分のステータス気になるし、行ってみようか」


 そうと決まれば……エリスさんの方を振り向くと、彼女は足を小鹿のようにプルプルさせながら立ちあがろうとしていた。


「大丈夫? 立てる?」


「すみません……五時間近く座ってたので、足腰に来てて……」


「……おんぶするよ」


 こうして、エリスさんにナビを任せて俺たちはギルドへ向かった。

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