第8話 インキュバスドラゴン

「インキュバスドラゴンです!」


「インキュバス要素どこ!?」


 ギルドへ向かう道中、俺たちはドラゴンに襲われた。インキュバスとは名ばかりの赤い鱗に包まれたバカでかいドラゴンだった。


「レッドドラゴンだよね?」


「違います。インキュバスドラゴンです」


 エリスさんは王様の長話に付き合って戦闘不能。俺はエリスさんをおんぶしている状況。


 さらに言えば、ドラゴンが無茶苦茶強そう。ビル何階分ぐらいはありそうな図体で、この感じだと火だって吹くかもしれない。


 そこから導き出される答え。それは……


「よし、逃げるか」


 全力の逃亡である。疾風に吹かれた木の葉のように、身体をを斜めにして駆け出した。


 チラッと後ろを振り向くと、案の定ドラゴンが追いかけてきている。俺はカエルが飛び上がるが如く、目の前の森林へ飛び込んだ。


「ユウキさん! 詠唱が長かった故少し遅れましたが加護を付与します!」



◇エリスは聖女の加護を使った。武内祐希の運力が大幅に上がった。



「任された! エリスさんは俺が守る!」


「キュ~~~~~ン♡」



◇武内祐希に対するエリスの好感度が50上がった。95→145。好感度上限99限界突破。好感度のインフレが止まらない!



 念入りに森林を走り抜けてドラゴンを煙に撒こうとした。だが、それは失敗に終わる。ドラゴンは森林を無くす手段を持ち合わせていたのだ。


「待て待て待て! やっぱり火を吹いてきた! レッドドラゴンだよねやっぱり!?」


「いいえ。インキュバスドラゴンです」


「頑なだな!?」


 森林は風下に晒されてよく燃えた。必然的に俺たちは身を隠す場を失った。


 どうする。ドラゴンを投げ飛ばす……出来るわけがない!


 ならば、ひたすら退避してやる。どんなに惨めでも、無様な姿を晒しても全力で逃げてやるんだ!


 一念発起。俺は再び焼け焦げた大地をネズミが逃亡する様に駆けた。


 インキュバスドラゴンは一度狙いを定めたらどこまでも追いかける性なのか、ずっと追ってくる。


 悪あがきだ。振り向きざまに箸をドラゴンの目に目掛けて投擲した。威力が足らず、首筋に当たって失敗。


 次は美容用オイルを地面にばら撒いて滑らせる作戦。足元を濡らすには容量が足らずに失敗。


 ドライヤー。今の状況でドライヤーなんてなんに使えるんだよ!


 抑汗スプレー。香水。サプリメント。使えるものが無い!?


 打開策が見出せぬままついに崖まで追い込まれてしまった。もうヤケだ!


「エリスさん。聖女の加護は運が上がるんだよな!?」


「は、はい。ま、まさか……」


「そのまさか! 一か八か正面突破だぁぁぁぁ!」


 目標はドラゴンの懐。突撃ー!



         ◇



「ぜえ、ぜえ……死ぬかと思った……」


「私もあそこからドラゴンに突っ込んで生きて帰れると思ってませんでしたよ……」


 でも、生きてる。聖女の加護をかけてくれたエリスさん様々だな。



         ◇



「あの、もしかして今日も同衾するんですか……?」


「ああ、同じ過ちは繰り返さない主義だからな」


 ガビエル襲撃以降、俺は毎日エリスさんと同じ部屋で寝泊まりしている。理由は一つ。インキュバスは基本的に夜中襲うから。


 端的に言えば護衛ってやつだ。


 それにしても、エリスさんはワンコみたいな可愛げがある。愛でたい。許されるならヨシヨシしたい。


「あの、就寝する前に……手を繋いでくれませんか?」


「えっ? 手を繋ぐ? いいっすけど……」


 えっ? そう思っていたらエリスさんが手を繋いでほしいとねだってきただと!?


 なんだこの胸の高鳴りは?


 こう見えて俺は童貞である。いきなり手を繋ぐ? 繋いでいいものなのか……


「すみません……今日は色々ありましたので、生きている実感が欲しくて」


 ああ、そういうことなら。俺は力強くエリスさんの手を握った。


 一刻すると、エリスさんはパッと俺の手を手放してこう言い出した。


「勘違いしないでください。私、ユウキさんの事全然好きじゃありませんから!」


「お手」


「はい♡!」ニギニギ


「ヨシ! 寝るか!」


「何が『ヨシ』ですか!? よくないですよ!? 最悪です!?」


◇武内祐希に対するエリスの好感度が1下がった。

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