第4話

第1話のシナリオ



■場所(ホテル・夜)


<私には女の武器が一つもない>


真瀬風馬がベッドの上で藤本杏奈を愛撫している(本番行為はナシ)


<可愛い顔も たわわな胸も くびれた華奢な腰も 美しい脚線美も>


寸胴な身体の小さな杏奈の胸に触れる風馬の手。


<どれも持たない 女として最弱な私>


杏奈「はあ、だめ……そんなに、しないで」

風馬「我慢しないで。気持ち良い顔、俺に見せて」

耳元で囁く風馬に、ビクッとする杏奈。


<だけど私は今夜 30歳の誕生日にしてやっと手に入れた>


杏奈「っ、ああ……」

切ない顔で、覆い被さっている風馬の顔に手を伸ばす。


<美しい男>


頬に添えられた杏奈の手の上に自分の手を重ねて、熱っぽい眼差しで杏奈を見る風馬。


<貧相な私の身体を 懸命に愛してくれる男を>


風馬「可愛い……杏奈」

杏奈「あ……私、もう……!」

風馬「いいよ。もっと気持ち良くなって」


<そう お金と引き換えに>


■場面転換(オフィス・経理部・昼休み)


デスクで弁当を広げたまま赤くなってボーっとしている杏奈。そこに辻ひまりが笑顔で話しかけてくる。


ひまり「藤本さん」

杏奈「辻さん。どうしたの?」

ひまり「昨日の話、聞きたいと思いまして!」

杏奈「!」


杏奈は真っ赤になって慌てふためき、ひまりを引っ張って出て行く。


■場面転換(女子トイレ化粧スペース・昼休み)


ひまり「それで昨夜の『ラズベリー』はどうだったんですか?」


杏奈は期待に目を輝かせるひまりの全身を見る。


<可愛い顔 華奢な細い足 くびれたウエスト 豊満な胸>

<辻ひまり25歳 女の武器を全て持ってる>


憂鬱な顔をして、杏奈は化粧スペースの鏡を見る。


<藤本杏奈30歳 平凡な顔にAカップの胸 太めの足に寸胴な身体 6年間彼氏ナシの地味女>


<特別太ってるわけじゃないのに骨太……努力じゃ変えられない残念な体型>


杏奈はため息をつく。


ひまり「寂しい30歳の誕生日は回避できたんですか?」

杏奈「うん、辻さんに教えてもらったおかげで」

ひまり「良かった! 私も前から気になってて。女性用風俗『ラズベリー』」


杏奈は顔を赤らめる。


杏奈「辻さんには必要無さそうだけど」

ひまり「そんなことないです! 私もフリーですし、イケメンプロのテク興味あります。本番行為厳禁で安心ですし」


ひまりはニコニコしながら杏奈の顔を覗き込む。


ひまり「人気No.1のフウマは写真通りでしたか?」

杏奈「写真以上。背も高くてすらっとしてて、かっこよすぎて困ったくらい」

ひまり「彼、歴10年の古株らしいんですけど、副業でやってるみたいで。滅多に出勤しないから、幻の人気セラピストって言われてます。誕生日に予約取れたの奇跡ですよ」

杏奈「実は次の予約も取ったの」

ひまり「本当ですか!? 藤本さん予約上手すぎです!」

杏奈「予約に上手いとかあるの?」


杏奈は苦笑する。


<顔と写真で選んだ相手と 誕生日にワンナイト>


目を伏せる杏奈。


<私 どうしてこうなったんだっけ>


杏奈は過去を回想する。


■場面転換・回想(元彼の部屋・夜)


<6年前 勇気を出して初体験した彼氏>


訪れた元彼の部屋で、他の女と裸でベッドにいる浮気現場を目撃する杏奈。元彼が焦りながら言い訳する。


元彼「だっておまえ、まな板貧乳に寸胴でスタイル悪くて、顔も可愛くないし」


ショックを受ける杏奈。


元彼「そんな貧相な身体じゃ、満たされないんだよ」


杏奈は呆然としながら涙を流す。


<あの日から 私は自分が 自分の身体が大嫌いになった>


■場面転換・回想(ホテル・夜)


<そして独り身30歳の誕生日 有料の夜は 丁寧なカウンセリングから始まった>


風馬と杏奈がベッドで向かい合い、風馬はバインダーを手にカウンセリングをしている。


風馬「されて嫌なこと、して欲しいことはありますか?」

杏奈「よくわからなくて……特には……」

風馬「では、言葉遣いはどうしましょうか?」

杏奈「あの、普通で。私も普通に話すから……」

風馬「うん、わかった。じゃあ最後に、セラピストに一番求めることは?」

杏奈「昔、恋人に身体を貶されてから、自分に自信が持てなくて」


<お金を払った この人は私を 私の身体を拒絶しない>


杏奈は自分の上着に手をかけた。


<理由が無いと大胆になれない 拗らせた地味女>


裸になった杏奈を風馬が驚いて見つめる。


杏奈「こんなつまらない身体だけど、受け入れて、愛して欲しい」


泣きそうな杏奈の顔を見て、風馬が杏奈を抱きしめる。


風馬「大丈夫、綺麗だよ」


杏奈の耳元で囁く。


杏奈「っ……!」

風馬「余計なことは考えないで。今夜は、俺のことだけ考えて」


風馬は杏奈にキスをする。


風馬「好きだよ……」


■場面転換(女子トイレ化粧スペース・昼休み)


<その後はもうわけがわからなかった>


赤くなってぼーっとする杏奈。


ひまり「で、どんな流れだったんですか?」


杏奈はハッと我に帰る。


杏奈「お風呂で全身洗ってもらって、ベッドでアロママッサージしてくれて……」

ひまり「えっちな感じの?」

杏奈「最初は普通のマッサージだったけど、徐々に……」

ひまり「上手かったんですか?」

杏奈「私あまり経験無いし、比較対象が少ないんだけど……多分、かなり上手いんだと思う」

ひまり「きゃー! いいなー!」


赤くなったひまりが頬に両手を当てて喜ぶ。

杏奈は切ない眼差しをした。


杏奈「でもそんなことより何より、すごく優しかったの」


<満たされた 身体だけじゃなく心が 本当の愛じゃないってわかってるのに なんて虚しい女なんだろう>


■場面転換(オフィス・廊下・午後)


<13時からコンサル会社の社長さんと打ち合わせ。あと5分>


資料を持って慌ただしく応接室に向かう杏奈。


佐々木部長「藤本さん、資料は全部準備できてる?」

杏奈「はい、大丈夫です佐々木部長」

佐々木部長「じゃあ行こうか」


■場面転換(オフィス・応接室・午後)


<えっ……!?>


応接室で、部下の水口と共に椅子から立ち上がった状態で、入ってきた佐々木部長と杏奈を出迎える風馬。

驚愕する杏奈に、風馬も驚いた顔をしている。


<うそ……>

<昨夜ホテルのベッドで さんざん見た顔>


佐々木部長がテーブルを挟んで風馬の前に立ち、杏奈はテーブルを挟んで斜め前の位置に立つ。

水口は風馬の様子を伺い、杏奈をチラ見する。


微笑みを浮かべて、佐々木部長に名刺を差し出す風馬。


風馬「真瀬コンサルティング株式会社、代表取締役の真瀬です。よろしくお願いします」


部長に続いて風馬から受けとった名刺を、恐る恐る確認する杏奈。


真瀬コンサルティング株式会社

代表取締役・公認会計士・税理士

真瀬風馬


<肩書き多い……ってそっちじゃなくて> 


杏奈の名刺を持つ指先が震える。


<真瀬、風馬フウマ……! そっくりさんじゃない、やっぱり本人!>


顔を上げると、口元に笑みを浮かべる風馬と目が合う。


杏奈「!」


風馬と水口、佐々木部長と杏奈の四人で向かい合って座り、打ち合わせに入る。


佐々木部長「ライバル社の急成長で、我が社は業界二位に転落しました。何とか巻き返しをと思いまして」

風馬「弊社にお任せ下さい。先ずは御社の経営状態のわかる……」

杏奈「資料はこちらです」


スッと資料を差し出しながら風馬を見つめる杏奈に気づき、意味深な笑みを返す風馬。


杏奈「……!!」


杏奈は赤面する。


■場面転換(オフィス・経理部・午後)


<何なの あの意味深な微笑み>


困惑しながらコピー機で資料をコピーする杏奈。


<対応も任されちゃったし 気まずいよ……>


■場面転換(オフィス・会議室・午後)


杏奈「失礼します」


ノックして会議室に入った杏奈が、会議室を借りて仕事している風馬に資料を渡す。


杏奈「頼まれた資料、これで大丈夫でしょうか」

風馬「ああ、ありがとうございます」


杏奈に手渡された資料を、爽やかな笑顔で受け取る風馬。


<うう やっぱり好みの顔 かっこよすぎる>


杏奈は赤面しながら困惑する。そんな杏奈をじっと見つめる風馬。


風馬「体調、悪いんですか?」

杏奈「えっ?」


風馬は意地悪な薄笑いを浮かべる。


風馬「なんだか顔が赤いから」

杏奈「! だ、大丈夫です、私は元気いっぱいですからご心配なく!」


応接室を飛び出す杏奈。


■場面転換(オフィス・会議室の扉廊下側・午後)


<動揺しすぎて変なこと言っちゃった>


扉に背中を預ける杏奈。


<何を考えてるんだろう 気まずくないのかな>


■場面転換(オフィス・会議室・午後)


風馬「元気いっぱいって」


杏奈が出て行った扉を見ながら、おかしそうに笑いを漏らす風馬、彼を困惑気味に見る水口。


水口「真瀬さん……?」

風馬「いや、面白い人だなって」


■場面転換(オフィス・経理部・夕方)


17時を指した時計


杏奈「やっと帰っていった、疲れた……」

ひまり「お疲れさまです。怖い人だったんですか?」

杏奈「怖いっていうかやり辛くて」

ひまり「でも若い社長さんで、イケメンって聞きましたよ」


<またこの子は情報が早いな>


ひまり「結婚相手に最適ですけどね」

杏奈「いやそれはちょっと」

ひまり「え、どうしてですか?」

杏奈「…………」


<言えないよね 昨日のセラピストさんだったなんて>


杏奈はスマホを握る。


■スマホの画面表示


『フウマ』と書かれた風馬のプロフィール写真


予約をキャンセルします。

よろしいですか?

はい いいえ


はいを押して、フウマの予約をキャンセルする杏奈。


■場面転換(駅前の歩道・夜)


杏奈「あの人、明日も来るんだよね。本当気まずい」


ため息をついた杏奈は、驚いた顔で待ち伏せしていた風馬を見る。風馬は爽やかに微笑んだ。


風馬「お仕事おつかれさま、杏奈・・

杏奈「な、なんで」

風馬「昨日住所は教えて貰ったし、君はこの駅で降りるかと思って」

杏奈「何の用ですか?」

風馬「冷たいな。昨日はあんなに激しく求めてくれたのに」

杏奈「なっ……!」


杏奈は赤面する。


風馬「どうして『フウマ』の予約、キャンセルしたの?」

杏奈「どうしてって、会社で会うのわかっててその……あんなことするの、もう無理だからです」

風馬「あんなことって?」


面白そうに笑む風馬。

ムッとした杏奈は風馬の横を通って帰ろうとする。


杏奈「からかうつもりなら帰ります」

風馬「待って」


杏奈の手を引いて引き留める風馬。


風馬「君がもう予約を入れないことはわかってたよ。だからここで待ってた」

杏奈「えっ?」

風馬「俺の事情を知っててお客さんじゃなくなった君にしか頼めない、お願いがあるんだ」

杏奈「私にしか頼めないお願い……?」

風馬「俺、『ラズベリー』に勤務して長いんだけどね。毎回我慢して、自分を抑え込んできた副作用というか……どんな女性の身体を見て触っても、一切興奮しなくなってしまって」

杏奈「そ、そうなんですか」


照れを隠しきれない杏奈に対し、切実な表情の風馬が、両手で杏奈の手を握りしめる。


風馬「だから君に、俺を欲情させて欲しいんだ」


杏奈は目を丸くして呆然とする。


杏奈「ええ……?」


(第1話 終了)

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