第六章 6
ザ……
遠くから、波の音が聞こえる。
ここはどこだ。俺はなにをしている。
ザ……
あれは波の音だ。全身が痛い。ガディ、ガディはどこだ。
「……ガディ、生きてる?」
思わず、そう相棒に聞いた。彼はいつも側にいて、こうこたえるはずだ。
「……いってえ。生きてるよ」
いるのか。生きてるのか。
どこかで誰かが起き上がる気配がした。
「どこだジェラール。……いたいた。おい、立てるか」
足音。目を開けると、見慣れた顔がそこにいた。
「お互いひどい傷だな」
ガディはジェラールに手を貸して、顔を顰める彼を助け起こした。
「……他のみんなは?」
「じいさんがあっちにいる。リディアは……あそこだ」
ヴァリが歩いてくるのが見える。皆無事だ。
しかし、ラツェエルの姿が見えない。
「ジェラール。無事だったのね」
リディアが走り寄ってきて、ジェラールを覗き込む。
「リディア、大丈夫でしたか」
ヴァリも、リディアと無事を確かめ合って微笑んだ。
「……ラツェエルは?」
リディアは青くなって辺りを見回した。
「どうしていないの?」
そして信じられないように首を振って、
「そんな……そんなの」
と言いながらもう一度周りを見て、リディアはもう一度言った。
「私、この辺を見てくる」
と走り出した。
ジェラールはため息まじりでその背中を見送った。
「お前、いいのかよ」
「よくはないさ。ただ……」
「ただ?」
「ただ……」
ただあの時、俺とあいつは一つだった。確かに一つになって、事を成したような気がする。
しかしその言葉はひどく曖昧で、口にしたら今踏んでいる砂のようにもろく崩れてしまいそうな気がした。
「ジェラール」
あちらで、リディアが叫ぶ声がした。
「こっち」
手を振っている。
「来て、早く」
ガディと顔を見合わせた。
「行きましょう」
エトヴァスもついて来て、リディアのいる方向へ行った。
波の狭間に、ラツェエルが打ち上げられていた。
「……」
ジェラールは信じられない思いで彼女の側に近寄った。そしてその腕を取った。温かい。 生きているのだ。
ラツェエル、そっと呼びかける。二度三度名を呼ぶと、彼女は瞬きを繰り返したのちに目を開けた。
「……」
すみれ色の瞳に、自分が映っている。
「起きたな」
「……ジェラール」
まぶしいのだろう。ラツェエルはゆっくりと瞳を閉じて、それからもう一度目を開けた。
「……生きてるの?」
「ああ。生きてる」
「そう……」
なぜか残念そうにそう呟くと、彼女は全身の痛みに顔を歪めながら起き上がった。
「帰ろう」
ジェラールは手を差し出して、ラツェエルを助け起こした。
「帰ろう。お前の故郷へ」
世界樹の島へ。
賢者と世界樹を復興するために。
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