第六章 4
西の果てに一番近い国、レク=ルニエダに行き、そこで旅支度を整えた。
この世で一番複雑な迷宮、と本にあるからには、どんなものなのかは予想もつかない。 万全な準備が求められた。
いよいよ明日出発という夜、薄暗い部屋のなかでジェラールとラツェエルは静かに向き合っていた。
二人の青い目とすみれ色の目が、互いをじっと見つめ合っている。やがて二人はどちらからともなく歩み寄ると、静かに抱き合い、そして唇を重ね合った。初めは軽く、そして次第に食むように、熱く。
ジェラールのくちづけはそれだけでは飽き足らず、唇から耳へ、首筋へ、肩へ移動していき、胸に吸いつくと、彼はもう一度ラツェエルの唇を貪った。それから、彼は狂ったようにラツェエルを抱いた。
「ジェラール……ジェラール……」
「離したくない」
「ジェラール……」
「俺のものだ」
涙が、ラツェエルのすみれ色の瞳からとめどなく流れた。
「ジェラール……」
「もう黙って」
長い長い間、二人は激しく抱き合った。それは永遠のようでも、あっという間でもあった。
それが終わって、二人は静かに息を合わせた。
ジェラールの胸に下げられた、かつてあの老人から贈られた赤い石の首飾りが、その呼吸に合わせて揺れている。
「俺、この石をお前だと思ってずっと下げてるよ」
うん、その腕のなかで、ラツェエルはこたえる。
「私も、この青い石とあなたにもらった指輪、あなただと思ってずっと持ってる」
ぽろ、と涙が一筋流れた。
それを見られたくなくて、その胸に顔をうずめた。
「あなたの代わりだと思って、ずっとずっと持ってる」
唇だと思って。腕だと思って。声だと思って。ずっとずっと、そう思って、持ってる。 泣いていると思われたくなくて、声を殺して泣いた。
ジェラールはそのラツェエルの頭を、黙って抱いていた。
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