第六章


 ラツェル様、我らのために、一緒に来てくださいますね。

 賢者のために、立ち上がってくださいますね。

 世界樹の復興に、手を貸してくださいますね。

 ラツェエル様、我々と共に、来てくださいますね。

 あなた様は、我らの最後の希望なのです。

 ラツェエル様、どうか、一緒に来てください。

 あなた様は、最後の賢者なのです。

 ラツェエル様、

 ラツェエル様、

 どうか、――どうか

 やめて。私を追い込まないで。私は逃げない。私はどこにも行かない。だから、私を追いやらないで。私を責めないで。お願いだから、私を追い詰めないで。

 あなた様は最後の賢者なのです。

 知ってる。知ってるわ。だから、やめて。これ以上言わないで。

 世界樹を復活させて、世界に光を取り戻してくださいますね。

 賢者たちのために、力を貸してくださいますよね。

 わかった。わかったから。やる。やるわ。だからもう、言わないで。許して。私を許して。

 ラツェエル様、

 ラツェエル様、

 お願いです、どうか、――どうか

 ラツェエル様

 ラツェエル様

 やめて――やめて

 お願いだから、やめて。

 ……ェエル

 やめて。やめて。やめて。やめて。

「ラツェエル!」

 ラツェエルははっとして、目を開けた。目の前ではジェラールが自分の肩を掴んでいる。「あ……」

「どうしたんだ。うなされていたぞ」

 辺りを見回すと、まだ夜のようである。夜中だ。脂汗をかいている。

「……」

 夢か。夢だ。ラツェエルは起き上がって、枕元の水に手を伸ばした。

 ジェラールが心配そうに水を飲む彼女を見ている。

「どうかしたのか。なにか、寝言を言っていたが」

「……なんて?」

「許してとか、やめてとか」

「……そう」

 ラツェエルはグラスを置いて、少し沈黙した。

「どんな夢だ?」

「え?」

「どうせ、悪い夢だろう。どんな夢だ」

「……」

 ジェラールには、お見通しだ。咄嗟に言い逃れができなくて、こんなことを言った。

「たぬきに追いかけられる夢」

「おこるぞ」

 言葉が他に、出てこない。

 ジェラールはそっとラツェエルの冷えた肩を抱いた。

「俺がついてる。たぬきなんて、怖くない」

「……うん」

 そして二人で、横になった。

 彼の胸に抱かれていると、その鼓動が耳に響いた。そうしていると、安心して、悪い夢など忘れられるようだった。

 そうね。こうやって二人で寝られるのも、あと少しだものね。味わっておかなくちゃいけないものね。

 とろとろと眠りに落ちながら、そんなことを思った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る