第四章 5

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 宮殿は落ちた。

 女王は抹殺され、代わりに彼女の従姉妹が隣国から招聘されて即位した。リグ=ミルリルはまた平和な国に戻るだろう。

「どうしちゃったっていうの?」

 宿に戻り、仲間たちに事の次第を尋ねられたラツェエルはあの夜のことを話した。

「あの晩、ヴィクトリアは姿のよく似た私に話しかけてきた。お金を払ったのに家に帰してくれなかった男たちに殺されて、湖に沈められたって。それを聞いて思わず同情しちゃって、それで乗っ取られて、気がついたら身体を受け渡してた」

「それで、ヴィクトリアになっちゃってたの?」

「うん」

「なぜ彼女は、そんなことをしたのでしょうか」

「この世界に心残りがあったんだと思う。婚約者に会いたい、会って気持ちを伝えたい、愛してるって言いたい、言い足りない、って」

「そんな時あの女王が暴走して、捕まってしまったというわけか」

「そう。それで、ジェラールが女王と寝るって聞いて、それを聞いて、そんなのいやって思ったら、ヴィクトリアを押しのけて声が出てた」

 ジェラールとラツェエルは微笑み合った。

「お熱いこった」

 ガディがぱたぱたと顔を仰いだ。

「それに、女王は気になることを言っていた。十八の生娘の生き血を浴びると、ずっと美しくいられるとあのお方が言っていた、と」

「あのお方、とは誰の事じゃ」

「聞こうとする前に殺された」

「ふーむ」

 エトヴァスが難しい顔をして、腕を組んでしまった。

「そんなことを吹き込むのは、人間とは思えません」

「そうね。尋常な考えではないわ」

「魔女、だろうな」

「一体どこにいるのかしら」

「それも調べねばなるまいのう」

 しかし、とエトヴァスは腕をほどいた。

「今日のところは一旦休もう。ラツェエルもジェラールも無事に戻ってきて、みな疲れている。寝るとしよう」

 二階に行きながら、ジェラールはラツェエルに尋ねた。

「お前、もし俺があの女王と寝ることになってたらどうしてた?」

「え?」

「あの女を抱くことになってたら、どう思う?」

 ラツェエルは少し視線を落として、それから彼を見た。

「それはやっぱり嫌だけど、でも私を助けるためにあなたが決めたことでしょ。あなたが決めたことなら、それを尊重する」

「そうか」

 うん、ラツェエルはうなづく。その横顔を見て、ジェラールは言う、

「まあでも、抱こうと思っても抱けないと思うけどな」

「え?」

「なんでもないよ」

 その分、今日は思う存分この愛しい女を抱こう――ジェラールは階段を上がりながら、そんなことを考えていた。

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