第75話

そして、どうしてこうなったんだろう。


 ギルバートさんに監視されることになり、彼とゲストルームの一室に移動すれば、次々と詰めかける見知った顔。彼らは一様に私を守ると言い、今や私を取り囲んでいる。


「ほら、ミナ。美味しいケーキだよ。あーん」


 ケーキをフォークに乗せて、私の口に入れようとするクリス。と、ちょっと気弱な双子の片割れ、イヴがおずおずと口を出す。


「クリスティ様……ミナ様困っておられますよ」

「そうですよ、イヴの言う通りです! 子供じゃないんですから。ミナ様どうぞ。フォークです」


 イヴと同じ顔の兄・アダムが私に差し出した新しいフォークを、クリスがサッと取り上げた。


「ダメだよ、ボクが作ったケーキなんだから、ボクが食べさせてあげるの! ミナ、あーんして?」

「あ、あーん……」

「ミナ様、レディが人前で大口を開けるなんて、はしたないですよ。わかりますね?」


 すかさず口を挟んだノアの微笑みから、ものすごい圧を感じて、私は開けかけた口を慌てて閉ざす。と、イライラとソファに座っていたレオンが、額に青筋を立てながら、痺れを切らしたように叫んだ。


「てめえら、俺の女に群がってんじゃねえぞ!」

「俺の女って何それ。ミナはモノじゃ無いんでしょ! レオン兄さんってひどいよね、ミナ。ボクを選んでくれたら、お姫様みたいに可愛がってあげるから安心して……?」


 私に顔を寄せて、いつもの色仕掛けを始めたクリスの目を、アダムが背後から両手で塞ぐ。


「やめてくださいよクリスティ様! そんないかがわしい色目で見ては、ミナ様が妊娠してしまいます!」

「は? ボクは何もしてないよ、そんなわけな……あっ、何するのイヴ!」


 クリスの手のフォークを口に入れて、イヴがケーキを頬張った。さすが双子。見事な連携プレーだ。


「もぐもぐ……ミナ様困っておられますから」

「ちょっと、出してよイヴ! せっかくボクがミナのため、愛情込めて作ったのにィ!」


 私を取り囲んでわちゃわちゃと騒ぐ三人、それを不自然なほどに完璧な微笑みで見守るノア、イライラしているレオン。


 と、ギルバートさんが、視線を落としていた書物をパタンと閉じた。

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