6人の吸血鬼に囲まれて
第74話
「女王陛下は、私に異界人を見張って、危険がないか確かめて来いと命じられた」
応接室のソファにゆったりと腰掛けて、ギルバートさんが言った。その正面で私を隣に座らせて、油断なく睨みつけるレオンを、彼は軽く笑って流す。
「そんなに警戒するな、レオン。神に誓って、勝手にミナを連れて行ったりしない。私が彼女に危険性が無いか確かめて納得できれば、レオンに預ける。それがこちらの譲歩だ」
淡々と話すギルバートさんは、近衛兵の制服ではない。黒いシャツに赤いリボンタイ、銀がアクセントに入ったブーツ。モノクルに、無造作に束ねた銀の長髪。少なくとも戦闘態勢では無さそうだけど……。
レオンは探るように、ギルバートさんの赤褐色の瞳を見た。
「神に誓われても、生憎俺は神を信じちゃいない。……帰れ、と言ったら?」
「私を追い返すか? 招致にも応じない、使者も私も全て追い返すのでは、いくらなんでも女王陛下も黙っていない。その場合、必然的にミナに嫌疑がかかる。私は再び、全力でミナを連れ去ることになるだろう」
チラリと見られて、私は萎縮した。ギルバートさんは淡々と続ける。
「それにあまり勝手をしていると、吸血鬼の迫害に繋がりかねない。おまえたちは良くても、リドーラに暮らす民はどうなる。女子供もいるんだぞ。私が吸血鬼の身で、わざわざ人間の王に仕えている理由を少しは理解しろ」
「わかってるよ、同胞達のため、だろ。おまえはいつもそれだ」
レオンは忌々しげに吐き捨てて舌打ちする。と、メイド姿のクリスが、ガチャンと音を立てて、ギルバートさんの前にティーカップを置いた。可愛らしい瞳をキッと険しくして睨む。
「次は負けないから」
「クリスティ、おまえもか。兄弟三人揃ってミナに執心とはな。ミナ、おまえは男を惑わす大淫婦か? それにしては色気と頭のネジが足りないようだが」
おかしそうに笑うギルバートさんに、レオンがテーブルにバンと両手をついて立ち上がった。
「いい加減にしろ。ミナを侮辱するなら殺すぞ。色気は無いことはない。頭のネジが足りないのは認めるが」
「そうだよ、色気は皆無に見えるけど、そこそこあるよ。それにちょっとおバカなところだって、ボクはミナの魅力だと思ってる!」
クリスも眉を釣り上げて声を上げる。なんだろう、庇われてるはずなのに、何故か虚しいんだけど……。ギルバートさんは納得顔で頷く。
「それはそうだな。ミナの同意が得られれば、私が娶って連れ帰ってもいい。女王陛下も、私が夫として四六時中見張るなら納得されるだろう」
「えぇっ!?」
驚いた私は素っ頓狂な声をあげてしまった。フッと笑ったのはギルバートさんだけで、レオンやクリスは険しい表情。ノアは無表情だけど、目が据わってる。応接室に不穏な空気が流れた。
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